18 願望
あれから半月ほど経過。
様子見で大人しくしていたけど、特に厄介ごとが襲ってくるでも無く、
オーバンの街でのんびりと採取やらお使いやらをこなす毎日。
もちろん普通のお宿にお泊まりしてますよ。
「おじさん、今日は釣りしないの?」
おはよう、ヴォル君、今日も元気だね。
ヒルデュ河での釣りは、残念ながらマーリエラさんから禁止されちゃったんだよ。
「かっぱのおねえさんたちのハダカばかり見てるからだよ」
「じごーじとく、だよね」
ずいぶんと難しい言葉を知っているんだね、流石はティルハシエル院長さん、教育熱心ですな。
「違うよ、母ちゃんじゃなくてリルから聞いた!」
リルルリエルちゃんは、まだちっちゃいのに賢いね。
「うん、孤児院でイチバン勉強ができるんだよ」
「大きくなったらマーリエラおねえさんみたいになりたいって言ってた」
そっか、将来はケモミミ標準装備なマーリエラさんか……
それって最強だよね、きっと。
「……旅支度してるって商店街で聞いたけど、どっか行っちゃうの?」
うん、そろそろ次の街を目指そうかなって。
残念ながらここでは願いが叶いそうにないし。
ってか、獣人さんたちのガードは予想以上だったよ。
孤児院の子たちならモフらせてくれるだろうけど倫理的にアウト過ぎるでしょ。
いかにアレなおっさんでも、そこまでこじらせてはいませんから。
「あきらめたらそこで試合終了って、孤児院にある絵本に描いてた!」
おっと、どなたかは存じませんが布教活動に熱心ですな。
まあ、それで金儲けしようなんて考えてないならグレーゾーンちっくにセーフだよね、異世界だし。
「今度はどこ行くの?」
どうしようかな、ヴォル君のオススメとか、あるかな。
「南のキルヴァニアには、ナゾのコダイイセキっていうのがあるんだって」
「宝箱とか、いっぱい落ちてるかも!」
ほう、謎の古代遺跡。
採取専門冒険者の血が騒ぎますな。
まあ、遺跡の守護者なんかと闘わないことが大前提ですけどね。
でも、古代遺跡ってことは、ノラゴーレムの素体とかも落ちてるかも。
深入りはヤバそうだけど、ちょっとくらいなら覗いてきてもいいよね。
「では早速、キルヴァニア行きの準備を」
おっと、寄り添うのは構いませんが、気配を消すのは勘弁ですよ、マーリエラさん。
「あの国とエルサニア王国とは、未だ正式な国交は結ばれておりません」
「キルヴァニア王都にある巡回司法省キルヴァニア支部からある程度のサポートは得られますが、潜入行為自体に覚悟が必要です」
えーと、こっそり潜入ではなく、まったり観光の方向で。
商人の行き来はそれなりに頻繁みたいですし、いつもみたいに幌馬車便乗での観光目的なら問題無いですよね。
「どっか行っちゃう前に、ちゃんと孤児院に寄ってね」
「約束だよ!」
おう、みんなによろしくっ。
走って行っちゃったよ、いつも元気だよね、ヴォル君。
「ああいう息子が欲しいというおねだりと判断」
「私の方は、息子でも娘でも」
えーと、保留ですね。
旅暮らしを続けるなら、身軽であるべきです。
子供に負担をかけながらの旅なんて、絶対に嫌ですから。
「子供が負担と言わないところが、ずるいです」
はい、いい歳したおっさんは、お歳頃乙女を手玉に取るのも朝飯前ですよ。
「早くごちそうさまされたいです……」
あー、あの宿で使われていたえっちっち魔導具の効果が抜けきっていないみたいですね。
完治するまで旅はお預け、かな。
「いじわる……」
ーーー
そんな感じの、ふたり暮らし。
思っていたより楽しいけど、想像以上に大変でもあり。
それでも嫌じゃないのは、マーリエラさんだから、かな。
俺みたいな残念なおっさんをここまで慕ってくれているし。
あれ?
俺、もしかして惚れちゃった?
……なんだか、司法省のお偉いさんたちの思惑通りって気がするのがシャクだけど、
こっから先どうするのか、決めるのは俺自身ですから。
俺の固有スキルが丸裸にされるのが先か、
俺自身がベッドで丸裸にされるのが先か。
アレなおっさんの冒険な日常にご期待ください、ってな感じで。
あとがき
新章の主人公ノアルさん、
今のところ、年齢・来歴・能力など諸々あやふやで実力が読めない、
アレなおっさん(自称)ですが、
とりあえず、若い頃の古参キャラたちと仲良くしていただければ幸い。
いわゆる過去編ですが、大きな矛盾が生じない程度に自由にぶらり旅して欲しいです。
つまりは、これからもこんな感じでよろしくお願いします。




