14 諸事情
オーバンの街へのふたり旅は、それなりに順調。
相手が歳頃の娘さんなのでいろいろと気を使ったりするけど、
そもそもマーリエラさんは俺なんかより強くて賢い人なので、逆に気を使われちゃったりするわけで。
「こう見えて、こういう旅は訓練施設での実技試験以来なので緊張しています」
「冒険者としての立ち回り、いろいろと教えてくださいね」
はい、せっかくのふたり旅ですし、安全第一はもちろん、楽しみながら行きましょう。
そういえば、ケルミシュ村でのギルド業務の引き継ぎとかは?
「世間的には、私はノアルさんと駆け落ちして村を飛び出したことになっています」
「今、村に戻ると、みんなから手荒く祝福されるかもしれませんね」
えーと、もうケルミシュ村には行けなくなっちゃいましたね、そんな状況だと。
「私がパートナーではご不満ですか……」
いえ、そうではなく……
いかに職務とはいえ、駆け落ち設定って本当に必要だったのですか?
「つまり、ノアルさんは熟女好み……」
違いますってば、いえ、熟女も好きですけど、
って、そうじゃなくて。
「冒険者なら、こういう組み合わせのパーティーも普通ですよね」
まあ、マーリエラさんの方で問題無いようでしたらこのままでもいいですけど。
そもそも、監視される側の俺としてはどうしようもないことですし。
でも、本当に俺の固有スキルの詳細が判別するまでは、ずっとこんな感じなんですか?
「末永く、お供させてくださいね」
……お仕事、頑張ってください。
えーと、あのバカ息子の処遇とかは。
「村長と用心棒、あのふたりは王都で裁かれることとなりました」
「元々司法省でも、あの村の問題は把握しておりましたが、実力行使などで実害が出るまでは要観察という指示もあって対処が遅れてしまいました」
「ノアルさんにご迷惑をおかけしたこと、お詫び申し上げます」
マーリエラさんのせいではありませんから。
ケルミシュ村の人たちがこれから穏やかに暮らせるのであれば、めでたしめでたし、ですよね。
「ちなみに、父親の元村長はお咎め無し、とのことです」
「村の方たちの嘆願もあったそうですが、今回の件に関与していない人まで罪に問われなかったことが救い、ですね」
大変ですね、巡回司法官のお仕事って。
潜入捜査とか、悪党のやらかしの後始末とか、
その上、こんなおっさんとふたり旅しなきゃならない職務って。
「これは私自身が望んだことですから」
「あのまま村で潜伏任務継続は少々退屈でしたし、経費でのんびり旅が出来るなんて、役得ですよね」
なるほど、納得。
ではこれからは、マーリエラさんのご要望のままにぶらり旅をする方向、ですね。
「もちろん、ノアルさんのお気に入りの場所に腰を落ち着けて暮らすことも、何も問題ありませんよ」
「その場合は滞在場所での登録手続きとの兼ね合いもありますし、正式な夫婦としてしっかりと寄り添って過ごすことになりますね」
えーと、流石にそれはまずいでしょ。
職務の範疇を超えちゃってますって、そんなの。
「それだけの覚悟を持ってお供していること、ご理解ください」
「今回の任務でのノアルさんのパートナー選定は、司法省内でもかなり競争が激しかったので、射止めた私を労っていただけると嬉しいです」
なんですか、それ。
こんなアレなおっさんの、何がそこまで求められてるんです?
「将来性、でしょうか」
「未知の固有スキルを隠し持った勇者候補との世界を巡る旅、ワクワクしますよね」
えーと、どっからどう見ても冴えないおっさんだってこと、忘れてません?
「とてもやりがいのある任務です」
「いろいろな面で」
……頑張ってください。
それと大事な質問なんですが、もしかして、司法省本部とリアルタイムでの相互連絡が可能な携帯型通信魔導具とかをお持ちでは?
「職務上の秘匿事項であり、乙女の秘密でもあります」
「ノアルさんが、司法省と今よりも深い関係性を持つか、または、私と密接な個人的繋がりを持つか」
「どちらかに踏み出していただけると、より詳細な情報が開示される可能性が高まります」
「どうなさいます?」
えーと、保留で。
そういうことをじっくり考えるための旅でもあるのでしょうね。
「ちなみにご希望の呼び名はございますか」
「駆け落ちという事情を考慮しますと、夫婦であることをより強調すべきかと」
えーと、出来ればそういうのは後付けしないで欲しかったのですが。
とりあえず、ノアルさん呼びが無難かと。
俺も、マーリエラさんとお呼びします。
「無難というより無粋です……」
俺たちの旅は始まったばかり、ですよ。




