13 種明かし
マーリエラさんは、巡回司法省所属の凄腕潜入捜査官、かな。
巡回司法省っていうのは、国を跨いだ活動を許されている大規模警察組織。
基本的には配属先の国の法を遵守するけど、状況次第ではもっとデカいチカラも行使出来る大組織。
表立って派手に活躍している捜査官以外にも、あちこちの街や村に潜入捜査官が潜伏していて、いざという時に対処しますよ、と。
「はい、大体合ってますよ」
はい、了解です。
でも、こんなドロップアウトしたおっさんに、付きっきりの監視は必要ですか?
「ノアルさんの固有スキルが全く詳細不明である限りは、国家レベルでの潜在的な脅威とみなされ監視は続行されます」
「個人的には、今日の立ち回りで魅せた技も監視対象ですね」
あー、あれですか。
あれは平たくいうと、『鑑定』『翻訳』『収納』の合わせ技です。
俺の固有能力を組み合わせた結果の、俺専用に特化した技ですので、説明は出来ますが指南とか継承とかは無理かと。
「ぜひ、お教えください」
はい、それでは……
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まずは『鑑定』ですが、基本的には広範囲探知能力です。
情報の質はそれなりですが、有効範囲だけはかなり広げられます。
ですが、先程のような闘いの際は、意図的に範囲を絞ります。
そうすると探知範囲内で何が起きているかをより詳しく知ることが出来るようになります。
具体的には、視覚外にある槍の穂先の位置・挙動なども分かるようになりますね。
次に『翻訳』ですが、実は相手の考えを『翻訳』して理解する、
いわゆる読心術的な使い方が出来るんです。
さっきのような闘いで、相手の行動が動作前に分かるようになるんですね。
要するに、なんちゃって未来予測的な使い方が出来るってことです。
つまり、『鑑定』の範囲探知と『翻訳』の未来予測とを組み合わせると、あんな感じの立ち回りも出来るってことです。
あと『収納』ですね。
実は結構な危険ブツなんですよ、俺の『収納』
小銭少々でいっぱいいっぱいになるくらいに容量が小さいのですが、
いざという時は制限を解除して、武器として使います。
例えば槍の穂先を入れようとすると、普段なら先っちょしか入りません。
これが制限解除した状態だと、無制限に飲み込めるようになるんです。
でもそれは『収納』容量が増えたんじゃなくて、飲み込んだモノが消滅しちゃう状態なんですよ。
俺は"ゴミ箱モード"って呼んでますが、入れたモノが取り出せないんだから『収納』じゃなくてゴミ箱ですよね、これ。
「他の召喚者の方たちとはひと味違う"3点セット"」
「でも、秘密はそれだけでは無いのでしょう」
あー、バレバレですね。
実は"3点セット"をまとめて荒事モードに切り替えると、意識が飛ぶんです。
俺はその状態を、"スイッチ"を入れるって呼んでますが。
さっきも、気が付いたらあの男が倒れていて、
もしかしたら『収納』で殺しちゃったかもって、ちょっと焦りました。
「つまり、あの達人の状態は全くの無意識、いえ、自我の無い状態なのですね」
そうみたいですね、もちろん自我が無いから殺人も正当化されるなんて思ってませんよ。
どういう状況でも、俺がしでかしたことの責任は俺のものですから。
「そうですね、例えば、意識を失うほど泥酔している人でも行動の責任は問われるべきでしょう」
言い得て妙、ですね。
まあ、そんな感じでいろいろと厄介な能力なので、普段は極力荒事に巻き込まれないよう大人しくしているってわけです。
「なるほど、それで"採取専門冒険者"、なのですね」
はい、その節はお世話になりました。
「とても残念です、ケルミシュ村から離れたので、ざらめ蟹ともお別れですね」
……どんだけ蟹好きなんですか。
そんな感じで、突然のふたり旅。
なんだか、さざなみ十丈が小波百丈くらいになりそうな予感。
でも、波乱万丈だけは、ホントご勘弁。




