01 ノアル
時系列的にはリヴァイス01の数年前。
召喚者ノアルのお話しです。
お楽しみいただければ幸いです。
俺は、外岸 乃或 (トキシ ノアル)
こっちの世界では、ノアルって名乗ってる。
"こっちの世界"って変な言い方だけど、
このリヴァイスっていう異世界に召喚されて冒険者やってる普通のおっさんです。
あっちの世界での暮らしには、触れない方向で。
どうせ戻れないし、活かせるような凄い知識も持って無いし。
こっちにお呼ばれされてからは、それなりに波瀾万丈。
いや、さざなみ十丈くらいかな、そんな大層なことしてないし。
そもそも、召喚されたこと自体が大波瀾なんだけどさ。
今の職業は、冒険者。
揉め事荒事を腕っぷしで解決、
ではなく、やってることは使いっ走りの便利屋、かな。
そもそも、何の取り柄もないおっさんだし、
大冒険で大暴れ、なんてのは避けて、目立たないように立ち回ってきたので。
だってこの世界、結構あっさり死んじゃうんだよ、人。
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エルサニアという王国で、戦争で活躍出来そうな人材を召喚していたのに引っかかっちゃったのがそもそもの始まり。
こっちの世界に召喚されると"固有スキル"っていう特別な能力を授かって、
凄い身体能力とか、とんでもない魔法とかが、使えるようになる。
で、"勇者"ってもてはやされて、隣国との戦争の最前線に放り込まれるシステム。
固有スキルって、千差万別っていうか玉石混交っていうか、
かなり何でもアリなんだけど、もちろんアタリハズレがあるわけで。
俺のは、たぶんハズレ。
授かった固有スキルは『変質』
どうやらこれまで知られていなかった未知の能力みたいで、
お偉そうな神官にも博識そうな宮廷魔導師にも、どんな効果があるのか誰にも分からず。
もちろん、戦場で有用かどうかなんて不明。
何せ初物なので、もしかしたらスッゴイ能力なのかもって期待されたみたいで、
しばらくは召喚されたお城で勇者候補としてチヤホヤされながらの訓練ざんまい。
でも、駄目でした。
他のイケてる召喚者みたいに、
身体能力を爆上げ出来るでも無く、
派手な魔法をブッ放せるでも無く。
俺なりに結構頑張ったけど、
結局、何も起こらず、何も分からず。
そうこうしてるうちに、待遇はどんどん悪くなっていくわけで。
しょうがないよね。
エルサニアのお偉いさんとしては、期待はずれもいいとこ。
うな重特上を出前で頼んでワクワクしていたら、届いたのは具も分からんおにぎり、ってな感じだったんだろ。
結局、役立たずはとっとと出ていけってなって、
そこそこの生活費と生活雑貨が入ったバッグを持たされて、お城から放り出された。
"低職処分"だったかな、悪さをしないで地道に暮らすなら王国民として認めてやるよ、ってことだそうで。
正直、ありがたかったですよ。
同期で召喚された勇者さまたちは、有能なヤツからバンバン戦場送りされていたからね。
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勇者としては無能扱いだったけど、普通に生活する分には何の問題も無し。
冒険者ギルドってところで冒険者登録して、
俺でも出来るお使いや採取で日銭を稼ぐ日々。
ここの暮らしは、いわゆるなんちゃって中世ヨーロッパ風なんだけど、
元々使われていた魔導具っていう便利な魔法の道具に、
召喚者たちがいろいろなアイデア出しをしたおかげで、
このエルサニア王都で暮らすなら結構快適。
まあ、田舎の方とかよその国は、お察しだそうだけど。
そんな感じで、しばらく王都でその日暮らししていたけど、
こっちの世界で生きるための知識と、そこそこのお金が貯まった頃に、旅に出た。
特に目的も無かったけれど、日銭を稼ぐコツもつかめたことだし、せっかくだからこの世界を見てまわりたいなって。
で、ひとり気ままな旅暮らし。
気ままっていうか、行き当たりばったりな無計画人生。
だって、今さら人生設計もへったくれもないでしょ。
あっちの世界で頑張ってたことは召喚されて全部リセットされちゃったし、
こっちの世界は魔法やらスキルやらで本当に何でもアリだし。
とりあえず自分の身を守れればいいやって感じで、平穏に暮らせれば上出来ですよ。
理不尽な召喚で連れてこられたことを恨むでも無く、
役立たずだからと城から放り出されたことを嘆くでも無く、
割り切ったとか開き直ったとかでは無く、
どうしようもなくのんきなのは、あっちの世界にいた頃から変わらない俺の性格、かな。




