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魔王の誕生

ある一報が入り、世界中が震撼した。


大国ケイリス王国のアーチック大森林周辺の騎士団が何人かの生き残りを残して全壊したと知らせが入ったのだ。

ケイリス王国は、エターニア達の母国ティグーダ王国とは殆ど国交が無いが、東の隣国ターリアータ国と接している地理的にはそう離れていない国である。


急遽世界首脳会議が開かれた。


そこで生き残りの騎士が魔物の指導者と思われるユニーク個体が居たと証言した。

話によると、魔物をコントロールしていたのは人型だが醜悪な顔をした禍々しいオーラと黒い角、黒い翼を持つ魔物で、恐らくその魔物の指示で異種族同士が連携して襲ってきたようだ。

騎士達がその魔物を倒そうと攻め込むと、魔物達が群れとなって強襲してきたようだ。

そのまま変異種が混ざった多種族間で連携する魔物達に騎士達は散り散りにされ、しらみ潰しに根絶やしにされたそうだ。


ユニーク個体の姿を見ながらもその騎士が逃げきれたのは運が良かったからのようで、変異種類のゴブリンを切り倒した時に血を頭から浴びてしまった事が功を奏したと考えられている。

その騎士は血を浴びた後、嘘のように魔物達に見向きもされなくなったが、それまでに負った傷で意識が朦朧とし、草むらに倒れ込んでしまったようだ。そして意識を取り戻した時には戦いは終わっており、ポツポツいる魔物達に見つからないように身を顰めながら、命からがら逃げてきたようだ。




「現在も、恐らくそのままケイリス王国の東側にあるアーチック大森林にそのユニーク個体がいると思われている為、ケイリス王国の王立騎士団や近隣国が援軍を出している。

だが、あまりに魔物の凶暴化が激しく、防衛するので精一杯な現状だ。

その為、首脳会談の結果はまだ出ていないが、世界で協力して討伐隊が組まれることになると思われる。

このティグーダ王国も勿論例外ではない。

どのくらい規模、アーチック大森林へ遠征に出すかは分からないが、恐らくこの王都を魔物からギリギリ凌げる位だけの騎士を残して他は出征する事になるだろう。」


ザーカス騎士団長が強面の顔をより凶悪にしながらその肺活量に見合った大きな声で、早朝に集まった騎士達に話しかけた。


「魔物の血を浴びる事はよくある事で、その時に魔物が襲って来なくなったという報告は受けた事がない。

よって変異種の血を浴びる事や、そのユニーク個体である魔物を操る存在、通称《魔王》の指示下にある変異種の魔物の血を浴びる事など様々な要因が考えられる。

だが現在、ケイリス王国で思い付く限りの試行錯誤をして原因を探っているらしいが芳しい報告がない事から、唯の偶然かも知れないし、その魔王の指揮下にある個体かが関係するのかも知れない。

つまり有効な対策が出来るのかすら分からないが、事態は一刻も争う為、躊躇っている場合では無いと判断されると考えられる。

皆もいつ出征の指示が来ても良いように覚悟しておいてくれ。以上!」


騎士達は緊張しているようだったが、自分達の使命を忘れていなかった。


「我が忠誠は祖国の為に!」


そう口々に皆が言い、剣を掲げた。


歴史に無い程の厳しい戦いになるかも知れない。

そう思いながらも少しでも今のうちに魔物を減らそうと、各々仕事に戻った。



その後エターニアはA班を指揮し、王都の魔物の討伐に当たっていた。


「エターニア隊長!

何故アーチック大森林に魔王が出たのだと思いますか?」


「情報が少な過ぎて何も言えないな。

ルル、この前痛い目を見たのを忘れたのか?

油断するな」


「申し訳ありません!

でも朝から気になってしまって仕方がないんです〜!

あそこって何かありましたっけ?」


「お前、歴史の授業とか聞いてなかったな?

アーチック大森林は世界で最も広く、魔物の数が多く、そしてユニーク個体が出やすい所だ。

今まで確認されているユニーク個体の内、九割はあそこで確認されている。

研究者は様々な事を言っているが、磁場がおかしい事が関係しているという説が有力だ。

あそこは方位磁石も何も効かないからな」


「磁場?じゃあどうしようもないですよね」


「その通りだ。森林を切り開こうとしても森は回復していき、魔物はそれに比例するように活性化する。

つまりどうしようもないのだ。

変異種もあそこで産まれることが多いし、ケイリス王国が大国で、あの森を管理してくれている事は世界中が感謝せねばならない。

その分恵みも多いので、ケイリス王国は豊かだが、危険と隣り合わせな事は言うまでもない」


「A班は出征でしょうね。

精鋭であるうちが出ないはずが無いです。

遺書新しく書き直さなきゃ」


「縁起でもないこと言うな!

まぁルルは殺しても死ななさそうだから大丈夫だよ。

私は無事に帰ってきたらザーカス騎士団長と結婚しようかなぁ」


「それこそ死亡フラグですよ!

でもエターニア隊長って遠征に行けるんですかね?

ザーカス騎士団長止めてきそうじゃ無いです?」


「そんな訳ないだろ。

仕事に私情は挟まないよ。

私達は騎士だからな」



そしてエターニアが無事に討伐を終え寮に戻ると、ザーカス騎士団長からメッセージカードが来ていた。


ワクワクしながら内容を見ると、今夜二十三時にダルトンの丘に良かったら来てくれと書いていた。

あと三十分しかないと焦りながら用意をし、ダッシュで丘に行くと、ザーカス騎士団長が丘の上に座っていた。


「お待たせして申し訳ありません」


考え込んでいたらしいザーカス騎士団長は、その声でハッとエターニアの方に向いた。


「あぁ、遅くに悪かったな。

どうしても話しておきたくて」


なんとなく挙動不審な恋人に首を傾げながらエターニアは隣に座った。


「星が綺麗ですね。

最近寒くなってきたので、余計に空が澄んで見えます」


「そうだな。、、、。

なぁ、エターニア。

俺が遠征に行ってくれって言ったら行ってくれるか?」


唐突な恋人の言葉に目を丸くしながらもエターニアは頷いた。


「勿論です。

ザーカス騎士団長やフリード副騎士団長はこの状況で国を出れるとは思いません。

それ以外の勲章持ちは私しかいませんから。

出征の準備は整えています」


エターニアはハッキリと答えた。何の迷いもない暗闇でも光る美しい青い瞳がザーカス騎士団長をじっと見つめる。

その強い意志を秘める瞳を見つめながら、ザーカス騎士団長はその強面の顔を歪めた。


「お前は討伐隊が組まれることになったら討伐隊の隊長になるだろう。

だがそう考える度に、お前を何が起こるか分からない危険な場所へと行かせたくないとどうしても思ってしまう。

お前が行くくらいなら自分が行きたい。

頼むから、先に死なないでくれ」


大きな体を縮こまらせながら必死に言う恋人にエターニアは嬉しくて笑ってしまった。


「当たり前ですよ!

私のが七歳も下なんですもの。

貴方を看取って死にたいです。

無事に帰ってきたら結婚しましょう」


男前なプロポーズにザーカス騎士団長はポロポロと涙を流しながら〝約束だぞ。絶対に無事に帰ってきて、結婚してくれ″とエターニアに抱きついた。

エターニアはその広い背中をそっと抱きしめ返した。

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