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会えない日々も会えた日も

あの遠征の後、世界的な魔物の凶暴化が問題になっている。


今日(こんにち)まで、変異種や凶暴化した個体をできるだけ早期に減らす事が魔物の被害を減らす為に重要だと歴史的事実から考えられている。

王都では結果的にこの前のカークス峠への遠征が功を奏したようで、魔物の出現は他と比べかなり落ち着いている。

だが地方ではかなり魔物の被害が増えてきている為、王都の騎士達が各地へ魔物の討伐の援護に出動していた。


エターニアも何回か出動し、ザーカス騎士団長とあまり会えない日々が続いていた。

ヤキモキしながらも、こっそり寮に届いたレモンイエローのドレスやスカイブルーのドレスを着てみたり、彼の色の黒いダイヤモンドのアクセサリーを付けてみたりなどの乙女な事をしていた。


たまにザーカス騎士団長が休みの日に簡単なメッセージカードをくれたりするので、此方も暇があればこっそりお返しに日持ちするお菓子などを差し入れしている。


そんな姿を騎士達はバレバレだと生暖かく見ていたが、そんな日々に嵐とまでは言えないが、弱風が巻き起こった。



「エターニア・ノーティス。

貴女に決闘を申し込む!

ザーカス騎士団長は私のものだ!!」


そう、、エターニアの恋敵(?)が現れたのだ!


隣国のマッチョの騎士アルスが、いきなりエターニアの前に来てザーカス騎士団長への愛の言葉を叫んだ。

この魔物の増加は他国でも起こっており、現在情報共有の為に東の隣国、ターリアータ国から副宰相ランツが来ている。その何人かいる護衛の一人である。

因みにザーカス騎士団長の事が好きな訳ではなく、国に騎士としてスカウトをし続けている図々しく考えなしでしつこい男である。

ザーカス騎士団長の剣の腕に個人的に惚れ込んでいるらしい、隣国のとある公爵家の三男である。


「アルス様、決闘とは穏やかでは無いですね。

ザーカス騎士団長は貴方に断っていたと思うのですが、それでも私と戦う意味があるのですか?」


うんざりした顔をしてアルスに言うエターニアに、引けなくなったように彼が言い募る。


「今まではザーカス騎士団長の断り文句は〝この国を守る事が私の使命だ″だったのだが、今年はいきなり〝愛する人もこの国に居るのでな″と加えて仰ったんだぞ!

愛する人とはお前のことだろう!」


そう怒りながら言うアルスに照れまくってエターニアは言った。


「そ、、それはそうかも知れないな。うむ。

私の責任もあると言っても過言ではない。

練習試合という事ならお受けしよう。

彼の意思にこの試合は関係しないので、ザーカス騎士団長が貴方の国に行く事はないが、勝負する事でアルス様の気が晴れるなら致し方あるまい」


アルスはニコニコしながら言うエターニアに、この女はサイクロプスを倒した女だったっけと漸く思い当たり冷や汗をかいたが、後退りながらも〝よく言った!コテンパンにしてやる!″と虚勢を張った。



訓練場に案内すると、試合を聞きつけた手が空いている騎士達がワラワラと寄ってきた。

思いもよらぬ人の多さをドギマギしながらも、アルスがエターニアに叫ぶ。


「エターニア・ノーティス!

覚悟しろ!我がターリアータ国の剣技を見せてやる!」


その言葉にそう言えばあんまり他国の剣筋を一対一で見た事がないなと、余裕綽々なエターニアはニッと笑って返事をした。


「見せてもらおう!

いつでもかかって来い!」


その堂々とした姿にアルスが、焦りながらも〝ふんっ″とエターニアに剣を振り下ろした。

エターニアは半歩動くだけでかわしながら、剣をブンッと凄い音を立てながらアルスに振り下ろす。

何とか擦りながらも避けたアルスが、スパッと切れた自分の服と薄皮を見た後、タジタジになりながらエターニアに必死に言った。


「待て待て待て!練習試合だよな?」


「勿論ですよ!アルス様も先程から自然に軽くやっていらっしゃって流石です。

私も軽く振ったつもりですが、当たっちゃいました。中々加減が難しいです!」


アルスにはその裏が無さそうに笑う美しいエターニアの顔が悪魔に見えた。



周りで観覧していた騎士達が、ボソボソと話し合う。


「あれ、エターニア隊長本気で言ってるよな」


「当たり前だろ。あの人基準自分だから可笑しいんだよ」


「あのアルスって奴、絶対エターニア隊長の事好きだよな」


「でも毎年エターニア隊長に分かりにくいアプローチして、鬱陶しそうにされてたよな。

エターニア隊長は分かりやすい告白しか理解できないと早めに分かっておくべきだったな」


「いや、告白でもしようものならザーカス騎士団長に抹殺されていたよ。

ここだけの話、エターニア隊長美人だし性格良いから言い寄ろうとする騎士居たんだよ。

だがザーカス騎士団長に目を付けられた途端、そいつはしばかれ、エターニア隊長の事を記憶から抹消させられるらしい」


「マジで!?俺、普通にあいつ全くタイプじゃないからモテないだけだと思ってた」


「クリフはリーチェみたいな小動物タイプ好きだもんな。

男には居るんだよ、高い山程登りたい人間が、、、」


男達がしみじみしている中、試合はどんどん進んでいる。


「待て待て待て待て」


「加減しているとはいえ、受けるのがとても上手です。

ターリアータ国って防御が得意な剣術なんですね!」


止まらない汗を流しながらアルスは後悔していた。

サイクロプスを討伐したと言ってもトドメを刺したくらいだと思っていたが、まさかこんな化け物だとは。


そしてふっと軽く振られた剣によって自分の剣が飛んで行くのを信じられない物を見るような目で見送った。


「もう一回しますか?」


ニコニコと笑って言うエターニアにとんでも無いと青褪めて断ろうとした時、ふと聞いた事のある声がした。


「私が次はお相手願おう。

ターリアータ国の剣技を私も久し振りに体験してみたい」


「此方の国の者が失礼いたしました。

勲章付きの騎士に対して、身の程も知らずとんでもない無作法な振る舞いをするとは。

自国でアルスは人格が変わる程しっかり鍛え上げるとお約束致します」


アルスと比べ物にならない、寸部の隙もない鍛え上げられた大きな身体に、目に見える程の闘気を立ち上らせながら、般若の様な顔をしたザーカス騎士団長が二人の直ぐ側に立っていた。

その隣には眼鏡を直しながら虫けらを見るような目でアルスを睥睨するターリアータ国の副宰相ランツが居た。

毎年ザーカスとランツが中心となって二国間での交流試合を開催していたりする為、二人は長年の付き合いで結構仲が良く気安く言葉を交わしていた。


ガクガクと震えながら自分の末路を悟るアルスは、藪蛇を踏んでしまったと深く後悔した。



エターニアは久しぶりに見る自分の恋人に目をハートにしていた。

遠慮するアルスにしっかりと稽古をつけている姿も素敵だ。


帰り際にお世辞のようにランツから気が向いたら是非我が国にと言ってもらったが、ザーカス騎士団長が焦ったように慌ててハッキリと断ってくれた。

彼も私と離れたくないのかもと思うと照れ臭く、ときめいてしまった。

またその後お昼休みにこっそり渡されたメモに今日夕食を一緒に食べようと書いてあり、浮き足立ってしまった。


ウキウキとしながら仕事が終わった後、デートに向けて寮にダッシュで帰宅した。

そして忙しい日々の合間に買いに行った薄紫色のワンピースに着替え、彼のことを思って買った黒のリボンでハーフアップにした。

急いだつもりだが少し時間が掛かってしまったとダッシュで向かうと、丁度着いた様なザーカス騎士団長が居た。


「ニア、可愛いな。

仕事が中々終わらなくて、騎士服のままですまない」


「いえ!ジェイの騎士服姿、とっても格好良くて好きです!」


焦って言わなくて良いこと言ってしまったとあせるエターニアに、照れて顔を真っ赤にしたザーカス騎士団長がすっと腕を差し出した。


「それはありがとう。

では、お手をどうぞ、お嬢様」


その格好良いこなれたエスコートの姿にトキメキながらエターニアは恋人の腕に手を乗せた。


「あの、女慣れしてないって言ってましたけど、絶対慣れてますよね!

ちょっと嫉妬しちゃいます!」


ツンツンした様なエターニアにでれっと顔をだらしなく崩しながら返事をした。


「実は最初の飲み会の時から、フリードにアドバイスを沢山貰ってるんだ。

格好悪くてすまない」


「えっ!寧ろ嬉しいです、、

ジェイは忙しいのに、わざわざ準備してくれるなんて!

大事にしてくれてありがとうございます!」


二人は顔を見合わせ照れ合った。

その日はずっと二人の間でほのぼのとしたピンク色の空気が流れていた。

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