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また会えたら二人で

手強い魔物と何度か遭遇しながらも、軽傷者が何人か出る程度で午前中にカークス峠にたどり着いた。

薬草を手早く採取し、騎士達が撤収しようとした時、複数の足音が聞こえて来た。

明らかに人間ではない騒然とした足音で、しかもどんどんと数が増えてきているようだった。

騎士達の間に緊張が走った。

ザーカス騎士団長の呼び掛けで迎撃の体制は整えているものの、異常事態が起こっている事は明らかだった。


弓部隊が足音の聞こえる方向に向かって射撃体制を取る。


「放てっ!!」


ザーカス騎士団長の声に合わせて弓が放たれる。


『グギャッ』『グギャッ』


「ゴブリンだ!

だが数も性質も普通では無さそうだ!!

総員厳重に警戒し、討伐せよ!!」


その低く通る声に従い、騎士達が見通しの悪い森の中から次々と現れるゴブリンを切り倒していく。


「かなり手強いぞ!

ゴブリンが連携してくる!気をつけろ!」


エターニアも注意を促しながらどんどんゴブリンを斬り飛ばしていく。

普段ならバラバラと襲ってくるだけのゴブリンが、纏まり複数で一斉に攻撃してくる。

ルルがイライラしたように喚きながら斬り込んでいくのにエターニアが注意を飛ばす。


「ルル!!何が起こるか分からない!

踏み込みすぎるな!」


「そんな事言ってたらゴブリンを殲滅する前に私達の体力が持ちませんよ!

大丈夫です!所詮ゴブリンですから!!」


「ダメだ!!下がれ!」


周りのゴブリンの声で追加の静止が聞こえておらず、そのまま突っ込むルルに嫌な予感がして、エターニアがフォローの為にルルの方に向かってゴブリンを薙ぎ払いながら近寄ろうと試みるが、次から次へと現れるゴブリンに中々追いつかない。


その時轟音が起こり、いきなり現れたオークの鋭く振られた棍棒によって、小さなルルの身体が吹っ飛ぶ。


『ブモォォォォォ』


「ルル!!

ゴブリンの群れではないぞ!!

オークが混ざっている!!」



エターニアの声が騎士達に聞こえるか聞こえないかのタイミングで、周りでも豚のようなオークの雄叫びとその棍棒により怪我を負い呻く騎士達の声がする。


エターニアはルルのチームであるA班の二人に、ルルを後続へ治療に連れて行くように指示をして、自分のチームのダグラスとケイトの二人に周囲のフォローを頼み、ゴブリンを薙ぎ払いながらオークに斬りかかる。


凄まじい速さで振られた剣筋に、何が起こったか分からない表情をしているオークがそのまま真っ二つになり倒れる。


エターニアがそのまま足を止めず周りを斬り飛ばしていた時、ザーカス騎士団長が騎士達に追加で指示を飛ばす。


「オークだけとは限らない!

群れるはずのない多種族と組んでいるのだ!!

深追いせず、騎士達で纏まれ!」


「はいっ!」


騎士達は焦ったような顔をしていたが、その声で気を引き締めたようで、オークに対しても騎士達で協力しながら落ち着いて戦い始めた。

ザーカス騎士団長は周りに気を配りながらも、苦戦している場所へフォローへ行き、敵をどんどん殲滅していく。


漸く騎士達の体制が整ったところに、地震のような大きな地響きが鳴り響く。


「トロールだ!!」


単体で生息するはずのトロールが何故か二体、南北の方向からやってくる。

遠目から見ても通常のトロールの倍ほどの背丈があり、騎士達は言葉を失った。


「北に行きます!」


叫びながら北方向のトロールに、部下を連れて風のようにエターニアは走り出す。

ザーカス騎士団長は一瞬止めようとしたが、この現状では止められないとに歯噛みしながら、自分は南へ向かって走り出した。


「南のトロールは私が相手をする!

北はエターニア、ダグラス、ケイトが中心となって討伐する!北に居る者はフォローしろ!


他は目の前の敵を食い止めることだけ考えろ!

深追いはするな!いずれ援軍が来る!」


騎士達は心身共に疲労していたが、その声で目に光が宿り、目の前の敵に集中し始めた。

援軍が来るまで何日かかるのかは分からないが、ザーカス騎士団長やエターニア隊長が居れば大丈夫だと皆が根拠もなく信じた。



エターニアは部下二人を連れ、トロールに向かって走った。

巨大な身体に相応しい力を持っているようだ。

食い止めようとその振り下ろされた手を剣で受け止めようとした騎士が吹き飛ばされ、立ち上がれず呻いているのを見たエターニアは、叫びながら振り下ろされていたトロールの右腕を見えないほどの素早い剣筋で斬り落とした。


エターニアの部下は心得たように、エターニアに向かおうとしたトロールの足を切りつけ、気を引く。

すかさずトロールの右腕の断面に向かい弓部隊が一斉に照射をする。


『グワァァァァァ』


苦しんだように響く声に顔を顰めながらもエターニア達は、トロールのがむしゃらに振られる左腕や脚を難なく避け、着実に斬りつける事でダメージを与えていく。

漸く弱ってきたトロールの身体をエターニアは駆け上り、両目を斬りつけ、飛び降りた。


トロールは暫く暴れていたが、視力の無い魔物は唯のデカブツだと皆で攻撃し、暫く経ちやっと動かなくなった。


エターニアは流石に全身から汗が噴き出ているが、休む暇も無く周りのゴブリンやオークを倒して行く。


エターニアはザーカス騎士団長の事を全く心配していなかった。

トロールの声が遠くで聞こえなくなったし、彼なら絶対にあの程度の相手で怪我などしないだろう。

エターニアはザーカス騎士団長の力量を信じている為、何も考えずに戦い続けた。


いつの間にか段々辺りが暗くなってきている。

腕の動きが悪くなってきてから何分が経っただろうか。

夜目が効く魔物達が、段々と騎士達を押し始めた。

これからは不利になっていく一方だろう。

エターニアも少し傷を負っている。

治療をしに後衛へ下がる程の怪我では無いが、血が出ると剣が握りにくくなる。

騎士服の上着を割き、自分の左肩の傷に巻くと、血で滑る左手にもぐるぐると布を巻いた。


その時森の奥から轟音が響いた。


『ガァァァァァァァ』


サイクロプスだ。

数十年に一度くらいしか目撃されない一つ目の巨人が姿を現した。


通常であれば討伐は入念な計画と共に、騎士だけでなく傭兵や冒険者などの大量の人員が投入されて行われる。

物資も尽きかけ疲弊している、遠征中の騎士だけでは到底叶わない魔物だ。

しかも記録にあるサイクロプスよりも激しい攻撃性を持っているようで、大きな鉄の棍棒を振り回し、近くの魔物までをも無差別に薙ぎ倒している。


「異種族同士で連携までは取っていないのは不幸中の幸いだ。

問題は、サイクロプス単体だとしても勝てそうにないのに、ゴブリンもオークも減ってはきたもののまだ尽きる様子がない事かな」


エターニアは冷や汗をかきながらも不敵に笑って言った。

隣にいたダグラスとケイトが苦笑しながらエターニアに話しかける。


「どうされますか?隊長」

「言うまでも無い事を言うな、ダグラス。

エターニア隊長、やりましょう」


その二人にゴブリンやオークを斬り倒しながらもエターニアはニッと笑ってから、ザーカス騎士団長に叫んだ。


「私達がサイクロプスを討伐します!!

ザーカス騎士団長は撤退を指揮してください!

負傷人員や後衛は帰還させねばなりません!」


そう言って、エターニアは遠くに見えるサイクロプスを睨み付けながら剣を構えた。


ザーカス騎士団長は激しく怒り、怒鳴りつけた。


「お前達が撤退の活路を開け!

私がサイクロプスを倒す!

来た道を戻り、増援と合流しろ!」


その声にエターニアは笑って答えた。


「私達では撤退を成し遂げられません!

増援との合流は早くても明日以降になるでしょう。

今後どんな魔物が出るかも分からない行軍で皆の支えに唯一なれるのはザーカス騎士団長、貴方です。

二人とも無事に帰れたら、、、一緒に約束のデートをしましょう」



照れ臭そうに言ったエターニアが、呆然としたザーカス騎士団長に輝くような笑顔で笑いかけた。


「行くぞ!

ダグラス、ケイト!!」


「「はい!!」」


そう言って掛けていくエターニアの後ろ姿を、ザーカスは苦しそうな顔をした後一瞬キツく目を瞑った。

そして前を向いてから目を開けた後、エターニアの方を振り返る事は無かった。


「南東に離脱する!!

負傷者を真ん中にしろ!

残りの弓矢で一斉に射撃し、そのまま一気に駆け抜ける!私が先頭で風穴を開ける!!

残りの部隊長で無事な者は殿を任せた!」


「「「うぉぉぉぉぉー」」」


エターニアはその頼もしい声を命尽きるまで覚えていようと、騒音の中一人耳を澄ませていた。

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