嫉妬深い恋人と、トキメク恋人
エターニアは先日の飲み会についてクリフにお礼を言おうと思いながらも、次の遠征まであと少しというスケジュールに翻弄され、なかなかタイミングを掴めないでいた。
遠征直前は訓練がより厳しくなる。
早朝からエターニアはA班の連携を確認したり、演習用の剣で同僚達と激しく打ち合ったりしていた。
ザーカス騎士団長も勿論訓練に参加していて、黙々と騎士達を指導している。
あっという間に午後になり、太陽が燦々と輝いている。
エターニアはA班の二番手、ルルと打ち合っていた。
余裕がありそうなエターニアに対し、小柄なルルは額から汗を垂らしながらも素早くエターニアに攻め込んでいた。
相当な技量同士の打ち合いを、周りの休憩中の騎士達だけでなく、打ち合いをしていた騎士達も手を止めて見入っている。
ルルの動きが一瞬鈍くなったと判断するや否や、エターニアが俊速で動き、ルルの模擬剣を弾き飛ばした。
ルルは〝ありがとうございました!″と言いお辞儀をした後、堪らず地面にへたり込んだ。
エターニアは飄々と水を取りに行き、ルルにも水を投げて渡した。
ルルは握力が落ちていて、水を受け取ることすら精一杯なくらいに手が震えていた。
それでも何とかキャッチしてゴクゴクと水を飲み干すと、生き返ったかのように元気一杯に不満を叫んだ。
「エターニア先輩は強すぎです!!
今回の遠征に向けて私も相当努力しましたけど、先輩はもっと強くなっていて、いつまでも追いつけません!」
その言葉にエターニアは笑って答えた。
「私なんてまだまだだよ。
ザーカス騎士団長にも、フリード副騎士団長にも到底勝てない」
その発言を聞いた部隊長達は聞き捨てならないと叫び出した。
「よく言ったなエターニア!
勝負しろ!!今度は勝つ!」
憤慨する先輩方にそんなつもりはなかったけどと苦笑しながらも、エターニアは模擬剣を拾い、にっと笑って言った。
「では、是非よろしくお願いします!」
わちゃわちゃとエターニアの周りに集まる騎士達を見て眉を顰めたザーカス騎士団長が低く響く声で止めた。
「エターニアは早朝からかなり長く試合をしていた。
よって遠征まで腕を休める必要がある。
彼女の代わりに今回あまり身が入っていなかったルクス部隊長!
お前をとりあえず部隊長代表として私が直々に試合をしよう。
他も心配するな。私は先程まで指導をしていたからな。
お前達のために体力を温存していた」
そう言いながらザーカス騎士団長は強面の顔をニヤリと歪めながら言い、青ざめるルクスを引きずって行く。
その凶悪な顔に騎士達はブルブルと震えていたが、エターニアだけは私の恋人ってとっても格好良いと頰を染めていた。
日々が瞬く間に過ぎて行き、ドタバタと準備しているといつの間にか出立の日になってしまった。
愛馬であるルーンの世話をしながら出立に備えていると、あれから久しぶりに会う気がするクリフが声を掛けて来た。
「この前はどうだった?」
「あぁクリフ、ありがとうな。
ザーカス騎士団長と付き合う事になったよ」
にこにこと衝撃的な発言をするエターニアにクリフは驚きを噛み殺しながら祝った。
「おめでとう、良かったな」
「あぁ、この前は僻んで悪かったな。
リーチェとはどうだった?」
お前とザーカス騎士団長の話題でそれどころじゃ無かったよと叫びたくなりながらも誤魔化した。
「いや、まだ何も進んで無い」
「そうか、、私ばかり悪かったな。
今度リーチェも誘って、また時間を取って四人でカフェにでも行くか」
そんな話をしていると、遠征前で忙しくしているザーカス騎士団長が通りかかり、凄まじい殺気が飛んできてクリフは卒倒しそうになった。
ただでさえムキムキの身体が、筋肉が膨張しより大きく見える。
エターニアは暫く後方にいるザーカス騎士団長の存在に気づいていなかったが、クリフの目線に気づき振り返ると、驚いた後、はにかみながら照れ臭そうに手を振った。
それを見たザーカス騎士団長は今までの恐ろしい顔が嘘のように強面の顔に笑みを浮かべ、エターニアに手を振り返した。
そのいい歳した、騎士団内で最強の男女のやり取りを死んだような目でクリフは眺めていた。