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狙った獲物は逃さない

そして約束の日が来た。

エターニアは、クリフが密かに片想いしている二個下で子リスタイプである同僚の女騎士、リーチェを連れて予約した店へ向かって歩いていた。

所謂懇親会を名目とした少人数の合コンだ。


クリフは誰を連れてくるのか教えてくれなかった。

偶に討伐で一緒になるマッチョな冒険者とかか?それとも彼は下町生活だし、近所のガテン系の渋いおじ様とかもあるか?意外とこの前失敗したインテリ系かも?

エターニアはこの日の為に新しく買った水色の膝下のワンピースを着ている。勿論盛り上がった肩を隠す為に、白色のレースのボレロも羽織っている。

見た目だけでも清楚に見られたい。


ドキドキしながら行くと、約束したちょっとオシャレだがリーズナブルなレストランに着いた。

すると、店先から何気なくクリフの隣に座っている人物を見て、エターニア達は驚いて心臓が止まりそうになった。


「え?もしかして、騎士団長?」


そう呟きながら、リーチェと顔を見合わせる。

クリフは遠目から見ても疲れたような顔をしていた。服の襟元が引っ張られたかのように凄く伸びている。

二人で早足で席まで近寄り、エターニアは嬉しそうに話しかけた。リーチェはあまり接することのない強面の上司を見て萎縮している。


「ザーカス騎士団長、どうしてこのような場にいらしたんですか?

この前お話ししていた次の遠征についてですか?

私のA班の計画書は以前提出しておりましたが、何か不備がありましたか?」


エターニアはA班の部隊長をしている為ザーカス騎士団長と接す機会も多く、分かりにくいが優しいこの上司に慣れ親しんでおり、にっこり笑ってハキハキと話しかけた。

ザーカス騎士団長はいつも無口でどっしりと構えているが、戦闘となると一騎当千でとても頼りになると彼女は純粋に尊敬していた。


「今日はプライベートだ」


どっしりとした低音で重々しく言うザーカス騎士団長にエターニアは面を食らったような顔をしていたが、気を取り直して言った。


「では、もしかして今日はこのような小規模な懇親会にご出席してくださるということですか?

嬉しいです!ザーカス騎士団長は普段はあまり宴会などに参加してくださりませんから。

今日はいっぱいお話ししましょう!」


エターニアは輝く笑顔で言った。

実は彼女はハッと目を引く程の美人だ。

身体は鋼の様に鍛えられている為、確かにあまり女性らしい丸みはないし、殺気を出すと並の男は逃げて行く。

余談だが、クリフは実はその件の文官の男はスライムではなくエターニアの魔物への殺気に逃げて行ったのではないかと考えていた。幾らバツが悪くても、狙っていた女に言い訳もせず音信不通はあまり無い気がする。その女自体が怖いとか無ければ。

それは兎も角、エターニアはかなり美人だ。モデルの様にとまでは言わないが、その美しい姿勢や明るい笑顔、艶やかな銀髪に鮮やかな大きな青い瞳、野外で活動しているにも関わらず全く焼けない北方由来の白さは彼女の七難を隠している。


でも三十路まで女関係の噂が無かったザーカス騎士団長が、まさかエターニアに懸想していたとは。

ザーカス騎士団長は伯爵家の次男だし、庶民のエターニアとの結婚なんて通常では認められないと思うが、貴族で三十路まで結婚していない事から分かるように、ザーカス騎士団長は貴族女性から必死で避けられている。

威圧感ある体格や、強面の顔、重い口など今をときめく貴公子の条件に尽く掠ってもいない。

色気のムンムンな婀娜っぽい女性には秋波を向けられていたが、スルーしていたので、単純に女嫌いだと思っていた。まさかエターニアの様な良く言えば天真爛漫で、悪く言えば何も考えてない思考と発言が一致している様な女が好みなんて、、、。


リーチェはこの状況ですぐ事情を察したらしく、邪魔しないように肉を頬張りながら大人しくしている。

クリフのボロボロな格好を見れば、連れてくる予定だった友人が騎士団長で無かった事は、目か頭が良ければ分かるだろう。

一方目は良いが頭が悪いエターニアは、ザーカス騎士団長と何の疑問も無く自然に会話している。


「ザーカス騎士団長は何を頼まれますか?」


「こういう店にあまり来た事が無くて良くわからないのだ」


「では、私のオススメを頼んじゃいますね!

食べられない物はありませんか?

私は実はセロリとか匂いの強い野菜が苦手で。

ザーカス騎士団長はどうですか?」


「今はプライベートだからジェイドと呼んでくれ。

私も香草が苦手だ。」




エターニアは、今日は合コンだと思っていたが、まさかサプライズでザーカス騎士団長との懇親会だったとはと単純に驚いていた。

クリフも中々ユーモアのある奴だ。

婚活が進まなかったことは残念だが、ザーカス騎士団長とゆっくり話ができると思うと凄く嬉しい。

すると、ザーカス騎士団長からいきなり声をかけられた。


「ご趣味は?」


予想外の質問に面を食らってしまったが、エターニアはプッと吹き出した後、笑って応えた。


「筋トレと走り込みと、あと甘い物を食べることが好きです!

でも意外と、甘い物好きで休日暇な人が少なくて、現在甘い物巡りを一緒にしてくれる友達を募集しています。

出来れば将来の伴侶も甘い物が好きだと良いのですが、男性で甘いもの好きって結構少ないですかね?」


「私は甘い物が好きだ。

良ければ今度ル・シェールに一緒に行かないか?」


「ええええ。

あの上流階級の紹介でしか入れないカフェにですか!?

ザーカス騎士団長!

ありがとうございます!好きです!

それでは、あそこに入れるくらいの服を早速買わなきゃですね!」


ザーカスは褐色の肌で分かりにくいものの強面の顔を真っ赤に染め、チラチラと机の下でカンペの様なメモを見ながら続けた。


「では、ドルトン夫人の店で一緒に服を仕立てないか?

勿論こちらの提案なので、こちらで支払わせてもらいたい」


「ええ!ドルトン夫人の店って、確か貴族令嬢の憧れのドレスメーカーですよね。

買っていただくなんて申し訳なくてできないので、お支払いはさせてください!

私もこれでも騎士になって五年なので、実は貯め込んでいます。

でもドレスコードとか分からないので、今度お休みが被った時にご一緒していただけたら嬉しいです!」


ザーカス騎士団長はコクリと頷き、カンペをクシャクシャに握り締めながら机の下でガッツポーズをした。


どんどん注文した品が届き、直ぐに頼んだ料理で机が一杯になった。

ザーカス騎士団長は品の悪くならない程度の大口でどんどんと綺麗に料理を平らげていく。

エターニアはザーカス騎士団長の食べっぷりに嬉しそうな顔をしながら、一つ一つの料理の説明をした。



「女性騎士は結構早く事務方に移動するじゃないですか。大体三十五前には。

その後、旦那さんとか子どもには一杯美味しい料理を作ってあげたいんですよね。

今は忙しくて体力勝負ですし、寮の食堂のお世話になってるんですけど、偶に休日に実家の母に教わっているんです。

意外と筋が良いって褒められるんですよ。意外って失礼ですよね!」


ザーカス騎士団長は嬉しそうに頷きながら、エターニアに言った。


「私は伯爵家を出て小さな郊外の一軒家に住んでいる。

今は通いの家政婦に家事をしてもらっているが、食事のみ奥方に作ってもらう様に変更することも容易だ」


エターニアは普通にそうなんですか〜などと返事をしているが、同席している二人は分かりやすいアピールに冷や汗をかいた。

何故こんな見え見えなお見合いの如き騎士団長の発言を聞いてエターニアは疑問に思わないのか。

ザーカス騎士団長様は真剣な目をしてエターニアを見つめている。彼は狙った獲物は逃さないだろう。

そそくさと巻き込まれないように早めに二人で退散する事にした。


エターニアは料理を平らげると、さっさと二人で抜けようとするクリフとリーチェを微笑ましく見送った。

その後、送ると言うザーカス騎士団長に、わざわざ送って頂くなんて申し訳ないとエターニアは固辞したものの、騎士寮に用事があると主張し、ザーカス騎士団長はエターニアの前をスタスタと歩いて行く。

女の子に対する扱いを照れ臭く思い、頰を染めながらも嬉しそうにエターニアは後を追った。


駆け足で追いつくと、急に速度が遅くなりあれ?と思い騎士団長の顔を仰ぎ見ると、エターニアに合わせてくれているようだった。

沈黙が重苦しくなく、夜の澄んだ空気が美味しいと思いながら、二人で黙々と歩いた。

時々こちらを確認しては歩く速さを緩めてくれるザーカス騎士団長にエターニアはこっそりクスッと笑ってしまった。



「エターニアは」


「えっ、はいっ!

なんでしょうか?」


「エターニアはどのような男性と結婚したいんだ?」


そんな事聞かれるとは露とも思っていなかったエターニアは耳を疑ったが、素直に応えた。


「先程も申し上げたように、甘いものが好きで、私の料理を食べてくれて、、

あとは女性関係が派手では無い方が良いです。

私も全然人と付き合った事が無いので、同じくらいのレベルの人と二人で真剣に関係を構築していきたいですね」


そう言ったエターニアにザーカス騎士団長は嬉しそうな顔を向けた。


「私は条件を満たしている。

甘い物好きで、君の料理が凄く食べたいと思っている。

そして、三十のこの歳で清い身だ。

私と結婚を前提に婚約してくれないか?」


そして、クリフが連れてくると言っていた肝の座った男とはザーカス騎士団長だったのだという事にエターニアは思い当たった。

因みに彼女の勘違いで、クリフはそんな大物と引き合わせるつもりは集合時間の十分前に騎士団長に締め上げられるまで全く無かった。彼の友人でメンタル強めな男を紹介するつもりであった。


ザーカス騎士団長と結婚するなんて考えた事もなかった。だが、、、

そしてエターニアは息を飲んだ後、決意していった。


「とりあえずお付き合いさせていただいて、上手くいけば婚約などは如何でしょうか?」


いや、エターニアはちょっとビビっていた。

即婚約は踏ん切りがつかなかったらしい。

だがその言葉を聞いたザーカス騎士団長は瞳を輝かせた。


「わかった。今度から私の事はジェイと呼んでくれ。

君の事はニアと呼ぶ事にする。

三ヶ月経って問題無かったら婚約して、それから半年後に結婚しよう。

よろしく頼む」



そう言われたエターニアは勢いに押され頷いた。


エターニアは寮に帰って一人になってから〝え、三ヶ月!?あと一年しないでザーカス騎士団長と結婚!?″と赤くなりながらゴロゴロとベッドに転がって身悶えた。

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