結末は永遠に
ケイリス王国の国王から、各国へ貢献度に合わせて褒賞が渡される事が決定した。
その中で飛び抜けてティグーダの存在感は凄まじく、エターニアは国王から直々に感謝とお褒めの言葉をいただいた。
ティグーダ国の討伐隊はケイリス王国の重鎮の人々、特にレックス騎士団長を始めとする騎士達に強く引き止められたが、なんとか切り抜けてティグーダに帰って来れた。
溢れんばかりの花と拍手で人々が迎えてくれ、エターニア達は遠征の緊張が緩んでいくのを感じていた。
王宮に着くと、少し痩せたように見えるザーカス騎士団長の姿があり、エターニアは色々なものが込み上げてきたが、グッと我慢して敬礼した。
「総員、帰還いたしました!!」
「よく全員で帰ってきてくれた!
諸君らの健闘に深く感謝する!!」
そう言って敬礼を返すザーカス騎士団長に、皆感動したように〝はっ″と大きく返事をした。
ティグーダ国では残った数少ない騎士達の奮闘により、建物や市民には魔物による目立った損害はなかったようだが、やはり負傷している騎士はいた為、遠征帰りの人々も慌ただしく仕事に復帰した。
早くザーカス騎士団長とゆっくり話したいと思っていたがお互い忙しく、今回の騒動で変異した魔物の残党を討伐する走り回る日々が続いた。
少し落ち着いてきた時、深夜になってしまったがやっと二人で会う事ができた。
「お久しぶりです。
ご無事でよかったです」
「こっちのセリフだ。
ケイリス王国での話を聞いて、心臓が止まるかと思った」
厳しい顔をしながらも甘いセリフを言う恋人に帰って来れたと実感し、エターニアは目を潤ませた。
「すみません。
一瞬もう会えないと覚悟してしまいました。
また貴方に会えてよかった」
今にも泣きそうな声を聞き、ザーカス騎士団長もギュッとエターニアを掻き抱いた。
「本当に会えてよかった。本当に、、、」
その涙声を聞き、エターニアも堰を切ったように泣き出しながら、強く抱きしめ返した。
暫く経った後、落ち着いてきた二人はそっと顔を見合わせ、お互いの酷い顔に声を上げて笑い出した。
そして休みが合ったら約束していたカフェであるル・シェールに一緒に行こうと話し合い、名残惜しそうにしながらゆっくりと帰路についた。
そのような忙しい日々が続いた後、やっと二人共まともな休みが取れる事になり、とうとうル・シェールに行く日が来た。
エターニアはデイドレスとして仕立ててもらったレモンイエローのドレスを着て、フワリと白いレースのボレロを羽織った。
そして恋人の色に合わせた黒いリボンで仕事中できないハーフアップにした。
そして母親から〝心配ばっかりさせないで、ちょっとは女子力を上げるように″と帰還後に寮まで送られてきた香水を一振りかけ、ルンルンと出かけた。
待ち合わせ場所には既にザーカス騎士団長が着いていた。
強面の体格の良い男が仁王立ちしているので道を歩く人々から遠巻きにされており、ザーカス騎士団長の周囲に不思議な人の居ない空間ができあがっていた。
エターニアが焦ったように走って向かおうとすると、こちらに気づいたザーカス騎士団長が強面の顔をニヤッと歪めて手を振ってくれた。
その光景に怯えたようにして〝怖いよー″と近くにいた子どもが強面を指さすと、慌てた母親が子どもを抱き上げ走って去っていった。
一連の流れを急いでいたことも忘れ、足を緩めて思わず見送ってしまっていたエターニアは、ハッと我に返り気を取り直したように駆け寄りザーカス騎士団長に声を掛けた。
「ジェイ、お待たせいたしました」
「全然待っていないよ、ニア。
そのドレス、とっても似合っている」
そう笑って言われた恋人の言葉に頬を抑えて照れるエターニアを、周りの人々は信じられないようなものを見る目で見ていた。
エスコートするようにスッと鍛え上げられた丸太のような腕を差し出す恋人に、はにかみながらエターニアはそっと手を委ねた。
二人の空気を作りながら軽くウィンドウ・ショッピングをしながらのんびりと歩いた後、洗練された店構えのル・シェールに着くと、サッと予約していた個室に通してくれた。
メニュー表には様々なケーキや飲み物が乗っており、エターニアは瞳を輝かせて悩みながらやっと選んだ。
「ミルフィーユとカフェオレにします」
「ケーキは一個じゃなくても良いんだぞ。
私はベイクドチーズケーキとフォンダンショコラとプリンを頼む。
流石に飲み物は甘く無いブレンドコーヒーかな」
その言葉にエターニアは〝じゃあ私もスコーンとモンブランも頼みます!″ととても嬉しそうに決めた。
ゆったり楽しんだ後、アクセサリーショップに行って、エターニアはレモンイエローのデイドレスに合うちょっとしたネックレスとイヤリングを購入した。
ザーカス騎士団長が出させてくれと言ったが、今回褒賞が入ったので記念に自分で買うとエターニアが押し切った。
「髪飾りは良かったのか?」
「ええ。このリボン、気に入ってるんです。
私の大好きな貴方の色ですから」
照れながら言うエターニア以上に、暫く褐色の肌を真っ赤に染め喜んでいたザーカス騎士団長は、決心したように真剣な顔になった後〝着いて来て欲しい″とエターニアに言い、意気込みながら歩き出した。
エターニアは急に大股で歩き始めた恋人に少し戸惑ったが、小走りで着いて行った。いつもと違いザーカス騎士団長はエターニアと歩く速さが合っていない事にも目がいかないくらい集中しているらしく、目が血走っているので、エターニアは体調が悪いのかと心配した。
町外れまで歩き続けると、とある文官に置いていかれた事がある森の近くの湖に着いた。
エターニアは嫌な事を思い出して冷や汗をかいた。
〝振られるのか?逃げられるのか?″
ドキドキしながらエターニアはひたすらザーカス騎士団長が話し出すのを待つ。
永遠に思えるような沈黙の中、気の抜けた音をたてながら、森から何時ぞやかに見たようなブルースライムが出てきた。
エターニアがトラウマを刺激されて震えると、ザーカス騎士団長が長い足でスライムを蹴っ飛ばしたので粉々になりながら遠くにスライムが飛んで行った。
ザーカス騎士団長は完全に無意識のようでブルースライムによる革靴の汚れを一瞥もしなかった。
そしていきなりバッと地面に片膝がのめり込むくらいの勢いでザーカス騎士団長はエターニアの前に跪いた。
「結婚を前提に婚約してください!!」
そしてパカっと開けた箱の中には、大きなダイヤモンドの指輪が燦然と輝いていた。
「はいっ!!」
エターニアは安心して大きく返事をした。
そして、この人とならきっとどんな困難でも乗り越えられると思いながら、エターニアはザーカス騎士団長の大きな胸に飛び込んだ。




