大規模討伐
エターニア達がアーチック大森林に到着後、幾ばくもしないうちに大規模討伐の実施と、その日程が発表された。
到着後一ヶ月程しか間がなく、エターニア達はできる限り損耗しないで特殊な魔物達の連携に慣れる事に専念していた。
相手の狙いを察知して、思い通りに行動しないように癖付けるのにはかなり時間がかかったが、最初のサイクロプス・ハーピー達との戦いでもコツを掴んだようで、一ヶ月丸々使いながらも、騎士同士で連携する事で着実に魔物を討伐できるようになってきた。
現地において、ティグーダ国討伐隊はサイクロプス討伐の実績と能力があるにも関わらず慎重過ぎると他国から言われる事もあったが、エターニアは方針を変えず様々な魔物に安全を確保しながら慣れる事を兎に角優先した。
その成果もあり、先に討伐に参加していた国の情報と合わせ、魔物の組み合わせや、どのように特性を利用してくるかなどをみっちり研究する事ができた。
最後の頃にはティグーダのやり方が理解され、大規模討伐の計画に活用される事になった。
「とうとう明日ですね。
冒険者や傭兵なども続々と集まって来ているようです。
今回の遠征で決着が着くと良いのですが」
「あまり欲張った事は考えない方が良い。
まずは無事に帰る事を第一の目的としよう」
エターニアはルルに返しながら黙々と遠征の用意を整えた。
「出発!!」
ケイリス王国の掛け声に合わせ、遠征が始まる。
エターニア達、ティグーダ王国の討伐隊も出発する。
不思議だが一段と暗く見えるアーチック大森林にと馬を進めた。
「いつもより森が静かだな」
エターニアの声に緊張したようにルルが答えた。
「やはり魔物が少ないですよね。
変な雰囲気です」
そんな話をしていた所、エターニアが叫んだ。
「伏せろっ!!!」
その声に合わせティグーダ国の騎士達は直ぐに動いたが、躊躇った他国の騎士達が何人かが攻撃されたようで、呻きながら蹲っていた。
「まだ来るぞ!盾を構えて後衛を真ん中にしろ!」
その声に合わせてティグーダ国の騎士が動き、他も慌てたように続いた。
遠距離部隊が敵の居場所を探る為に四方に弓を打つと、グギャッと声が木の上からした。
「変異種のゴブリンだ!
武器を持ってるぞ!」
声が起こり、皆が迎撃に出ようとした時、エターニアが声を張り上げた。
「釣られるな!!
他の魔物が罠を張っているかもしれない!」
そう言って止めた。
続いてそのまま弓で迎撃するよう指示し、ゴブリンがどんどん減っていくと、観念したかのようにトレントやマンイーターが動き出し、手近に来ていた騎士達を襲い始めた。
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁー」」」
「退治しますか?」
ルルの声掛けに、周りへの警戒を解かないように呼びかけながらエターニアが討伐を指示する。
そしてルルを含む何人かに実験の為に血を浴びるよう言った。
そして血の効果は見られ無いものの、騎士達が順調に退治を進めると、大きな物音が聞こえて来た。
様々な種類の魔物達が夥しい程の数やってくる。
パッと見は魔王らしい魔物は居ないようだが、先程の連携の精度とは違っている。
加えて森に入って数時間でこの魔物の量は、魔王がこちらの討伐隊の出陣を待ち構えていたとみて間違い無いだろう。
すかさず騎士達に纏って行動するよう注意を飛ばす。
そして戦闘が始まった。
ケイリス王国は自国の安全が掛かっている為、必死になって戦っているが、神聖ローカス帝国の様に一応聖女と呼ばれる非戦闘員は連れて来ていないものの、後方で殆ど何もしていない騎士もいるし、冒険者や傭兵も対応は様々だ。
エターニア達は先程の変異体の血では役に立たなかった事を確認した為、他の変異体を探しながら着実に魔物の討伐を進めた。
「負傷したものは後方に下がれ!
変異体の血に効力が見えたものは直ぐに報告しろ!」
そうエターニアは声を掛けながら、減らない魔物達を討伐していく。
遠距離攻撃に対処する者や、後方に気を配る者など、スリーマンセルを有効に活用しているティグーダ国は、情報共有したものの、その方式を活用していない国に比べて際立って力を見せていた。
魔物達の狡猾な罠にも易々と対応し、討伐を続けていくと、魔物が減っていく様子は無いものの、ゴブリンなどの初期に沢山いた魔物達は面子が入れ替わってきた。
人々が手応えを感じていた時、前方から鋭い声が聞こえてきた。
「魔王だ!!魔王と思われる個体が出たぞ!」
その声を聞き皆に緊張感が走ると、多数の変異個体と思われる巨大な魔物達が四方から現れ、騎士達を押し始めた。
エターニアは直ぐに皆に声を掛け、変異個体に対応する者と、その騎士達を援護するものに分け、一匹ずつ
討伐指示を出し、一番近くに居るケルベロスに斬りかかった。
他の騎士や冒険者、傭兵なども押されながらも何とか戦い始めたが、魔王と思われる個体までは魔物が多すぎ、誰も辿り着けないでいた。
エターニアは変異個体の血を浴びるようルルに指示をし、ルルがケルベロスの血は生臭そうだと涙しながらもエターニアが切り落とした一つ目の首から血を浴びると、劇的に変化が起こり、ケルベロスはルルが見えていないかの様に対応し始めた。
エターニアはそれを見て直ぐに他の騎士や他の魔物で確認した後、魔王を討伐に向かうと宣言し、二つ目の首を落としながら自分も血を浴びた。
ルルは風の様に駆けながら他の魔物を討伐し、自分の事を認識しているかを確認したが、やはり他の魔物や変異個体にはルルが認識できていない様だった。
他のティグーダの者も、それを見ていた他国の人々も次々と変異個体の血を浴びだした。
そして魔王の方に向かうと、周りが見えていないかのように魔王はぼうっとしてそのまま突っ立っていた。
周りに注意しながらも、エターニアが俊速で剣を振ると呆気なく魔王は絶命した。
喝采が上がりながらも、エターニアは腑に落ちないような顔をしていた。
呆気なさすぎる。こんな事があるのだろうか。
そう思った時、アーカス大森林の外で轟音が響いた。
残った魔物を討伐するものと帰還するものとで分かれ、エターニア達のティグーダ国の者は帰還指示が即座に出たので急いで森を出ると、森の外が真っ赤に燃えていた。
その非現実的な光景を少しの間呆然と見ていると、いきなり影がかかり辺りが暗くなった。
皆がふと上を見るとファイヤードラゴンが悠々と空を飛び回っている。
魔王は不意打ちとはいえ、ケイリス王国の騎士団を一つ壊滅できる程の使役能力を持っていた。
だが、今回森で倒した魔物達は対策はしたものの、そこまでの手応えは感じなかった。
「このファイヤードラゴンは、、、」
「魔王の使役能力は凄まじいな。
死して尚、このような伝説級の魔物を操るのか」
書物でしか見た事の無い、百年に一度程世界の何処かに出現し、現れた時は刺激せずに退避するしか無かったと記されている生き物がアーチック大森林の外で存在している。
魔王は使役能力をこちらに割いていたのか。
叫びながら逃げる人もいる中で、エターニア達も冷や汗をかいたが、後ずさる者さえもいなかった。
討伐隊の陣幕に残る人々を避難させろとティグーダ国の騎士達にエターニアは指示を出し、自らも走って被害の確認と生存者の救出を始めた。