弟十八章(宴会)
大坂城に帰り着いた予は、直ちにわが秀頼隊の主だった者を集めた。
孫一、五郎、捨丸みんな集まっておる。
皆、褒美じゃろうと思うて、ニコニコじゃ。
もちろん褒美じゃぁ……
金じゃ、金じゃ!
ほれとれ、これとれの大盤振る舞い!
みんなニコニコ、陽気、陽気。
渋い顔しているのは大金を運ばされた大蔵役人だけじゃ。
予も、命が、かかっとるで、感謝、感謝でちっとも惜しくない。
「捨丸、お主、3千石じゃ。今後も、励めよ!」
「は、はーッ」
「予の兄上の幼名は『棄』じゃ、ぬしにこの名を与える。
今日から五条棄丸じゃ。よいのう?」
「なんと!有難き幸せにござるう。は、励みまするう、う、う、う」
大の男が泣いておるわ、ほ、ほ、ほ。
本当に有難うな棄丸、今後も頼むぞよ。
「五郎、三百石じゃ」
「うっへー」
「孫一、二百五十石」
「な、な、なんと!拙者のほうが、低いんでござるか〜」
「うむ、口が減らんやつだから、五十石取りあげじゃ」
「そ、そんな〜」
「加算、鉄砲騎兵隊隊長役分、百石じゃ」
「あ!よ、よかったのし」
予のからかいに、一喜一憂しておるわ。
皆も、予と孫一の凸凹コンビに馴れて、大笑いしておる。
孫一もほんとは楽しんで居るのじゃよ、ほ、ほ、ほ。
楽しいのう……
それで、余りのうれしさについ言ってしまった。
「今夜は宴会じゃ!大宴会じゃ!馬場でやるぞ、無礼講じゃ!」
「ウォーッ」
部屋が共振するほどの大音量じゃ。
* * * *
費用は豊臣家持ちで、馬場を全部使って大宴会場を作った。
なーに、真ん中に大きなかがり火をたいて明かりとし、
廻りに茣蓙をひいて酒飲んでばかさわぎするだけよ。
秀頼隊だけでなく、各種役人、毛利、その他の武士達にも非公式に声をかけたらしい。
表向きに、予が主催することにすると、色々面倒であるからのう、非公式のものじゃ。
もちろん、良質な酒の大樽や、魚の干物等も大量に差し入れた。
後で、宴会が始まったら、適当なところで顔をだして乾杯をし、引っ込んで寝るつもりよ。
予は子供だでのう、子供は早く寝ないと、背が伸びんからのう。
奥でともえと夜食を食っていたところ、馬場の方から、ドッと笑い声が聞こえた。
「うん、そろそろじゃな。ともえ、行ってまいるぞ」
「行ってらっしゃいませ」
おなごは酔っ払いどもの前に出すと危ないでのう。
予と重成は暗闇迫るなか、馬場へと向かった。
「おう!これはにぎやかじゃ」
大盛り上がりじゃ。大かがり火を中心に、酒盛りをしておる。
ワイワイガヤガヤ賑やかな事、賑やかな事。
「お、お。おんぶ様がいらっしゃったぞ、そこを開けい!開けい!」
人の海の中に、ザザザーッと上座への道が出来る。
その中を、手を振りながら、歩く。
なんか、スターになった気分で、気持ち良いぞよ。
一段高くなったところに座がしつらえてある。
周りには棄丸、孫一、五郎などが座り、予に頭を下げておる。
予は茣蓙に座ると言った。
「うん?無礼講じゃ。予を気にせず、それ、飲め!やれ食え!」
「ウオーッ」
再び、飲めや歌えの大騒ぎが始まった。
皆、左に干物、右に酒を持ち、飲みかつ食いを繰り返している。
赤黒い顔でわめくわ、歌うわで大変じゃ。
馬場の真ん中で、踊っているものもおるのう。
へたくそな踊りじゃのう、ほ、ほ、ほ。
予は左利きだで、左手で干物を持ち、かじった。
うん?うまいのう。場所が変わると、味も変わるのう。
と、その時であった。
雑賀孫一がすっくと立ち上がる。
「ウイー。拙者、余興をつかまつる!参吉、ちょっと来い、あれをやるのし。」
「ウォーイ」
副将の散吉がよろよろと立ち上がった。酔っとるのう。
二人して隅のほうでなんかしとったが、再びあらわれた二人を見て、びっくりした。
孫一は火縄銃を持っておる。
散吉は雑賀鉢をかぶり、その天辺に魚の干物を立てておる。
そして、二人は馬場の広場の両端に立った。
こりゃ、干物を的に撃つつもりか?
的の散吉付近に陣取っていたもの達があわてて逃げ出す。
そりゃそうじゃろう……
酔ってふらふらじゃもの、怖いよのう。
いくら名人の孫一でも当たると思えんわ。
予はハラハラして見ておった。止めるべきか、否か迷った。
孫一が構える。暗闇に、火縄の火が小さく光っておる。
的の散吉の干物が、かがり火に照らされてぼんやり見えておる。
と、突然、孫一、銃の構えをといた。
こちらを向くと叫んだ。
「棄丸どの、お願いする!」
その声を待っていたかのように、素早く孫一に近づいた棄丸、いきなり殴った。
もちろん平手じゃがのう。
「孫一どの、目が覚められましたか?」
「おう!有難し、覚めましたぞ!」
再び構える孫一……
一瞬の静寂の間。
撃つ!
「ドーン」
みごと撃ちぬいた!
ドッとあがる歓声。
孫一が鉄砲をふりまわし、片足をあげて踊りまくる!
これが噂の片足踊りか?雑賀衆がどっと繰り出してきおったわ!
踊る、踊る。
「エイヤ、エイヤ」
「アラサッサー」
五郎以下の槍隊が乱入する。
「イチニ、イチニ、ヤーッ」
残りの者達も、メチャクチャに踊る。
もう、無茶苦茶じゃ。だが、楽しそうじゃ。
予は興奮して見ている間に、思わず酒を飲んでしまっていたのじゃ!
カーッとして、知らぬ内に踊りに乱入してしまっておった。
「おんぶ様じゃ!おんぶ様が踊られますぞー」
「おお、ありがたや、ありがたや」
もう、無我夢中じゃ〜。
「ほ、ほ、ほ。楽しいのう」
そのまま意識がなくなってしもうた。
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