表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/59

第十六章(高台院〜その壱)

 通信手段の限られるこの時代、われらの進撃に、情報はおいつかんじゃろう。

 まして、予がこんなに身軽に動き回るとは思うまい。

 大体、非常識な行動じゃからのう、ほ、ほ、ほ……

 敵の混乱が落ち着くまでに、高台院様との話し合いをすませて大坂城に帰るのだ。

 さて、やっと京の高台院様の隠居場所に到着した。

 高台寺という臨済宗の寺で、秀吉様を弔うためにまんかか様が開創した寺じゃ。

 うむ、立派な寺じゃのう……

 さすが、今はなき、太閤秀吉様が正室、ねえねえ様じゃ。

 まんかか様にふさわしい、堂々たる門構えの寺ぞ。

 しかし、ねえねえさまとはぴんとこん名じゃなぁ……

 どこで変わってしまったのか?

 ここが問題じゃのう。

 まあ、それはとりあえず、良いとしよう。

 はやく境内に入らねばならん。


 「たのもー。開門なされませ!豊臣のものでござる!」

 「たのもう、たのもう」

 いくら呼んでも返事がない。

 これは居留守を使われておるのか?

 ここまで来て、どうしたことじゃ……

 時はすぎてく……

 予に時間の余裕はないのだ。

 ええーい、もう待てん!

 予の正体をここで明かすは危険だが、仕方なし。

 「これ、門番よ。まんかか様の子の、秀頼じゃ、羽柴秀頼じゃ。

 母に会いに来た!」

 静かだった門のむこうで動きが起きた。

 ばたばたと足音が響く。

 ふうー、これでなんとかなるかな?

 待つこと四半時(三十分)、やっと門が開いた。

 そこには正装した老女がひとり、真ん中に立っておった。

 「高台院さまか?」

 予は馬上にて問う。

 いささか失礼な態度であるが、待たされて予は、頭にきとったのだ。

 このばばさま、ひょっとして化粧に時間がかかったのではあるまいな?

 「おやまあ、ご立派になられて、考蔵主でございます。おひさしゅう」

 「さようか……はいるぞ」

 こんなばーさんなんぞ、覚えとらんが早く隠れなくてはならん。

 幸い、境内が広く、二十一頭がすべて、入れるだけの余地があった。 

 羅津鬼も大人しく待っているのじゃぞ、予はかれにすりすりしてから離れた。

 「では高台院さまのもとへご案内いたします」

 「うむ」


 連れて行かれた部屋には、ばーさんが居並んでおった。

 加齢臭と線香のまざりあったにおい……

 少々、予にはきついものがあるが、すこしの辛抱じゃ、我慢、我慢。

 部屋の真ん中におかれた、分厚い座布団の上に、どっかとあぐらをかく。

 正面には決して美人ではないが、親しみやすそうな眼のくりっとした老女。

 いや、まだ老女というのは早すぎる、大年増だ、まだまだいけるでござるよ。

 予は頭を下げて言った。

 「おひさしゅう、まんかかさま」

 高台院殿は満面の笑みをうかべていった。

 「おお、お拾い殿、立派になられて。

 ご活躍、聞き及んでおります。中のかたもよろしく」

 おいおい、人払いしてから話してくれよ、スパイがごろごろしてんだから。

 「ほ、ほ、ほ。この所、忙しくて自分が八歳なのをころっと忘れておりまする」

 予はすっかり癖になった公家笑いをして言った。

 「おほ、ほ、ほ……まあ…… 

 秀頼どの、すっかり公家様ですねえ」

 「いやー。子供と思って、馬鹿にされぬ為の苦肉の策でござったが、

 すっかり癖になりました、ほ、ほ、ほ」

 「ねえねえにも、秀頼どのがおとなに見えまする、すてきですよ」

 高台院殿が、口元をすそでおさえ、笑みを含んでそういわれる。

 なかなかの魅力じゃ、予も惚れそうじゃ。

 ん?予はおなごに惚れっぽいな、守備範囲も広そうな……

 そうだ、本題にはいらねば!

 「この非常事態、予は子供でおられません。

 守護神が、大人にしてくれました。

 ところで、人払いをいお願いします」

 予は時間がないので単刀直入にいった。

 「はいはい。皆の者、遠慮せよ。」

 老女たちは我らに一礼すると、ゾロゾロ出て行った。」

 広い部屋に高台院と予のみとなった。

 予は立ち上がると、両隣の部屋をうかがう。

 よし、誰もおらんな……

 再び座布団の上にどっかと座り、一礼する。

 「お初にお眼にかかる。お拾いともうひとり、それが今の秀頼でござる」

 「承知いたしております。もともとこちらの手違いで起こったこと、まことにすみませぬ」

 高台院殿は深く予に向かって頭をさげた。

 「あ、まんかかさま。すでに予は、混ざり合って秀頼、豊臣家の嫡男になりきっております。

 いままでどおり、子と思い、至らぬところは叱ってくだされ」

 予も高台院殿に向かって頭をさげた。

 「うれしいお言葉じゃ。わらわは、このままでは豊臣家があぶない。

 三成は家康殿との戦、とても勝てぬと思い、

 わらにもすがる思いで子飼いの祈祷師に相談いたしましたのじゃ。

 その結果、わらわが思うてもみなかったことになりました。

 これ、これより後は、うねめ、お前がお答えするがよい」

 突然、床の間が開いた。そこには白い人影が!

 予はびっくりして思わず脇差を投げつけそうになった。

 「あの女か!相変わらず予をびっくりさせるのう、

 もう少しで脇差を投げるところであったぞ」

 その女は高台院の斜め後ろに座ると、平伏した。

 若くははない、大年増だな……

 「申し訳ありません。すべて私の責任でございます。

 あなた様のたましいを、黄泉の国から無理やり秀頼さまに移し変えたのは私でございます。

 あなたさまのやすらかなあの世行きをじゃましてしまいました。

 この上はいかようにもなさりませ。覚悟しております」

 おい、おい……

 予はまだ死にたくないぞ、あの世はいくものか。 

 しかも地獄行きが待っているとおぬし言ったではないか。

 してみると、この大年増のおかげをこうむっているのかもしれん。

 あのままの日々より、今のほうが、よほど良いからの。

 なにしろ、充実しとる、波乱万丈じゃ!楽しいぞ。

 「あーよいよい。過ぎたことは仕方ない。

 それよりいかにして家康を倒すかじゃ。

 今は関が原の戦いにより、世間は家康が天下を取りつつあると思っているであろう。

 このままでは豊臣はジリ貧じゃ、ここで勢いを取り戻さねばならん。

 それとじゃ、この分身、いったいどこからここに来たのか?

 予は未来からとおもっとたが、なにか幾分違うような気がする。

 うねめ、そちはこのたましいをどこから引っ張ってきたのか?」

 「私には、未来?などという途方もない場所にはいけません。

 黄泉の国、亡者の国を時たま覗けるにすぎおません。

 あなたさまは何万、何千とある黄泉の国のひとつにおられました」

 「ふーむ。しからば、もう一度同じ場所にいけるか?」

 「いえ、どの黄泉の国にいけるかわかりません。

 しかも、あなたさまをこちらに連れてきたことで、

 黄泉の国の禁忌に触れたと見え、二度といけなくなりました。

 しかも、夜な夜な閻魔様に責められております」

 「ふーむ、それは哀れじゃのう。」

 そういえばうねめはやつれて見えるのう。

 しかしそうすると、未来からきたのではなく、四次元を渡ってきたのかもしれん。

 ここは異次元の世界というわけだ。

 まあ、どちらにしてもやる事はかわらん。

 生き延びれるよう、戦うのみである。

 「高台院様。関が原は、豊臣恩顧の武将どもが、家康に味方したため敗れました。

 特に福島正則が奮戦しおったのが大きい。

 あやつが東軍についたのは高台院様が推められたのかな?」

「とんでもありません。市松(正則の幼名)はこのところ、よりつきません。

 わが木下一族は西軍に味方して、みな、いまは生死不明にて心配しております」

「それはご心配でございますな。

 ところで、今日来たのは他でもない。

 正則に、やつに使いをおくり、大坂城に来るよう伝えてくだされ。

 これが成れば、わが方へなびくものがぐんと増えます」

 「はい、わかりました。市松をお味方につければ良いのですね?」

「さよう。さすれば、世間はわが豊臣軍が予の指揮の元、まとまった事を知るでしょう。

 その結果、予はずいぶんと助かりまする」

「うれしや、さすがわが息子、たのもしや」

 などとふたりが、とらぬ狸のなんとやらで喜んでいる時であった。

予にばちがあたってしまったのじゃ!


「失礼いたす!」

 捨丸があわてて部屋に入って来た。

 「徳川の軍勢に取り囲まれており申す!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ