プロローグ:いつもの
* 今回のあらすじ *
俺は歴史好きの高校生・下田一郎!
クールな幼馴染・莉央ちゃんと共に、19世紀半ばの中国――つまり清の時代に来ていたぜ!
当時は麻薬であるアヘンがはびこっており、取り締まる動きが強くなっていた。
「どうやら『アヘン戦争』勃発前夜のようですね。
一般的にはイギリスが悪いとされていますが……なかなかとんでもない事件だったんですよ。
現代の先入観を捨て、当時の世相を理解しなければ――真相は見えてきません」
麻薬を買わせる為に戦争ふっかけて、力づくで無理矢理従わせた……世界史ではそう周知されているアヘン戦争。
俺の中ではイギリスの卑劣漢ぶりの代表例という認識だが、どうやら莉央ちゃんの考えは違うようで……?
俺は歴史好きの高校生、下田一郎。
授業が終わった後、興奮冷めやらぬままクールな幼馴染・莉央ちゃんにまくし立てていた。
「全くイギリスって奴は、信義ってモノがねえ国だよなあ莉央ちゃん!
それぞれの国にいい顔して、矛盾しまくりの三枚舌外交なんて……普通の感覚だったら絶対にできねえぜ!」
今日の世界史の授業は、第一次世界大戦がテーマだった。
俺は激怒した。かの暴虐邪智国家たるブリカス……じゃなかったイギリスの卑劣ぶりを、徹底周知せねばならぬという使命に燃えていたのだ。
しかし俺の熱意に反して、莉央ちゃんの反応はいつも通り冷静だった。
「三枚舌……? ああ、フサイン・マクマホン協定、サイクス・ピコ協定、バルフォア宣言でしたっけ。
あれらに関しては詳細を突き詰めていくと、必ずしも矛盾しない、という言説もあるようですよ。
とはいえ人間、貰えると約束された領土は都合よく拡大解釈し、取り分を多く求めたがる生き物ですので」
イギリスの三枚舌外交とその条約内容については、今回のメインテーマではないので割愛。詳細は各自で調べてほしい。
「……むむむ。莉央ちゃんや、今回は随分とブリカスの肩を持つじゃあねえか。
じゃあこっちはどうだ? アヘン戦争! こればっかりは言い逃れできねえだろ!
19世紀の中国に、麻薬を大量に売りつけるために戦争起こしたんだろ? しかも香港までブン捕ってな!
この戦争のせいで、百年以上経った今でも香港じゃ、きな臭い火種がくすぶってるっつー話じゃねーか」
「確かに現在の香港が、ただならぬ状況なのは認めますけど……
その遠因となったアヘン戦争とて、何から何までイギリスが諸悪の根源だと、単純に断じる事はできないのです」
「むう。そこまで言うからには、何か証拠が――」
食い下がる俺の周囲で、異変が起こった。教室が輝き出したのだ。
気がつくと俺と莉央ちゃんは、まったく見知らぬ土地にいた。
「……あーあ。下田さんが余計な事を言ったせいで、また過去にタイムスリップしてしまったじゃないですか」




