承:ジョーおじさんの錬金術! お金儲けは簡単だ!?
俺と莉央ちゃんはジョーおじさんの秘書として雇われ、酒の密造で資金を得たのち、ボストンで証券会社に勤めることに。
ジョーおじさんは株の売買で儲けていた。俺たちもそれに倣い、同じようにある程度の資金を得る。が……
「やはりジョーおじさんの慧眼は素晴らしいです!
彼は若い頃、銀行検査官の仕事をしていました。だから会社の裏情報なんかも、手に取るように分かるんですよ」
「……えっと、莉央ちゃん。ひとつ気がかりなんだが……
ジョーおじさんのやり口ってさぁ、きっぱりと『インサイダー取引』だよな?」
内部者取引。会社内部で仕入れた知識や情報を基に株を売買する――現代では禁止されている取引だ。
「下田さんのおっしゃる通り。これはインサイダー取引ですね」
「思いっきり違法行為じゃん!?」
俺が悲鳴を上げると、莉央ちゃんはチッチッと指を鳴らした。
「下田さん。ひとつ聞きますが……なぜ、インサイダー取引は違法になったと思います?」
「なぜって、そりゃお前。会社の裏事情知ってたら、その株が上がるか下がるかなんて予想できちまうだろ。
そーゆー情報を持ってるか持ってないかで、得するか損するかがほぼ決まっちまうんじゃ、フェアな取引なんてできねーじゃねーか」
「……うーん、間違ってはいませんが。核心ではありませんね」と莉央ちゃん。
「確かにインサイダー取引はアンフェアです。ですが違法となった本当の理由は『皆に広まったから』なんですよ」
「……皆に広まったから? どういう事だ?」
「1920年代のアメリカではまだ、インサイダー取引を取り締まる法律はできていません。
当時の人々に、この行為が問題であるという認識がなかったせいですね」
「えっと、それって、つまり……」
「そうです。『バレなきゃ犯罪じゃない』というのは小悪党の屁理屈に過ぎません。バレたら終わりですから。
なのでジョーおじさんはこう言っています。
『儲けるのは簡単だ。取り締まる法律ができる前にソレをやればいい』と。
すなわち禁止される以前だったら、インサイダー取引は違法でも犯罪でもないのです!」
「ひっでぇ屁理屈だ!?」
とにかくこのジョーおじさん、ビジネス業界じゃ「大悪党」とまで呼ばれるだけあって。
アル・カポネの部下やら、コーサ・ノストラのマフィア・ボスといったクッソやばい連中とも手を組んで、ひたすら株取引で大儲けしていた。
特に彼が得意としたのが、共同購入と呼ばれる――仲間内で資金を出して同じ株を買い漁り、株価を吊り上げるという手法。
「下田さんの好きな小説サイトでも、クラスタを作って短期間で評価ポイント投げまくる不正行為があったでしょう?
アレと似たようなものですね」
「なんか各方面から怒られそうだから、その例えはヤメテ!?」
ジョーおじさんは株で儲けたお金で、映画会社を買収し人気女優と浮名を残す。どうやら自分で映画も作りたいらしい。
そうこうしている内に、好況の絶頂にあったアメリカ合衆国にも転機が訪れる。それは1929年の事であった――