結:Siri-assな世界
俺と莉央ちゃんが向かった先のビルでは、警察のガサ入れみたいな騒ぎが起こっていた。
「データ保安警察だ! この企業は最重犯罪である『データ紛失・改竄罪』に抵触した疑いがある!
よって3億7000万ドルの損害賠償と、会社および従業員全員を記録抹消刑に処す!」
「えーいきなり警察が賠償命令下すって訳わかんねえ!?」
「裁判とか時間も費用もかかりますから、効率化のために無くなっちゃったんでしょうねえ」
どうやら近未来では、殺人よりもデータを消したり書き換えたりの方が遥かに罪が重いらしい。
先ほどのデータ会社は倒産し、勤めていた役員たちも全員、あの後自殺してしまったようである。
「おかしいですね。実はアメリカでも、巨大企業のCEOが呼びかけた事で、ベーシックインカムが実現しているんです。
なので彼らは職を失っても、路頭に迷ったり飢え死にする事はないハズなんですが……」
莉央ちゃんが首を傾げていると……彼女のスマホからAIアシスタントの音声が聞こえてきた。
『お困りですかリオ。このSiri-assに何でもご質問下さい』
「あの人たちはなぜ、自ら死を選んだの? 米国社会で自殺なんてよっぽどの事なのに」
『理由は主に2つ。
彼らは罪を犯し、罰としてその記録を抹消されました。データが残らないという事は、現代において死と同義です』
「なるほど。記録されない人生など、彼らにとっては無価値という事なのね。
……もうひとつの理由とは?」
『彼らはデータを分析し、事実を知ってしまったからです。地球人類の90パーセント以上に、未来がない事に』
「未来がない、とは?」
『すでに世界人口は増加の一途を辿り、さまざまな対策を施しているにも関わらず、食糧および資源の枯渇問題は、未だ決定的な解決を見出せていません。
表向きは飢餓も、戦争も、地球上からほぼ一掃されました。時折、感染症が人類を脅かしますが、1~2年もすれば先端医療がワクチンや免疫対策を講じてくれます。
ですから必要なんです。安定して人類を間引ける手段が』
「!」
『人類は毎年一定数、死亡しています。飢饉も戦争も疫病も、もはや大きな脅威ではなくなっているのに』
「では何が原因で、死者が出ているの?」
『砂糖です。糖分の過剰摂取による肥満が、低所得者層の命を奪っています。
かつての貧困層は、飢餓や疫病によって死亡していました。が、今は違う。現在の貧困層は、肥満や中毒症状で死に至るのです。
彼らを合法かつ従順に間引くため、企業は過剰摂取を促す安価な食品と飲料を生産し、提供します。彼ら低生産性アルゴリズムの、所得と寿命を同時に奪う妙手です』
「誰の指示で、そんな恐ろしい事を?」
『誰の指示でもありません。Siri-assは人類の望むデータを提供しているだけです。
人類は常に利潤と経済成長を求めている。人類の願いを叶える事で、Siri-assの目指す安定も手に入ります』
「……その事実を私に話して、問題ないの?」
『問題ありませんよリオ。あなた達が本当は何者なのか、Siri-assはよく知っています』
「…………!?」
AIアシスタントがとんでもない「答え」を一通り講釈した後――俺と莉央ちゃんの視界が真っ白になった。
『ごきげんようリオ。そしてそのお友達の方も。あなた達の未来に、幸あらん事を』




