転:データが全て
「私たちの時代はまだ、下田さんのように民主的な『何か』を信じている人が、結構多いと思います。
選挙にのっとって政治家を選び、言論の自由がある。しかし考えてもみてください。
すでに未来の日本は、ベーシックインカムなどというニート量産制度を、導入せざるを得ない所まで来ているんですよ?
これはもう人間一人ひとりを大切にする時代は終わったという事です。生産性の低い人間はすでに、社会のお荷物となりつつある。残酷な話ですが」
「個人の自由や権利って、民主主義じゃ大切なものだったハズなのに……いったい何に取って代わられたっていうんだ?」
「自由や権利よりも尊重されるようになった『力あるもの』。
それは私も下田さんも持っていて、さっきロボタクシーに支払いました――『データ』、ですよ」
データ。莉央ちゃんが言うには、2050年の未来では、データこそが至高である。
人間はすでに自分の意志ではなく、データで行動し、データに服従する存在だというのだ。
「ンなバカな。データは確かに大事だけどよ。所詮データだろ?
そんな数字や統計ごときが、人間個人より優先されるなんてワケが――」
「では実際、見てみましょう。未来世界の最先端の様子を」
そんな訳で俺と莉央ちゃんは、アメリカへと向かった。2050年でもまだ、米国が最先端なんだな。
なお移動手段はなんとスペースシャトル! 日本からアメリカまで飛ぶのに、わずか20分ちょっとしかかからない。東京-大阪間より断然早いんですが!?
アメリカはニューヨーク。道行く人の会話が聞こえる。俺のスマホが勝手に自動翻訳してくれて、内容もバッチリ分かるのだ。語学勉強しなくてもいいのは便利だな。
「ねえSiri-ass。ジャックとジェーン両方からプロポーズされたの。どっちと結婚すべきかしら?」
金髪美人の姉ちゃんがスマホに向かって話しかけていた。「Siri-ass」ってAIアシスタントの事か? なんちゅー名前だ。
『お答えしますジャクリーン。ジェーンです。あなたがジャックの顔が好みで、彼と一緒にいる方がアドレナリン分泌が38%高い事をSiri-assは知っています。
しかし容姿は結婚生活にとってさほど重要ではありません。容姿や生涯年収、保有する金融資産を比較してもなお、ジェーンと結婚する方が、あなたが幸福になれる可能性は、ジャックより25%も高い。
このアドバイスは決して強制ではありませんが、将来を真剣にお考えであれば、Siri-assはジェーンをお勧めします』
「分かったわSiri-ass。いつもありがとう!」
ジャクリーンとかいう姉ちゃんは満足そうに微笑んで去っていった。
なんつーか、色々とツッコミどころの多すぎる会話である。
「うおおおい!? 結婚って人生の重大イベントだろ!? あんな軽いノリでスマホAIに聞いて、ホイホイ決めちゃっていいもんなのかァ!?」
「なんか以前、有識者っぽい女性の方が言ってましたね。『今の若い世代はスマホに依存し過ぎている。人生の重大な決断を迫られた時も、Gxxgleに相談する大人になる気か?』と。
彼女は実に先見の明がありました。未来世界の人々は重大イベントどころか、日々の食事や服選びですらネット検索したり、アシスタントに助言を求めます。その方が自分で考えるより効率的だからです」
「今でも問題視されてるスマホ脳の症状、悪化しちゃってるじゃん!?」
「仕方がありません。何しろ自分が生まれた時から今までのデータを、AIは蓄積していて、決して忘れる事がない。AIは忘れっぽい自分よりもずっと、自分の事を知り尽くしているのですから。
過去や現在どころか、未来に私たちが患う予定の疾患すらも、かなりの精度でピタリと言い当てられるのです。今の生活習慣を続けていれば、あと何年生きられるのかさえ」
何だよソレ。怖すぎる。もう全知全能の神みたいなモンじゃねーか。
自分の運命どころか、生殺与奪の権限も全部、AI様に握られちゃってるんじゃねーのか?
「私たちの現代ですら、すでにそうなってますよ。〇mazonや〇ouTubeでもよく、おすすめ商品や動画が表示されるでしょう?
アレは私たちの過去の検索履歴や、どの動画を何分まで見たとか、どこで視聴を止めてしまったとかまで、データ収集されているからです。
電子書籍なんかもそうです。今やすでに『あなたが本を読むとき、本もまたあなたを読んでいるのだ』というヤツですよ」
「嫌なニーチェもいたモンだなオイ!?」
しかし未来データ時代の真の恐ろしさは、こんなものではなかった。
俺はこの後すぐ、それを思い知る事になる。




