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莉央ちゃんとタイムスリップ!【短編シリーズ】  作者: LED
第2話 世界恐慌(アメリカ金融恐慌)編
5/56

起:俺と莉央ちゃん、「大悪党」ジョーおじさんに弟子入りする!

* 今回のあらすじ *


 俺は歴史好きの高校生・下田しもだ一郎いちろう

 クールな幼馴染・莉央りおちゃんと共に、20世紀初頭のアメリカにタイムスリップしていたぜ!


「我々現代人が、20世紀初頭に転移したら、やる事はひとつですね。

 ズバリ、株で大儲けです!」

「……えぇえ……」


 そんな訳で俺と莉央ちゃんは、アイルランド人の「大悪党」ジョーおじさんと手を組んで、やりたい放題荒稼ぎ!

 ところが1929年10月に入ると、世界史でも有名な「アレ」がやってくる……!

 果たして俺と莉央ちゃんの運命やいかに?



参考文献:「会計の世界史」 田中 靖浩/著(日本経済新聞出版社)

 なんてこった、またかよ! また見知らぬ土地だよ!?


「うおおおい!? どこだァここは!?」


 しかし以前の鎌倉時代と違い、今度はやけに現代的。

 高層ビルが立ち並び、行き交う人々はみんな羽振りが良さそうだ。


「落ち着いて下さい、下田(しもだ)さん」

 そう言って俺を諭してくれたのは、クールな幼馴染・莉央(りお)ちゃんだ。

「建物の年代から察しますに、1919年のアメリカですね。

 私の記憶が確かならば、『禁酒法』が制定されて間もない頃だったかと」


「いつも思うけどさ。見ただけで年代と土地の特定、早過ぎない? 莉央ちゃんや」


 まあ俺自身、この幼馴染の冷静さと博識ぶりはよく知っているので――今更驚かないのだが。


「ときに下田さん。この前わたしが薦めた『簿記2級』の検定試験、結果はどうでした?」

「ん? ああ……ちょっと難しかったけど、何とか合格できたよ。

 これも莉央ちゃんが勉強を手伝ってくれたお陰だな」


「素晴らしい。では下田さん、足手まといにはなりませんね」

「へ? どーゆー意味だそりゃ。つーか足手まといって」


「我々現代人が20世紀初頭にタイムスリップしたら、為すべき事――何か分かりますか?」

「え? えーっと……」


「そうです! 株で大儲けです!!」

「いや、俺まだ何も言ってないんだけど……」


「そうと決まれば早速、近所の酒屋を回りましょう!

 身寄りもお金もない私たちを『使える人材』だと売り込みに行くのです! 我らが『ジョーおじさん』の下へ!」


 莉央ちゃんは一方的に話を進めると、訳の分からない事をまくし立てて俺の首根っこを掴んだ。

 っていうか、ジョーおじさんって誰?


**********


 俺と莉央ちゃんは、半ば強引に場末の酒屋巡りをし、「ジョーおじさん」とやらに遭遇した。


「ミスター・ジョー。お会いできて光栄です。わたし達は貸借対照表(バランスシート)が読めます。

 必ずあなたのお役に立ちます。どうかわたし達を雇って下さい!」

「莉央ちゃん莉央ちゃん。この人たち――何やってるの?」


 うらぶれた場末という事もあり、ジョーおじさんと周囲の人々は全員そろって人相が悪い。


「何って、決まっているでしょう。密造酒の売買ですよ。

 先ほど説明したでしょう? アメリカでは『禁酒法』が制定されたばかりだと」

「思いっきり違法行為じゃん!?」


 俺が悲鳴を上げると、莉央ちゃんはチッチッと指を鳴らした。


「分かってないですね。そもそも酒の販売を法律で禁止する――なんて事じたいがナンセンスなんです。

 人類最古の友とも言われる酒。どんな手を使ってでも飲みたいと思うのは、人類の根源的な欲求。

 だから目ざとい人はこう考えます。『これは大儲けのチャンス到来!』と」

「いや、正論かもしんないけどさ。

 (いち)高校生として、その認識はどーかと思うよ莉央ちゃん」


 俺だって歴史好きの端くれ。莉央ちゃんの言いたい事は分かる。

 「禁酒法」が悪法だって事も知っている。確かマフィアで有名なアル・カポネも、密造酒で大儲けしたって話だし。


「がっはっは、まだ若い黄色人種(イエロー)なのに、なかなか面白い事を言うヤツだ!」


 ジョーおじさんは破顔一笑。莉央ちゃんの堂々たる態度と弁舌に、何か光るモノを感じたらしい。


「バランスシートが読めると言ったな? もし本当なら確かに使える逸材だ。

 何しろビジネス業界でも、そんな専門的な知識を持ってるヤツはごく少数だからな!

 いいだろう。お前たちが有能なら、人種なんぞで差別はせん。雇ってやってもいいぞ」

「ありがとうございます。恩に着ます」


 莉央ちゃんの話では――このジョーおじさん、アイルランド系移民の三世で、家は結構裕福なのだそう。しかも天下のハーバード大卒だ。


「……って、そんなエリートコースっぽい人が、こんな所で酒の密売に手を貸してるのかよ!?」

「アイルランド人は酒に強いですからね。それに何より儲かりますから」

「そーゆー問題なの!?」


「そんな大袈裟に畏まらんでもいい」とジョーおじさん。

「何しろわし、学校の成績はとんと酷かったからな! エリートでも何でもないわい。

 何とかハーバード大に入れたのも、親がしこたまカネを積んでくれたからだ!」


「……えぇえ……」


 ともかく俺と莉央ちゃんは、この日から「大悪党」ジョーおじさんの下で働く事になった。

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