エピローグ:悲劇の原因、それは不公平「感」
ルイ16世の首が高々と掲げられ、「革命万歳」と叫ぶ人々。
彼らは熱狂していたが……胸が悪くなるような狂気に彩られた場面だった。
そして俺と莉央ちゃんは、現代に戻ってきていた。
「よかったですね下田さん。あれ以上、血生臭い内ゲバの連続を見せられた日には。
私はともかく、下田さんの精神衛生上良くなかったでしょうし」
「……ああ、そーだな……」
俺はただぼんやりと頷いていたが。
一見平静を装っている莉央ちゃんですら、若干血の気が引いていた。いくらクールな彼女でも、今回ばかりは刺激が強すぎたようだ。
フランス革命のその後は、ギロチン祭りをしていた連中も軒並みギロチンにかけられる事になる。まさに因果応報といった所か。
「世界初の民主主義が聞いて呆れるんだが……」
「どちらかと言うと、フランス革命の理念を引き継いだのは、共産主義でしょう。
革命政府は『パリ・コミューン』と呼ばれました。今日でも共産主義者の事をコミュニストと呼びますしね」
さらにその後、軍人のナポレオンがヨーロッパ中を巻き込んだ大戦争を起こし。ナポレオン失脚後は王政復古するも、王位に就いたのはあの「トゥギャザーしようぜZE!」とか言っていたルイ16世の弟、ボンクラなシャルル10世だった。案の定彼は、ロベスピエールばりの圧政を敷こうとして、民衆に革命を起こされたりしている。
「よく当時の第三身分は圧政で重税に苦しめられていた、と言われますが。
実は比較してみると、旧体制フランスの税負担は、イギリスのそれよりも少なかったのです」
「え……でもイギリスは別に、王様の首を刎ねるほどの暴動に発展しなかったよな?
なのになんでフランスは、こんな酷い事になっちまったんだ?」
「最大の原因は不公平だった事ではありません。『不公平に見えた』事です。
貴族や聖職者は免税特権を持っている。だから税金逃れをしているに違いない。
徴税請負人は私的に徴税権を持っている。だから不正に蓄財をしているに違いない……
そんな分かりやすい、負のイメージだけが定着してしまったのです。実際どうだったのか、正確に把握していた人はほとんどいなかったんじゃないでしょうか」
人間、真実よりも「真実っぽい何か」をたやすく信じる。
よく言われる話だが、それが積もり積もってこうなったんだとしたら、やるせない話だ。
「今でもネットとか見てると……そーゆー所、あんま変わってねえ気がするなぁ……」
「そうですね。でも下田さんならきっと、大丈夫ですよ。
少なくとも、飛び込んできた不確かな情報にすぐに飛びついたり、信じ込んだりするタイプじゃないでしょう?」
言われてみれば……莉央ちゃんと話すようになってから。
すぐに突っ走りがちだった俺も、ちょっとは落ち着いて考えたり、事実を確かめたりするようには、なったかもしれない。
「まあ、それは莉央ちゃんのお陰でもあるからな。ありがとよ」
「…………」
素直に礼を言ってみたんだが、莉央ちゃんは押し黙ってしまった。
「え? どしたの莉央ちゃん。何か俺、言い方まずかった?」
「……いいえ。そんな事はないですよ」
再び口を開いた時にはすでに、彼女はいつものクールな幼馴染の顔に戻っていた。
(第9話 おしまい)




