表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
莉央ちゃんとタイムスリップ!【短編シリーズ】  作者: LED
第9話 フランス革命編
44/56

二:華麗なるフランス財務大臣の皆さん(但し全員失敗)

「ここまで聞くとルイ16世、有能な為政者(いせいしゃ)っぽいんだが……それが何でフランス革命なんか起こされちまったんだろうな?」

「彼ひとりだけ優秀でも、もはやどうしようもない事態の連続でしたからね。とりわけ何人も首がすげ代わった財務大臣の皆さんが、ことごとく失敗続きでしたし。

 その全員を取り扱うと非常に煩雑(はんざつ)になるので、ここは主だった方を四人だけ紹介しましょう」

「主だった人だけでも四人もいるのか……」


 一人目のネームド財務大臣、テュルゴー。


「テュルゴーさんはアダム・スミスの大ファンで『自由経済こそが国を富ませるのだ!』と息巻いて、穀物価格の自由化を推し進めました」

「へー。それでどうなったん?」

「折悪しく天候不順で不作が続き、穀物価格が高騰(こうとう)。自由化したせいでパンの値段は2倍に跳ね上がります。

 最初に私たちが見た、飢えた農民たちによる反乱祭りは、テュルゴーさんの政策失敗にも一因があったのです」

「てんでダメじゃねーか!?」


 結果テュルゴーはクビになり、その次の大臣も無能だったので二週間でクビ。

 という訳で二人目のネームド財務大臣は、ネッケルなるスイス出身の銀行家である。


「ネッケルさんは人によっては評価している方もいるんですが、ナポレオンはこう評しています。

 『どんちゃん騒ぎと自惚(うぬぼ)れと、数字の羅列しか能がなく、これほど凡庸な男を未だかつて見た事がない』と」

「ボロクソにディスってんじゃねーか!?」

「まあ、こんな男でしたが第三身分ブルジョワ出身でしたので、不思議と民衆人気だけはあったんです」


 ネッケルは資金調達のため、終身公債年金なるものと王立宝くじを発行。これが大好評で、飛ぶように売れた。


「おー、みんな争うように買いまくってるじゃねえか。意外とネッケル有能なんじゃね?」

「当然です。終身公債年金は年利8パーセント。のちに10パーセントにまで上昇しますから」

「え……それって高いの?」

「日本がバブル絶頂期だった頃の銀行金利が年6パーセントですから、それより上ですね。ちなみに年8パーだと、10年後には元本が2倍近くに膨れ上がります」

「ちょっと待って。フランス王室借金まみれなのに、その利率はムチャなんじゃね!?」


 実際ムチャであった。このクソ高い公債の金利を支払うため、王室は借金で借金を返す悪循環(あくじゅんかん)に突入してしまう。

 この状況を打破するため、ネッケルはフランスの財務状況を一般公開した。だが結果は散々。民衆の理解を得るどころか、既得権益(きとくけんえき)の内情をバラされた貴族たちの怒りを買うだけだった。彼らは「スイス人の銀行家がフランスを乗っ取ろうとしてる!」と反ネッケルキャンペーンを展開。

 進退(きわ)まったネッケルはルイ16世に直訴(じきそ)する。


「陛下。かくなる上はこのネッケルをクビにするか、我が改革案を断行するか。二つに一つですぞ!」

「あっそ。じゃ、お前クビな」

「アイエエエ! クビ!? クビナンデ!?」

「ネッケルよ。そなたを登用した時、余は最初に何と言ったか覚えているか? 『借金を減らしてくれ』と頼んだハズだ。

 なのに増やしてどうするのだこのアホがァ!?」

「え~、でも~、だって~、フランス王家の信用じゃ~、これぐらい高利じゃないとみんなお金出してくれないしぃ~」

「もう良い分かった。そなたを信じた余が愚かであったわ!」


 やや暴走気味のネッケルに、さしものルイ16世も反感を持っていたらしく。無事罷免(ひめん)となった。


「そもそもなんでネッケルは、財務状況の公開なんてやったの? 敵しか作ってないじゃん」

「イギリスも財務公開していて、それでいて徴税(ちょうぜい)も上手くやっていたからです。

 しかしながらイギリスが上手くやれていたのは、政府に信用があったからでして……

 逆にフランスはこれまで何度も債務不履行(デフォルト)やってましたから、全く信用がなかったんですね。

 公開された財務状況も『ホントかな? 粉飾(ふんしょく)じゃねーの?』と疑われてしまうほどでしたし」

「……うわぁ……」


 ネッケルがクビになった後、新しく就任した財務大臣が公開した帳簿では8000万リーブルの赤字となっていた。


「なおネッケルさんが以前公開した帳簿には、なぜか1000万リーブルの黒字と書かれていました」

「ちょっと待てコラ。なんで財務大臣が交代しただけで帳簿そんなに変わるんだよ!?」

「ルイ16世も同じことを思ったらしく、『このおっさん計算能力ないやろ』と疑われて即クビになりました」

「……えぇえ……」


 その後も何度か無能に交代してはクビになり。

 三人目のネームド財務大臣こと、借金貴族のカロンヌが就任した。

 なお彼は「借金がなかったらこんなクソな仕事やる訳ねえだろ!」と公言していたぐらい、嫌々だったらしい。


「しかしカロンヌさんが取った打開策は増税ではなく、フランス国内の産業に投資して経済を活性化しようというものでした。

 ルイ16世もこれにはニッコリでして、全面的にカロンヌさんの政策を後押しします」

「お、なんか上手く行きそうじゃねえか」

「ところがどっこい、先に産業革命を起こしていたイギリスと結んだ条約のせいでフランス産業は打撃を受けてしまいます。

 しかもこの後、フランス革命だのナポレオンさんだの、とにかくフランスの金が無くなるキングボンビー的なイベントが続発するので、フランス工業化の夢は19世紀まで頓挫(とんざ)する事になります」

「その2つの扱いキングボンビーなの!?」


 そんなこんなでフランスの借金は1786年、1億リーブルの大台を突破。「ヤバいよヤバいよ!」という事で抜本的な改革案が浮上したのだが……


「は? 今まで免除されてた土地税や、地域で税率バラバラだった塩やタバコの税を平等に取るだァ?

 しかも関税も廃止? カロンヌの野郎、何考えてやがる!? ザッケンナコラー!!」


「ん? あの騒いでいる貴族連中は?」

「彼らは高等法院の皆さんです。貴族や聖職者たちの免税特権を支える、旧体制の権化(ごんげ)のような人々ですね。

 実はフランスの王権って、思った以上に脆弱(ぜいじゃく)でして。王令を出しても高等法院を通らなければ、簡単に握り(つぶ)されてしまうシステムでした」

「え。何だよソレ……つまり元を正せば、フランスの財政赤字って全部あいつらのせいなんじゃ……」

「そうなんですが……実は先代国王の頃、高等法院は廃止の方向だったんです。まあルイ16世が復活させちゃったんですけど」

「えぇえ……なんでまたそんな事を。足を引っ張られるの目に見えてんじゃん!」

「高等法院、なぜか民衆人気はあったんで……彼らの要望に応えたのです。これが民を愛しすぎるルイ16世の美徳にして、欠点でもありますね」


 カロンヌが提示したのは、思い切り既得権益を切り崩す法案ばかり。旧体制の牙城たる高等法院の貴族たちが、ウンと言うハズもない。

 ルイ16世も「余りに性急すぎるのではないか」と難色(なんしょく)を示したが、カロンヌは必死に国王を説得し承諾(しょうだく)させる。


「といっても、そもそも高等法院が承認しねえんじゃ、王令なんて紙クズ同然なんじゃ……」

「はい。なのでかつてネッケルがやったように、カロンヌは財務状況を公開し窮状(きゅうじょう)(うった)え、民衆から支持を得て改革案の正当性を担保(たんぽ)しようとしました。が……」


 ここに来てとんでもない事態が起こった。クビになったネッケルがカロンヌ案に公然と反対したのだ。

 ネッケルは無能ではあったが「財務大臣やるのに報酬(ほうしゅう)はいりませぇん!」と言っていたので民衆には人気者。

 対するカロンヌだが、贅沢(ぜいたく)好きで借金まみれであり、報酬に釣られて財務大臣を引き受けたというイメージが先行しており……要するに、嫌われていたのである。


「……という訳で、カロンヌの案はもろくも踏みにじられました。頼みの綱の民衆も『ネッケルが正しい!』と反対する始末」

「政策じゃなくて好き嫌いが判断基準になってるじゃねーか!?」

「いやまぁ、この時点で何が正しいかなんて民衆には分かりませんし。よくある話ですよ」


 カロンヌは全方位から集中砲火を浴びていた。反カロンヌ派の中にはネッケルや、ルイ16世の妻マリー・アントワネットまでいたのだ。


「1788年、カロンヌはクビになります」

「なんつーか……どうしようもねえ感あるなコレ……」


 次に就任したのは、四人目のネームド財務大臣にして、反カロンヌ派の急先鋒、ブリエンヌなる枢機卿(すうききょう)

 彼はルイ16世自らが選任した「名士会議」議長であったが、悲しい事に王とは全くそりが合わなかった。


「王様自ら選んだ人が就任したのに、なんで嫌われてたんだ?」

「ルイ16世は信心深い人でしたが、対するブリエンヌは聖職者のくせに無神論者でして。ノートルダム大聖堂への入場拒否した経歴があります」

「『無神論者の聖職者』ってパワーワードどころか盛大に矛盾(むじゅん)してるじゃねえか!?」


 この頃になると、度重なる挫折(ざせつ)を味わったルイ16世、段々と精神に異常を来しはじめる。

 会議中に現実逃避して狩りに出かけたり、突然大声で泣きわめいたり。過度のストレスで暴食し肥満体になったり、妻のマリー・アントワネットへの依存度も高くなっていく。


「……ひょっとして『ベルサイユのばら』とかで極端に無能な君主扱いされてたのって……」

「はい。恐らくこの時のイメージが先行してしまったのでしょう。無理もありませんが、ルイ16世は極度の憂鬱(ゆううつ)状態に(おちい)っていました」


 しかし世の中分からないもので、全くそりが合わなかったハズのブリエンヌ、心変わりをして王を支持する立場に変わった。

 もちろん名士会議の皆さんからは「裏切り者め!」と非難ゴウゴウ。名士会議は解散に追い込まれた。


「……名士会議とは何だったのか」

「ホントに何だったんでしょうねえ……」


 改革案を通すためには高等法院を承諾させるしかないが、当然つっぱねられる。

 国王と高等法院は全面対決の姿勢を見せ、数々のゴタゴタを経てフランス全体を揺るがす事態になるが……結局ほとんどの勢力が、なんと民衆までもが高等法院を支持。


「なんで民衆まで反抗してんだよ……」

「下田さん。第三身分も色々いたの覚えてます? お金を持っていて税金の抜け穴を知っていたブルジョワと、そうでない貧困層と。

 つまり第三身分といえども決して一枚岩ではないし、現状に不満を持っていた層ばかりではなかった、という事です」


 かくてルイ16世が導入しようとした土地税ほか諸々(もろもろ)の改正案は廃案となり、フランス財政は改善どころか、さらなる借金を背負う羽目になったのであった。


「えーと、これ……むしろ国王が改革しようとしてて……貴族や民衆はそれに猛反発したって話……?」

「はい。既得権益を守りたかったのは一貫して、貴族や聖職者たち、そして民衆でした」


 何だコレ。フランス革命でも何でもないじゃん。むしろ「国王vsそれ以外全員」だし、既得権益にはヒビひとつ入らなかった事になる。

 では一体……世間一般で習う世界史でいうところの「フランス革命」とは、本当は何だったのだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ