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莉央ちゃんとタイムスリップ!【短編シリーズ】  作者: LED
第7話 ハイチとドミニカ編
36/56

エピローグ:自由の名の下に、破壊は進む

 俺と莉央(りお)ちゃんは、現代に戻っていた。


 バラゲールさんの今日の評価は、功罪入り乱れており賛否両論である。

 彼の取った環境保護政策のお陰で、ドミニカ森林の大部分は守られた。しかしその為に強いた国民への弾圧も無視できない。

 ついでに言えば、彼の取った環境対策すべてが有効だったとも言い難く、余計に評価を難しくしていたりする。


「バラゲールさんを評する言葉は様々です。ある歴史家は『状況に応じて被る皮を変える蛇』と呼びました」

「そりゃまた随分な表現だね」

「しかし彼に対する最も的確な評価は――『邪悪、なれど必要悪』。これに尽きるでしょう。

 ちなみにこれ、バラゲールさんに投獄されて拷問受けた人の言葉ですよ」

「……マジかよ……」


 目的を達するためには手段を選ばず、敵対者は容赦なく罰する、冷徹なマキャベリストだったバラゲールさん。

 彼はドミニカを経済発展へ導いたものの、貧富の格差は広がり、彼の政権下において汚職も蔓延していた。

 しかしながらバラゲールさん自身は、決して汚職に手を染めず、私腹を肥やす事もなかったという。


「結局のところ、政治というのは富をどう再分配するか、なのでしょうね。

 20世紀半ばの中国を成長させた鄧小平(とうしょうへい)さんも、格差社会を招いたと批判されています。

 誰かを富ませる為には、誰かに貧乏クジを引いてもらわないといけないのです。

 さもなくば、みんな揃って貧しくなるしかありません」


 富の再分配――その言葉を聞いて、俺はイスパニョーラ島の地図をまじまじと見た。

 比較的平地が多く、産業も色々興せそうなドミニカの領土に比べ、ハイチの領土は険しい山地ばかり。これじゃ林業ぐらいしかできそうにない。

 俺はようやく、バラゲールさんが最期に遺した言葉の意味を理解した。


「もしわしがハイチの大統領だったら……きっとデュヴァリエと同じ事をしておっただろう」


 確かにドミニカは経済発展した。しかしそれは、発展できるだけの恵まれた土壌があったからだ。

 それに引き換えハイチはどうか? 仮にドミニカと同じだけの投資を行ったとしても、得られる成果は遥かに少ないだろう。


「ハイチは国民の9割以上が貧しいままでしたが、逆に言えばそうする以外に手がなかったのかもしれません。

 デュヴァリエ親子がいなくなった後も、政変暗殺クーデターのオンパレードですし。

 30年も統治できた彼らの方がマシだったのかもしれませんね」

「やな比較論だなー」


 そして現在。ドミニカでは環境保護政策が徐々に緩和されつつあり、森林伐採が加速しているそうだ。

 加えて隣国のハイチから密入国してくる、木材泥棒の被害も深刻になりつつある。


「バラゲールのクソ野郎め。『金のなる木』を独り占めしやがって……

 だが横暴な独裁者はもういない! 俺たちは自由なんだ!

 自由とは、民主主義とは! 俺たち一人ひとりが金持ちになる自由だッ!!」


 乱伐しているドミニカやハイチの人々に言わせれば、そういう話なのだろう。

 今まさに、ドミニカでは環境破壊が進んでいる。大気汚染も進んでいる。自由の名の下に。民主主義の名の下に。

 もし島の森林が全て禿山になれば、土壌は流され農地はマトモに使えなくなる。水力発電だっておぼつかなくなるのは必至。そうなったらもう――


「比較的小さなイスパニョーラ島ですら、これです。

 中国ほどの大きな国が民主化したら、果たしてどうなってしまうのか……ゾッとしない話だと思いませんか?」


 どちらが正しいのか――いや、どちらが「マシ」なのだろうか?

 莉央ちゃんの問いかけに、俺は黙りこくってしまうしかなかった。



(第7話 おしまい)

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― 新着の感想 ―
[良い点] クソ野郎が多すぎて笑えます。特に莉央ちゃんの不思議な毒舌というかなんとも言えない紹介が愉快。 [気になる点] 中国が民主化されていないからあの程度。言われてみれば、時の権力者がまともな方が…
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