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莉央ちゃんとタイムスリップ!【短編シリーズ】  作者: LED
第6話 泣いて馬謖を斬る編
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急:張郃と馬謖、その将器の差

 俺と莉央(りお)ちゃんはこっそり抜け出して、()軍の様子を偵察していた。


「む……? (とりで)にも水場にも兵がおらぬ、だと?」

「は。どうやら(しょく)軍は南山(なんざん)に移動し、そちらに布陣しているとの事」


 報告を聞き、魏の将軍・張郃(ちょうこう)はほくそ笑んだ。


「……諸葛亮(しょかつりょう)とやら。これまでさほど名は知られていなかったが……

 こたびの手並み、敵ながら見事と感心しておったのだ。

 にも関わらず、街亭(がいてい)のような守りやすい拠点を得ながら、砦に頼らず山に登るとはな。

 やはり夷陵(いりょう)の戦いで負った痛手から回復しきってはおらなんだか。将が育っておらぬ」


「して、いかがなさいますか?」

「砦を押さえ、水場を占拠せよ。我が軍はしばしの間、この街亭に留まる」


「こ、ここで持久戦の構えですか将軍? 祁山(きざん)への救援のため、無理を押して行軍していたのでは……」

「状況が変わったのだ。山に陣取った蜀軍を放置すれば、我が軍は挟み撃ちに遭う。

 さりとてこのまま山に攻めかかれば、高地の敵相手では不利。であればどっしり構え、敵が渇くのを待つ」


 一見、張郃の決断は理に叶っており、後世からすれば当然の選択だったように思われる。

 だが莉央ちゃんは大いに関心したらしく、しきりに褒め称えていた。


「……むむむ。流石は張郃。歴戦の手練れ。何より胆力が違いますね」

「へ? そーなの? この判断ってそんなにスゴイ事なのか?」


「私たちは結果を知っていますから、そう思えてしまいますが……この時点で持久戦を選ぶのは覚悟が要りますよ。

 下手をすればここで睨み合っている間に、祁山(きざん)が落ちてしまうかもしれません。

 そうなると張郃さんの評価は散々です。『戦いもせず、尻込みしている間に救援の機会を逃した』と非難される事でしょう」


 戦国の世にありがちな話だが「戦わずして負けるより、戦って負けた」方が、評価を落とさないケースが多々ある。

 かの織田信長の家臣・佐久間信盛(のぶもり)が追放処分を受けたのも、本願寺攻めの折、四年以上も攻勢を仕掛けずにいたのを「サボっていた」と解釈されたからだ。

 なので、武将というものは往々にして「このまま座していれば損害は出ないが、戦わないと臆病者と(そし)られる。なら戦って負けた方が『一生懸命やりましたが力及びませんでした』と言い訳が立つ」と考えがちである。


 恐らく馬謖(ばしょく)も、そうした判断から敢えて水場を捨て、短期決戦を選んだのかもしれない。

 だが張郃はそんな安い挑発に乗るような凡将ではなかった。


「あるいは前任の夏侯楙(かこうぼう)であれば、まんまと敵の狙いに乗っかったやもしれぬな。

 だが勘違いするな。軍とは己の栄達のための道具にあらず。(おそ)れ多くも魏の皇帝陛下より(たまわ)った、国家の財産である。我個人の打算や感情のために、使い潰して良いものでは断じてない。

 いざとなればこたびの不始末は、全てこの張郃が責任を取る。それが総大将の務めというものだ!」


 ここにきて、己の事しか考えが及ばぬ将と、国家を見据えて動ける将との差が出た。出てしまった。


「……アカン。これは馬謖(ばしょく)じゃ勝てんわ。将としての度量も経験も違いすぎる……」

「ええ。この時点で、山に布陣した彼の軍の命運は尽きました。

 人間、食糧が無くても水さえあれば、一~二ヶ月は生き延びられるといいますが……逆に水が無い場合、どれだけ食糧があっても四日と保ちません」


 馬謖の軍はわざわざ(ふもと)に降りてまで、水を汲もうとしていたが、全て張郃の守備兵に捕捉され、敢え無く失敗。

 水汲みに来ていた兵士が真っ先に水を飲もうとしていた時点で、蜀軍の水不足の深刻さが(うかが)い知れる。


「こういう経緯で進退(きわ)まって、馬謖は一か八かの逆落としに賭ける羽目に陥った、って訳か」

「演義ではそういう話になっていますが……それは違うかもしれません」


「へ……? どういう事だってばよ、莉央ちゃん」

「最後の疑問が残っているんですよ、下田さん。『なぜ、馬謖は斬られたのか』」

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