表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
莉央ちゃんとタイムスリップ!【短編シリーズ】  作者: LED
第5話 日本武士のルーツ編
25/56

急:平安時代のモビルスーツ、源為朝さん

「はえ~……これが武士の成り立ち……理由が分かってても、発想として頭おかしいレベルだよなぁ……」

「重装の騎兵という時点で、ものすごくコストが高く、数が揃えられません。

 各種武器や鎧もそうですが、何より馬です。馬一頭で人間の十倍は食べますからね。しかも戦闘用の軍馬ですので、当然農業などの生産活動には使えません。ただひたすらに大飯を食らいまくるだけです。

 これは現代でいうところの、高級外車みたいなもの。よほど裕福な貴族や地主でもない限り、維持する事すら難しいものだったのですよ」


 そして特筆すべきは、日本武士のメインウェポン「弓」。これはただの弓ではない、和弓と呼ばれる縦に長い複合弓である。

 現代にも伝わる弓術や礼法を見ても分かるが、弓の構え方、撃ち方も西洋のアーチェリーとは異なる。明らかに馬上から射る事を意識した型なのだ。

 鎌倉武士のたしなみとして有名な流鏑馬(やぶさめ)犬追物(いぬおうもの)笠懸(かさがけ)。これらはいずれも騎射が前提の実戦訓練的なスポーツだ。


「あんな扱いにくそうなのに、ホント日本の武士と言えば弓ってカンジだよな……」

「戦国時代でも『海道一の弓取り』なんて言葉があるように、武士のまとめ役たる戦国大名は『弓使いの頭領』という認識です。それほど弓の腕前は重要視されていたという事ですね。

 そして実際威力も凄まじいです。源義家(みなもとのよしいえ)源為朝(みなもとのためとも)など……名だたる武士の活躍が語られる時、決まって弓の話が出てくるくらいですし」

「でもさー、いくらデカくたって、弓だろ? そんなに強いのか?」

「疑うんでしたら、実際のところを見てはいかがでしょうか」


 莉央(りお)ちゃんの言葉が終わらないうちに、時代が進んで一人の武士の姿が見えてきた。


「……って、なんだアレ!? メチャクチャごっつい! 筋肉ダルマってレベルじゃねーぞ!?」


 俺は度肝を抜かれた。いや、武士は武士なんだが……他の連中と比べても明らかに二回りぐらい体格が違う。某世紀末漫画の巨人キャラのような凶悪な風貌だったのだ。


「彼こそが鎮西八郎(ちんぜいはちろう)こと、源為朝(ためとも)さんです。身長は2メートル越え、左腕は右腕より12センチも長かったと言われています。イングランドの長弓兵ばりに凄まじいですね。

 なお彼の弓は、並みの男が5人がかりでようやく引く事ができるほどの特注品だったとか」

「……どう見てもただのバケモノです。ありがとうございました」


 為朝さんが戦場に立つと、それはもう暴れ放題。

 放つ矢は簡単に敵の分厚い大鎧をブチ抜くどころか、一発放てば二人まとめて射殺できるほどだった! いやちょっと待って。この時代にそんな機関銃みたいな威力、ありえないでしょ!?

 というか、威力もさる事ながら射撃の正確さも恐るべき精度。兄貴に向かって威嚇射撃した時など、兜の鋲部分だけを正確に削ってしまった。もはやチートというのもおこがましい。


「そんな為朝さんも武運つたなく戦争に敗れ、弓の腕が怖いからと利き腕の腱を切られ、島流しにされてしまいます」

「気の毒ではあるが……確かに野放しにはできねえよな……これでさしもの為朝さんも、大人しくなっちまうのか」


 ところがどっこい、傷が治った為朝さん、配流された伊豆(いず)で復活し、性懲りもなく再び大暴れ。え、ちょっと待って。利き腕の腱を切られたんじゃないの? ピンピンしてるんだけど!

 という訳で為朝さんは伊豆諸島を制覇し、中央政府に年貢も納めなくなってしまった。これに怒った朝廷は、討伐軍を派遣するのだが……


「この時為朝さんは、攻め寄せる朝廷軍の船にいつもの剛弓を放ち、当たれば幸い次々と沈めていったそうです」

「いや、いくら何でも弓を一発撃ったぐらいで船が沈むなんて事が……って本当に沈めてるゥー!?」


 さすがに矢が当たって船が木っ端みじんに大破した、なんて事はなかったが。為朝さんの矢なら船底に大穴を開けるぐらい、朝飯前だった。

 次々と船が沈んでいく有様に、朝廷軍はまともに島に近づけず、完全に震え上がってしまう。

 とはいえ、いくら為朝さんひとりがド派手に活躍しても、多勢に無勢。最終的に敗北を悟った為朝さんは、9歳の息子と共に自害して果てた……のだが。


「申し上げます! 源為朝、息子ともども自ら命を絶ったとの事です!」

「ま、マジか! よし、お前、確認しに行け! 為朝の首級を持ってくれば第一勲功ぞ!」

「い、嫌ですよ! 殿が行けばいいじゃないですか! 何ビビっちゃってるんです!?」

「そういうお前だって全身ブルッブルじゃん! 相手は死人なんだろ? だったら大丈夫だろォがッ!?」


 こんな具合で、為朝さん死亡のお知らせが来ても、みんななかなか島に上陸しようとしなかった。まあ、無理もないよな……こっそり見ていただけの俺だって怖いもん。


「ちなみに一説によれば、為朝さんが日本初の『切腹した武士』だとも言われていますね。

 ともかく……武士の弓の力、これでよくお分かりになったんじゃないかと」

「もう嫌というほど思い知りました……」


 元寇の時も、鎌倉武士団の戦闘狂っぷりは際立っていたが……その下地は、この頃からもうすでにあったんだなぁ。

 なお為朝さん、このあまりの強さに某大河ドラマでも「平安時代のモビルスーツ」呼ばわりされ、死後もその強さから神社に祀られ「疫病退散のご利益がある」神となってしまった。三国志で有名な関羽(かんう)といい、とんでもなく強い人が神様になるのって、どこの世界でもあるんだね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ