序:【悲報】古代日本人、ヒャッハーな蛮族だった件
「さーて、今回のスリップ先はどこかなー? 莉央ちゃん」
俺はとりあえず莉央ちゃんに聞いてみる事にした。
彼女はこれまでもタイムスリップ先の場所や年代を瞬時に割り出してきたし、見た目以上にメッチャ頼りになる存在なのだ。
「正確な年代は分かりません。というより恐らく、この頃は暦もマトモに記録されていない時代ですね。
太古の日本……下手すれば『空白の4世紀』とかかもしれませんよ?」
「え。そんな未知の時代なの? 武士の成り立ちが知りたいのに……いくら何でも時間戻りすぎじゃね?」
うーむ、歴史というのは地続きって話はよく聞くし、大事件が起こる原因に、かなり大昔の出来事が関連してるってのは理屈では分かるんだが。あんまり遡りすぎるのもちょっとなー。
「まあ、細かい年代はさておくとして。
この頃の日本は、朝鮮半島へ海外遠征しては、人さらいをしていた時期ですね」
「へ? ちょ、莉央ちゃん言い方ァ!
それだとまるで、俺らのご先祖様がならず者の蛮族集団みてェじゃねーか!?」
「みたいも何も、きっぱりとヒャッハーなモヒカン集団でしたよ」
「だから言い方ァ!?」
ありがたい事にどうやら、ここらの時代はダイジェスト進行してくれるようだ。
日本列島からしょっちゅう、まとまった船団が朝鮮半島に向かっている。乗り込んでいる船員はコワモテの連中ばかりで、どう控え目に見ても交易目的などではないだろう。
「つーかさ。あいつらなんで人さらいなんてしてるの?」
「半島に住んでいる技術者目的ですね。もっと言えば、彼らの技術を日本に持ち帰り、農業の近代化を図りたかったのです。
人類の黎明期によくある話ですが、農業が定着して食糧が増えてしまうと、どうしても食べるもの以上に人間が増えすぎてしまうんですよ。
荒れ地を開墾して農地を増やすにしても、木や石の道具のままでは重労働ってレベルじゃないですからね。鉄製のちゃんとしたモノが必要だった訳です」
「フーン。それでか……」
それにしても、この時代の日本軍は色々と頭おかしい。
今の莉央ちゃんの話が正しければ、半島に攻め入った軍団だって、ロクに鉄製の武器を持っていないハズなんだよな。
にも関わらず彼らは、進んだ技術の武具や馬で武装しているはずの半島軍に対し、カケラの恐れも抱かずに襲いかかっていたりする。
「敵が少なくとも侮るな! 敵が強くとも恐れるな!
我らに残された道は2つ! 勝利か死か!! 我らに逃走はない! 逃げた所で食も無いのだから!
防御など考えるな! ただただ前進制圧あるのみ! 退かぬ! 媚びぬ! 顧みぬ!!」
「住吉神のご加護やあらん! 打ちてし止まぬ!!」
古代の鎧をまとった女性の指揮官と共に、凄まじい勢いで突撃していく日本軍。こんな無鉄砲な攻撃、当然おびただしい死者が出るのだが……全く意に介していないし、士気が衰える様子もない。これが失うものが何もない強さってヤツなのか。
なんというか、つぶさに戦ぶりを見た結果――「気合で勝った」。マジでそう表現するしかない凄惨な泥仕合であった。
「……古代日本じゃこれがスタンダードだったの? 鎌倉武士に匹敵するバーサーカーっぷりじゃん」
「この頃から地盤があったのかもしれませんね。そして先ほどの女性指揮官ですが……恐らく彼女が『日本書紀』で語られる神功皇后のモデルになった方ではないかと。
まあさすがに『半島全部を制圧したぜ!』みたいな記述は、話を盛り過ぎですし信憑性はありませんが」
そんな訳で勝つには勝ったが、脳筋集団を率いて荒らし回るだけでは、当然国土の統治などできようハズもない。
神功皇后と思しき女性は、現地の半島国家(のちの百済である)とタッグを組む約束だけし、半島南部の先っちょを出先機関として譲り受けた。その後は事ある毎に、日本の木と半島の鉄を物々交換したり、戦争が起こった時には傭兵団を派遣したりなどした。
「この時代の日本は全土が『貧しく痩せた土地』だったのです。
古今東西、そういった土地の住人はまっとうな生産活動をしても食っていけないので、戦闘民族化していく傾向にあります」
「なんてこった……日本列島は約束されたバーサーカーの土地だったのか……」
しかしやっぱり特徴的で、日本が他の戦闘民族と違ったのは……技術者の拉致である。ここだけ聞くと、鬼畜の所業もはなはだしいのだが。
「グエッヘッヘッヘ。技術者さま。住み心地はいかがですか~?
何か困った事があれば何でもおっしゃって下さいね~。あなた方は貴重で大事な労働力で、かけがえのないお宝なんですからねェ~。
あなた方の素晴らしい技術が、我らの土地の明日の食い扶持に繋がるんです! 今日より明日なんです……!!」
「うっへえ……この人たち、髪型は角髪で顔もメッチャ怖いけど……何かと世話を焼いてくれるな~。
ひょっとすると、半島にいた頃よりもイイ思いができるんじゃね? このまま定住するのも悪くないかも……」
メチャクチャにシュールな光景ではあるが、拉致られた技術者は丁重に扱われていた。
「まあ、この扱いは当然な気がしますね。
もし何かの間違いで死亡して血筋が絶えてしまったら、せっかく海外遠征までして手に入れた技術も失われてしまいますし。
この時代、操船も造船もまだまだ発展途上。ちょっと海を渡るだけでも命がけですから」
「いや、理屈としては分かるんだけどさ……」
某世紀末漫画だと種籾奪って踏みにじってそうな人々が「今日より明日なんじゃ……!」と力説しているのは、マジで違和感しかねえ。
しかも一方、同じ国の同胞であるハズの農地の働き手はというと。
「おらおら働けー! 手を休めるなー!!」
「お前らみたいな特に貴重でもないごく潰し、働けなくなったら無駄飯食らいなんだよォ! 生きていられるだけありがたいと思え虫ケラども!!」
こんな具合で思いっきりモヒカンでヒャッハーな扱いであった。もうやだこの国。




