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莉央ちゃんとタイムスリップ!【短編シリーズ】  作者: LED
第4話 聖徳太子は非実在? 編
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六:どうして天皇になれなかったのか?

 聖徳太子こと厩戸皇子(うまやとのみこ)の声望は、否が応にも高まっていた。

 無理もない。大和(やまと)長年の悲願だった中国大陸との国交を復活させたのだから。しかも八年前には一度失敗したにも関わらず、だ。

 加えて仏教が盛んになり、宗教的な権威まで背負っている。太子でなければ説けない仏教理論まであった。

 もはや怖いもの知らず、「無敵の人」である。


 俺が小学生の頃、社会の先生が「聖徳太子が今生きてたら、普通のサラリーマンが関の山だろう」なんてうそぶいてたが、とんでもない!

 知識階級が限定されていたこの時代に、これだけ仏法に通じ、しかもカリスマ性を備えていた為政者なんて――日本、いや世界史上類を見ないんじゃないか?


「人気もある。金もある。そして実績もついてきた……超絶リア充じゃん聖徳太子」

「そうですね。ですが下田さん……不思議に思いませんか? ここまで人望厚かった厩戸皇子が、何故皇子のままだったのか?

 非実在説論者の最後の砦――彼はなぜ、高御座(たかみくら)に就けなかったのか。実在しているなら天皇になっていないのはおかしい、という理屈ですね」

「う、うーん……あ、分かった! 太子はきっと、権力闘争の汚さを嫌ったんだよ!

 だから敢えて頂点に上り詰めようとせず、摂政の地位に甘んじてたんじゃねえの?」

「……ここで四の五の議論しても時間の浪費ですから、実際の所を見てみましょう」


***


「う、厩戸皇子(うまやとのみこ)、今なんと……」

「私も十分な地盤を築き上げた。頃合いだと思うのだ。

 どうであろう? この私を『大王(おおきみ)』にしてみてはいかがか? 馬子どの」


 俺と莉央(りお)ちゃんが目撃したのは――あからさまに皇位を望み、蘇我馬子(そがのうまこ)に迫っている聖徳太子の姿だった。


(うおおおおい!? 思いっきり俗っぽい事口走ってるゥー!?)

(まあ、無理もないと思いますよ。

 あの若さで絶大な地位と人気を得てしまったのですから。元がどんなに公明正大な聖人君子であっても、絶対調子に乗ってああなっちゃいますって)


 対する馬子、いつもの老獪(ろうかい)ぶりはどこへやら。冷や汗めっちゃダラダラである。


(なんか馬子さん、とんでもなく焦ってねえか?)

(もともと蘇我の地位を盤石にするため、仏教のサラブレッドとして育ててきたつもりだったのでしょうが……今や立場は逆転しています。

 厩戸皇子の人気は絶大過ぎて、もし彼が即位する事になれば、もう蘇我氏の言いなりになる必要もないでしょうしね)


 この蘇我馬子という人物。蘇我氏の最盛期を築き、邪魔と見れば天皇だろうと刺客を放って抹殺するほどであったが。

 実は結構小心者で、あっちこっち根回ししながら多数派を形成し、慎重に慎重を重ねて政治を動かす用心深いタイプだったりする。もともと蘇我氏ってそんな強固な基盤がある訳じゃないしね。


「――そうはおっしゃいますが、厩戸。生前譲位など前例がありませぬ。

 少なくともわたくしが死ぬまで待つべきでしょう。そこを曲げてまで願う話なのですか?」


 待ったをかけたのは意外な事に、現役の推古(すいこ)天皇であった。

 どうやらこの頃はまだ、譲位して上皇になるシステムが存在しなかったらしい。

 結局この時の話し合いは、推古天皇の言い分が通り――太子は引き下がった。


 彼の顔には余裕の笑みが浮かんでいる。この時太子は三十代半ば。いっぽう推古天皇は五十代を越えている。

 今ここで強引に事を進めずとも、何年か待てば彼女は寿命を迎え、自分に位が転がり込んでくる――そう踏んだのだろう。


 だが――のちの歴史が物語っているように。

 天命は彼を選ばなかった。推古天皇よりも、蘇我馬子よりも先に――聖徳太子は(よわい)五十を目前にして、没してしまうのである。

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