承:戦争(オマツリ)の準備をしようぜ
「今は弘安3年(1280年)。来年には再び蒙古軍が襲来してきます。いわゆる『元寇』ですね。
二度目は敵も本気を出してきて、少なく見積もっても兵力は14万。
対する鎌倉武士ですが……正確な人数は分かりません。史書を見ても、どう考えても盛ってるとしか思えない数字が書いてありました。
まあ、多くてもモンゴル側の半分以下といった所でしょう」
「話だけ聞くと絶体絶命だよな……でも、鎌倉武士は勝ったんだろ?
ホラ、運よく神風が吹いたとかで。日本史の授業でもそう習ったじゃねえか」
俺が励ますつもりで明るく言うと、莉央ちゃんはフウ、と溜め息をついた。
「下田さん。日本は確かに災害大国ですが……神風なんてありませんよ。
ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから」
「いやちょっと待て! 神風ってデッチ上げなの!?
じゃあどうやって、この絶望的戦力差から国土を守れたんだよ!?」
俺のもっともな疑問に対し、莉央ちゃんは立ち上がって言う。
「百聞は一見に如かず、です。実際に見に行きましょうか。
鎌倉武士たちが元軍を迎え撃つ――いや、皆殺しにする為に築き上げた絶対不沈要塞都市・博多の様子を」
「……うわあ。響きからして嫌すぎる予感しかしねえ」
***
博多は凄まじい事になっていた。
人足や奴隷を酷使し、見渡す限り20キロメートルに渡る防塁を沿岸に。同じ長さの空堀を南側に作り上げていたのである。
万全すぎる防衛体制。ここって交易都市じゃなかったっけ?
「……前の戦いが6年前なんだろ? コレ作るのに何年かけたんだ?
つーかメチャクチャ再戦する気マンマンじゃん!?」
「ちなみにすぐ南の大宰府では、10キロメートルもの水堀も建築済みです。鎌倉武士団も本気ですね。
交易商からの情報を得て、元軍が再び攻めてくるであろう事は予想済みだったようで……数年前から動員準備を整えていました。
一度目の襲来直後なんて、報復措置としてこちらから朝鮮半島に遠征する計画もあったそうですよ。予算不足で頓挫しましたが」
こわい。鎌倉武士メッチャ怖い。コレ手を出したらアカン奴や。
「な、なるほど。交易商人経由なら、元軍の様子とかの情報も正確に手に入るもんな。
彼らのお陰でこうして防衛準備を……ン? ちょっと待って。
その商人たちは今、どこにいるんだ? 見渡す限り要塞しかないんだけど……」
「……それでしたら、多分あちらですね」
莉央ちゃんが指さした先には、焼け焦げた家の残骸みたいなものが。
「……なぁにこれぇ……」
「実は開戦前から、博多の中国商人は何度も襲撃され、略奪を受けていました。
もちろん鎌倉武士によってです。まあ、どうせ敵に奪われるなら先に自分で奪う。実に合理的ですね」
「莉央ちゃんドライ過ぎない!? フツーに恩を仇で返してるよねソレ!?
御恩と奉公の精神はどこに行ったんだよォ!?」
「さあ……? 裏を返せば、そこまでしなければならないほど鎌倉武士団も必死という事。
それだけ今度の戦い――元軍は強敵という事なのでしょう」