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莉央ちゃんとタイムスリップ!【短編シリーズ】  作者: LED
第4話 聖徳太子は非実在? 編
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一:蘇我氏vs物部氏! 実は宗教対立ではない?

「うっへえ、いつもの事ながら慣れねえなぁ……

 ときに莉央(りお)ちゃん、ここはどこだ?」


 もう俺はこういう時、当たり前の事として受け入れてから――莉央ちゃんに質問する事にしている。

 彼女の情報分析能力は一介の女子高生の比ではない。瞬時に年代や場所を特定できてしまうのだ。


「今でいう所の、大阪府八尾(やお)市の辺り――あの立派なお寺は、恐らく渋川天神社(しぶかわてんじんじゃ)ではないかと」

「寺っつーと、仏教か。やっぱり時代は飛鳥時代?」

「ですね。年代は恐らく――西暦587年」


 莉央ちゃんはそう言って、すぐに俺の襟首を引っ張り物陰に隠れさせた。

 辺りは武装した兵士が集まっており、いかにも剣呑な雰囲気を漂わせている。(いくさ)が始まるのだろう。


「めっちゃ物々しいな。これは……?」

「当時対立していた、蘇我(そが)氏と物部(もののべ)氏の戦いでしょう」

「蘇我と物部……えーと確か、蘇我が仏教びいきで、対する物部は仏教嫌い。つまり古代の宗教戦争だったって事だよな?」


 俺が日本史の授業で習った記憶をどうにか紐解くと……莉央ちゃんはフウ、と溜め息をついて答えた。


「そうですね。一般的にはそう教えられていますが」

「また含みのある言い方だなぁ莉央ちゃん」

「そもそもの話ですが、あそこに見える渋川天神社。物部さんちのお寺ですよ」

「ほう……へ? ンなッ……!? ウッソだろオイ……!」


 俺は素っ頓狂な声を上げそうになり、莉央ちゃんに口をふさがれてしまう。


「どういう事だよ莉央ちゃん? なんで仏教嫌いの物部の所に寺が……?」

「断言はできませんが、物部氏も決して仏教を目の敵にしていた訳ではなかった、という事です。

 今回の戦も、対立原因は宗教ではなく、後継者争い……どちらの豪族が推す皇子を次に据えるか、というものでした」


 間もなく始まった戦は、血みどろの泥仕合だった。

 防衛側である物部の兵たちは強く、攻め手であるハズの蘇我は三度も恐れをなして撤退する有様。

 しかもよく見ると、年端もいかない少年までもが武装して最前線に立っている。やがてその少年兵の一人が矢で胸を貫かれ、息絶えてしまった。


「うっわ……母親出てきて泣いてるじゃねえか。なんでこんな(むご)い事を……子供を戦場に立たせるなよ!」

「仕方がありません。彼らは皇族であり、この戦の総大将的な立場だったのですから。逃げるわけにはいかなかったのです」

「へ? あの子供らみんな、皇族だったの……? じゃあそこで嘆いてる母親って……」

「後の、推古(すいこ)天皇ですね」


 推古天皇の名が出てきた事からも分かる通り。

 戦には皇族が5人も従軍していた。うち4人は成人すらしていなかったのだ。

 その中には、のちの聖徳太子こと厩戸皇子(うまやとのみこ)もいた。このとき弱冠14歳の若さである。


 凄まじい犠牲を払いながらも、戦の結果は蘇我の辛勝。

 歴史の教科書じゃ一行で片付けられ、アッサリ滅ぼされたイメージのある物部氏だったが……実際、厩戸皇子(うまやとのみこ)も危うい場面が何度もあった。一か八かの決死の総力戦だったのだろう。


「莉央ちゃん。ただの後継者争いだったっていうなら、なんで宗教戦争みたいな話で教えられてるんだ?」

「ズバリ、勝者である仏教派によるプロパガンダです。

 『物部氏は仏教を軽んじたから、罰を受けて滅ぼされた。だからみんなも仏教を信じよう、な!』

 ってやれば、信者を獲得しやすいじゃないですか。古代ローマ時代のキリスト教徒も、暴君ネロ相手に似たような事をやっています。

 負けた側や悪名高い人物を利用して権威を高めようとするのは、割と常套(じょうとう)手段なんですよ」


 古代の戦争記録は、割とこういう流れの話が多い。

 まっとうに戦っても苦戦したので、神や仏に戦勝祈願をしたら勝てた――というパターン。

 実際「日本書紀」では、聖徳太子が「物部に勝てたら、四天王寺建てるから勝たせて!」と仏に祈った結果、勝った事になっている。

 かの神武天皇の東征もしかり。あっちも正攻法で負けそうになってから、神の使いの加護で逆転勝利した。

 当時は戦場に立つ軍人より、祭祀(さいし)を執り行う宗教関係者の方が力を持っていた、という事が(うかが)える話である。


「とはいえ、仏教が弾圧されたのは本当の話ですよ。

 その原因も、渡来人との交流によって疱瘡(ほうそう)――つまり天然痘(てんねんとう)ウィルスが流行ったせいです。

 余所者が病気を持ち込んだ、というのは医学知識がなくても分かりますので、当然排斥運動が起こる訳ですね」

「ぐぬぬ……そういう所は、昔も今もあんま変わらねえんだな……」

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