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懐かしいロボアニメの世界に転生したら、俺のCVがあの人だった件  作者: 冴吹稔
エピソード・4「コルグ、北東に起つ」

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部隊分断、ロランド孤独の脱出行

「歩きの連中を下がらせてくれ、コルグ君」


〈何かまずいのか?〉


「むこうには百二十メリ砲がある。あの榴弾を食らったらひどいことになるぞ」


〈!! 分かった、皆に伝える〉


 ――みんな散れ! 砲撃が来るぞ!!


 拡声器で叫ぶほかにも無線の連絡が何度か交わされたらしかった。放牧地にひしめく群衆と車輛の群が、タマネギのかけらを放り込まれたアリのように四方へ散らばっていく。

 

 助走をつけて宙へ飛んだガルムザインが、敵の先頭に立つリドリバを狙った。砲声一発、垂れ耳の犬によく似たダークブラウンの頭部が消し飛んだ。相変わらず恐ろしい腕だ。九十メリシューターとの相性も極上らしい。

 

(こちらの砲ではあの真似はできんが……)


 七十七メリは、リドリバの装甲を正面から抜くにはいささか厳しい。だが、その分搭載弾数と速射性、命中精度に優れている。放牧地へ向かって砲撃を開始しようとするリドリバの、シューターを持つ手元に二発を撃ちこんだ。

 

 破壊は成らず。だが、シューターを落とさせるには十分だった。うろたえて地面へ手を伸ばしたその一輌に、左手で電熱短剣(スキナー)を抜いて斬りかかる。

 右の肘関節を破壊。その一瞬リドリバが緑色に見えた気がするが、多分スキナーの発光が反射した加減か何かだろう。

 

 次に叩くべきはあの改造運搬車(トレッガー)だ。荷台に無理やり砲架を載せて、重戦甲の後尾駐鋤(テイルスペード)をくっつけただけの代物だが、火力は本物。クロクスベもこいつにやられたに違いない。

 

 横合いを駆け抜け、立ちふさがるもう一輌のリドリバをいなしながら百二十メリに砲弾を撃ち込む。榴弾ではないから効果が薄いが、仰俯装置を破損させれば事足りた。

 

 残るは今のリドリバと、あとは有象無象のガラトフぐらいか――周囲を見回して索敵。リドリバはガルムザインに向かっていた。すぐに片が付くだろう。

 

(存外たわいもない……あとは戦闘の集結を待って、コルグと交渉の仕切り直しを――)


 そんな思いが心に忍び込んだ、その時だった。

  

 ――ズムッ! 

 

 不意に、機体に衝撃が走った。

 

「何だ! 砲撃を受けたのか?」

 

 そうではなかった。ポータインの機体コンディションに、特段の警告表示は出ていない。それに、衝撃の方向は――

  

(後ろか!?)


 振り向く。三両目のリドリバが機体の右半分を失って崩れ落ち、その至近距離にガルムザインがいた――白い機体から、煙が上がっている。

 

「コルグ君、大丈夫なのか!?」


 通信機に呼び掛ける。返答がない。前方のガラトフを警戒しながら後ろへ下がり、拡声器で呼びかけてみる。

 

「コルグ君、応答してくれ」


 ――すまない。通信機をやられた。こいつのシューター、弾倉が誘爆したみたいだ。

 

 彼らしからぬミスだった。多分、着地のタイミングを狙われて射線が狂ったのだろう。リドリバのシューターは薬室も弾倉も吹き飛び、原形をとどめていなかった。

 

 ――以後の連携は難しい。ロランド氏は船と合流した方がいい。また後で会おう。

 

「ぬ、むう……分かった、致し方あるまい」



 クロクスベの位置を確かめる。南東へ二百メルトほど離れた山腹へ向かって降下していくのが見えた。

 

「とんだ視察になったものだ……持ってくれよ、クロクスベ――」


 宙へ飛ぼうと踏み切る瞬間。山賊のガラトフが俺のポータインに向かって噴進砲(ロケット)を放つのが見えた。

 

「しまっ……」


 何たる油断!! 思考が凍り付く恐怖の中で、俺は自問した――まさか、ここで終るのか!? 

 噴進砲は使い捨ての安価な武器だが、威力だけはある。命中すれば、重戦甲でもただでは済まない。

 先ほどとは比べ物にならない衝撃がポータイン・ウルフヘッドを揺さぶった。左のフットペダルが不具合を起こしたのか、ありえない速度で稼働域外まで跳ね上がる。


「何の、まだだ! まだ終われるか!!」


 コンディション表示パネルに一斉に赤と黄色が点灯。ポータインの左足は膝関節から下が失われ、左手の手首から先と、電熱短剣(スキナー)も吹っ飛んでいた。重力中和装置がまだ生きているのは僥倖としか言いようがない。

 よろめく機体をなんとか制御して空中へ上がる。背部推進器のジェットを吹かし、続いて飛来した噴進砲弾をどうにか避けた。

 

「ふざけるな、貴様らなどにっ!!」


 右腕のシューターを、ガラトフの隊列に続けざまに撃ちおろす。三輌が膝を折って崩れ、引火した燃料が炎を噴き上げた。徒歩の山賊が数人、巻き込まれて火だるまになった。


 敵はほぼ平らげたようだ。だがこのままでは着地時に転倒する。

 

「空中で変形するというのは前例がないが……! ええい、ままよ……!」


 砲車キャリッジモードに変形しながらの着地を試みる。片足を失ってバランスが悪いが――何とかなりそうだ。

 

 ――ザザンッ!

 

 数本の立ち木をへし折りながら、ポータイン・ウルフヘッドは地表二メートルほどの高さに滞空して止まった。ちょっと肘を擦りむいたが、とにかく部下たちと合流しなくては。

 

「シャーベル、いったん撤収だ! そちらへ向かい合流する。クロクスベはどうか?」


 シャーベルからの応答は悲痛なものだった。

 

〈ロランド殿、ダメです! 主重力中和装置(メイン・ベクトラ)停止しました。本艦は再浮上不可能です。おまけに、義勇軍の一部がこちらに向かってきていて〉


「なんだと!?」


〈まだ接触までには距離がありますが、ほぼ包囲されつつあります。本艦を接収する意図と思われます!〉


「ばかな……! でたらめにもほどがある」


 全体のリーダーではない、とコルグが言っていたが、義勇軍と名乗りながらそこまで統制がいい加減なのか、あの集団は。

 顔を覆うばかりの事態だった。敵地というほどではないが、本拠地から離れ孤立した小部隊。船は機能を失い、切り札のポータインも中破している。どうすればいいのだ。

 これまでの功績をも一気に打ち消してしまう、致命的な失態と思えた――しかし、だ。これまで見聞きした情報の中に、まだなにか光明があるような気がした。

 

 そうだ。コルグ一行のあの整備士、デイジー・モーグはなんと言っていた?


 ――私はデイジー・モーグ、クヴェリで免許を取った整備士よ――

 

(クヴェリか……)

 

 彼女の出身地はコルグのそれと大差ないはずだ。だが、彼女は資格取得のためにわざわざクヴェリまで赴いている。とすると……

 もしや、ウナコルダの整備士ギルドは、クヴェリを頂点とする組織になっていて、領域内の市場において寡占状態なのではないか?

 だとすれば、仮にクロクスベを接収されても取り戻す目はある。クヴェリのギルドを通じて、圧力をかけられるからだ――よし、方針は決まった。

 

「シャーベル! こちらのポータインは損傷している。そちらへ行っても艦を守り切れるとは思えん。よって、ひとまず最後の命令を伝える――」


 シャーベルがかたずをのむ音が聞こえた気がした。


〈ロランド殿! 何を……! 最後などとそんな!〉


「話を聞け! 船長と操舵手は無事か?」


〈ぶ、無事です。いささか度を失ってはいますが〉


「クロクスベはいったん、義勇軍とやらにくれてやれ、どうせそのままでは使えん。その代わり船長たちを守れ、絶対に殺させるな――それが奪還の鍵になるはずだ。そしてお前たちも生き延びることを優先しろ。必要ならば投降するもかまわん。だができる限りは隊を維持し、ばらばらになるな」


〈……了解です! 苦しい決断ですが、ご命令に従います。可能ならば連中につかまる前に船を捨てて脱出します〉


「そのあたりの判断は任せる。私も必ずあとで連絡をつけよう。くれぐれも無理をするなと、皆に伝えろ。サエモドも使えなくできれば上々だ」


〈そろそろ奴らがここへ到着します。これで通信を終了します〉


「ああ……リンをくれぐれも頼む」


〈お任せを〉


 通信はそれで途切れた。

 

 俺は少し考えると南西の山中へと進路を取った。砲車モードなら、山賊にも義勇軍にも、発見される可能性を最小限にして進める。

 

「いざとなったら、これを放棄することも考えねばならんか」


 とにかく、今は身を隠して進み、自由を確保したうえで次の手を打たねば。

 悪い事ばかりではない。苦境ではあるが、コルグや義勇軍との決定的な敵対は避けられた。彼らをギブソン軍と結ばせるのに比べれば――


 このくらいの屈辱は、安いものだ。

 ポータインの電力が尽き、手持ちの食料も底をついた。夜陰に乗じて森を抜け、人里へ向かうロランド。

 だが、ポータインの損傷は彼の脚にもダメージを与えていた。

 辛くも忍び込んだ農場の納屋で、気を失った彼に差し伸べられた救いの手は――?

 

 次回、重戦甲ガルムザイン「干し草置き場の再会」

 

 生ニンジンの味が、ロランドを呼ぶ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 義勇軍。 その行動がどういう結果になるか。 軍と敵対することの意味を、どれだけ理解しているのか気になるところ。 主人公の屈辱だろうが退くべき時に退くことができる点に名将の素質を感じる。 次回…
[一言] 次回、重戦甲ガルムザイン「干し草置き場の再会」 生ニンジンの味が、ロランドを呼ぶ! ロランド「ニンジンいらないよ!」
[一言] ハモンドは生ニンジンの一本をこちらへ差し出してきた。 「食うか?」 「いえ、結構です」  俺は手刀を胸の前に掲げて一礼し、生ニンジンを辞退した。
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