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懐かしいロボアニメの世界に転生したら、俺のCVがあの人だった件  作者: 冴吹稔
エピソード・3「筆頭騎士ロランド」

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商工会との接触

「どうせならあの黒いの……ヴァス何とかを載せてくれば、クヴェリで修理できたんじゃないですか?」


 何も載せていない荷台を見渡しながら、リンがそういった。ラガスコからクヴェリまでの道中を、俺たちは運搬車の上で過ごしていた。俺は首を横に振った。


「いや、操典に違反したからな。当分、工房では修理を頼めなくなった。『補償対象外』というやつになるのだ。あと、黒いのの機種名はヴァスチフだ。『何とか』ではないぞ」


 どうも、彼女はマシンの名前を覚えるのが苦手らしい。ダダッカも似たようなものだと思うが、何年も乗り回し呼び慣れているから馴染んでいるのだろうか。


 重戦甲(カンプクラフト)にしろ軽歩甲(シュテンクラフト)にしろ、その供給と流通は工房とそれを統括する整備士ギルドがほぼ独占している。

 特に現代では作れないマシン――古代の工房跡や古戦場から発掘される各種の重戦甲や、艦艇に装備するような大型の重力中和装置(ベクトラ)は、発掘と回収を手掛ける機械掘り(ディッガー)から工房が買い取って、使える状態まで何カ月、あるいは何年もかけて修復してようやく商品になる。 

 だから、重戦甲を使う騎士には、『操典』と呼ばれる運用マニュアルの熟知と順守が厳しく求められているのだった。「これを破って動かして故障しても、修理や交換には応じかねます」ということだ。

 

 まあやむを得ない。俺のヴァスチフはラガスコの整備場にいる召し抱えの(いわばギルド非公認の)整備士にまかせ、部品を取り寄せて修理することになるはずだ。

  

「なに、ポータインを受け取れば戦闘でもそうそう困らんさ」


 動きは速いし、装備できるシューターも標準的と言えばその通り。どうとでもやりようはあるだろう。

 

 

 クヴェリの街に入ると、俺はまっすぐ工房前まで運搬車を乗り付けた。ハモンドから預かった現金入りのトランクをグレッチに抱えさせ、ほかの兵士四人で周囲を固めて進む。俺とリンが先頭だ。

 残りの兵士とフェンダー、それに例の目端の効く騎兵――ジルジャンを車輛の見張りに残した。

 車輛も重要だが、この金も扱いに神経を使う。

 修理させたポータインの買い取りと、先日の襲撃に際して俺が徴発した、百五十メリ重シューターの代金に充てるものだ。正直、ここにいる全員の給料ひと月分を合わせたよりも遥かに高価い。

 自分で持っていなくても緊張で胃が痛くなるし、人目の多い街中では、周囲が気になって仕方がない。 

(ええい情けない。たかが五十万レマルク程度の金にビクビクするなどと……ロランド家の名がすたるというものだ。……ああ、それでいて部下任せというのはさらに良くないな)


 くるりときびすを返して後ろを向くと、隊列がいったん前進を止めた。


「やはり私が持とう。グレッチ、トランクを渡してくれ」

 

「はい、ロランド殿」


 紙幣ばかりでなく、袋入りの金貨も少なからず詰め込まれたトランクだ。提げると腕にずっしりと堪える。

 文字通り重荷から解放されたグレッチが、何とも晴れやかな顔をしたのがいっそ羨ましかった。とはいえ、もはや俺はハモンドの筆頭騎士なのだ。元先任の士官たちを呼び捨てできるだけの貫禄は、示さねばならない。


「ご免! ラガスコから参った。整備士ギルドの勘定場はどちらか?」


 こちらです、と奥から柔らかな声がかかった。ゆったりした長衣の肩に短いケープを載せた、穏やかな風貌の初老の男が、勘定場の奥からカウンタードアを開けて進み出る。

 それが、クヴェリ整備士ギルドの長で商工会の評議員も兼ねる大物、アリアン・コレグだった。

 

 

         * * * * * * *

         

         

「お疲れさまでした。では確かに、こちらが受け取りの証書です、お納めを」


「うむ、間違いなく」


 支払いは滞りなく、そして簡潔に処理された。

 俺が首を落としたポータインはもう一輌とのほぼニコイチで修復され、その譲渡費用が三十五万五千レマルク。重バレル・シューターが十四万二千五百レマルク。なお、これがヴァスチフであれば、状態にもよるがだいたい十倍近い価格になる。

 

「ドローバ・ハモンド様は毎度お支払いが綺麗で助かります。今後とも良しなに」


 ふむ? この乱世を左右する兵器商人の集団相手に、支払いを渋ったり遅らせるような手合いでもいるのだろうか。そんな疑問がちらりと頭をかすめたが、そんなことより次の用件だ。

 

「そのハモンド閣下から、大切な書面を預かってきている。商工会に取り次いでいただけるとありがたいのですが」


 懐から封緘された文書を取り出し、コレグに手渡した。


「先日のような襲撃が今後もあるとすれば、今の備えだけでは市民の安全を守るのも困難でありましょう。閣下は、わが軍がその肩代わりをさせていただいても良いとお考えです」


 アリアン・コレグはこちらを見上げて、無言で開封の許可を求めるしぐさをした。俺はうなずいた。

 現れた書面に素早く目を通すと、彼はため息をついて言った。

 

「ハモンド様のお考えはよくわかりました。こんな世の中ですからな、いずれはこのような選択を迫られる日が来るとは思っていた……だが、私の一存で決められることではない。のちほど評議会に諮らせてもらおう」


 想定内の返答だ。俺は鷹揚にうなずいて見せた。

 

「結構です。評議会には私も同席させていただきますが、それまでの間はどこで待たせていただけば宜しいか?」


 彼はさらさらと手元の紙にペンを走らせ、俺に手渡した。

 

「当市でも第一のホテルです。こちらをお使いください。宿泊費はお気になさらず……特別に気晴らしをお求めであれば、その費用は別途ご負担いただきますが」


「……感謝する。部下たちを慰労してやりたいと思っていた所です。ご心配なく、そのくらいの費用は用意してある」


 取引の費用とは別に、俺は個人的な資金をハモンドから預けられていた。ざっと三千レマルクはある。日本円にしておよそ五十万円。筆頭騎士としての俺の俸給、ひと月分とおおよそ釣り合う額だった。無茶な遊び方をしなければ、充分にもつはずだ。

 

 整備士ギルドを出て、俺たちは紹介されたホテルへ向かった。周りの店や邸宅より明らかに造りがしっかりしていて、瀟洒な柱彫刻や破風飾りが施された、白塗りの建物だ。

 

「こんな宿に泊まるなんて、初めてですよ」


 はしゃぐ部下たちに頬が緩んだが、ホテルの入り口がある西側へ回り込んで思わず立ち止まった。


 正面玄関前の広場に、緑色のリドリバを積んだ軍用の運搬車(トレッガー)が一台、停められている。重戦甲と同じく淡い緑色に塗装された車輌は、この辺りで見かけたことのないものだった。

その士官には、前世で見覚えがあった。

セザール・カシオン。その軽率な愚かさと傲慢に、ロランドの自重は脆くも崩れ去る。

嘲笑と当てこすりの渦巻く出会いはしかし、運命の大きすぎる変転をも示唆していた

 

次回、重戦甲ガルムザイン「ギブソンの野望」

 

兵士は屈託なく、安らぎに酔う



明日も11時30分に更新です、お楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[一言] 部下を労ったりがちゃんとできるあたり、前世の経験が生きている。
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