8話 何者?
私の名前は、アリア・アイスフィールド。
Cランクの冒険者です。
自分で言うのもなんですが、それなりの実力を持つと自負しています。
一般的なギルドで発行されている依頼ならば、全て、問題なく片付けることができるという自信があります。
しかし……今回の依頼は、なかなかに難しいものと感じていました。
リンクスを襲う魔物の討伐。
対象は、Cランクのソードファルコン。
雨と雷を自由に操ることができるという、厄介な怪鳥です。
Cランクならば、同じCランクの私ならば問題なく倒せるのでは? と思う人もいるかもしれませんが……
悔しいですが、それは厳しいと言わざるをえません。
確かに、ソードファルコンはCランクですが……
その中でも特殊な個体で、希少種と呼ばれている魔物です。
希少種は、私たちが持つスキルと同じように、なにかしら特殊な能力を有しています。
ソードファルコンの場合は、刃のような羽。
それを武器として使用することで、自分よりも格上の相手を仕留めることもあります。
希少種はそれだけの力を持ち……
一つ上のランクと認識するのが正しいものになります。
故に、今の私では敵いません。
しかし、ソードファルコンは人の味を覚えたらしく、定期的にリンクスを襲うように。
Bランクの冒険者がいればよかったのですが、そのような高ランクの冒険者がリンクスのような小さな街に滞在することは少ないです。
故に、私たちでなんとかしなければなりませんでした。
人を集め。
罠を作り。
綿密な作戦を練り。
万全の準備が整ったところで、討伐をする予定でした。
それまでは、行動に出るつもりはありませんでした。
もちろん、被害を最小限に抑える努力はしますが……
仮に、誰かが犠牲になったとしても、無理をするつもりはありませんでした。
私たちが倒れれば、その時は、ソードファルコンを倒せる者がいなくなってしまう。
さらに被害が拡大してしまう。
だから、絶対という確信が持てるまで、我慢するつもりでした。
しかし。
「……まさか、このような形でソードファルコンが倒されるなんて」
ソードファルコンが襲来した後……
どこからともなく、見たことのない青年が現れて、無謀にも現場に突入をして……
女の子を助けることに成功しました。
その後、なぜか局地的な竜巻が発生。
それに巻き込まれたソードファルコンは絶命。
入念な準備を重ねてきた私たちからすると、あっけない幕切れでした。
「よう、アリア」
「おつかれさまです、ケインさん」
同じCランクの冒険者であり、今回の作戦で一時的にパーティーを組んでいたケインさんに挨拶をされました。
彼はソードファルコンの死体を見ると、なんともいえない顔になります。
「コイツが死んだことは喜ぶべきことだが……奇跡を頼りにしてしまった、っていうのは、冒険者としてはちと複雑な気分だな」
「奇跡……ですか?」
「ああ。突然、竜巻が発生して、ソードファルコンがたまたま巻き込まれた。これを奇跡って言わず、なんて言うんだ?」
「それは……」
「もしかしたら、女神さまの救済かもしれないけどな。ただ、こんな小さな事件に女神さまが関わるとは思えないから……まあ、やっぱり奇跡なんだろうな」
「……」
ケインさんの言葉を受けて、私はついつい考え込んでしまいます。
果たして……本当に奇跡なのでしょうか?
あの時、わずかではありますが天気は悪い状態でした。
天気のことはよくわかりませんが……天候の状態を考えると、竜巻が発生する可能性はゼロとは言えないでしょう。
しかし、ここぞというタイミングで竜巻が発生する確率は?
他の人を巻き込むことなく、ソードファルコンだけを飲み込む確率は?
そして、その竜巻が強い威力を秘めているという確率は?
限りなくゼロに近いと言えるでしょう。
「私は……」
「ん? どうした?」
「あの竜巻は、人為的に引き起こされたものではないか? という疑いを持っています」
ケインさんはきょとんとして……
次いで、大きく笑いました。
「はははっ、いきなりなにを言い出すんだ。そんなわけないだろう? 竜巻を人為的に起こすとか、そんなことありえるわけないだろ」
「しかし、そのように考えないと、あんなことが起きるわけ……」
「だから、奇跡なんだろ? 普通に考えたら起きないことが起きたから、奇跡。そういうことさ」
確かに、奇跡と言う以外はないのかもしれません。
その他の認識なんて、普通に考えてありません。
しかし。
私は、耳がいいのです。
だから、聞こえたのです。
公園に勝手に突撃した青年が、「竜巻」と言い放つところを。
そんな青年の言葉に大気が反応するように、竜巻が発生しました。
そして、周囲に被害を出すことなく、ソードファルコンだけを切り刻み、その後、すぐに消滅しました。
ありえないことなのかもしれませんが……
もしかすると、竜巻の発生にあの青年が関わっているのでは?
そんな考えが出てきて、頭から離れてくれません。
魔法なのかスキルなのか。
あるいは、まったく別の方法なのか。
それはわかりませんが……
もしも、あの青年が自由自在に竜巻を発生させることが可能だとしたら?
「……誰も解決することができなかった、あの依頼を達成することができるかもしれません」
私は、言葉にすることのできない熱が胸の奥に宿るのを感じました。
その依頼の達成は、ある意味で、私の宿願。
生きる目的。
それを叶える術があるというのなら、どんなことでも……!
「まずは、あの青年を探してみましょう」
記憶を探り、青年の顔を思い浮かべつつ……
それと同時に、はて? と小首を傾げます。
「しかし……あの青年は、いったい何者なのでしょう? 謎ですね……」
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