5話 旅立ちの日
毎日、コツコツとスキルを使い続けて……
それを繰り返すこと5年。
俺の外れスキルは、ついに進化を遂げた。
『天気予報』から『天候操作』へ。
今までは、天気を予報することしかできない。
なにかしら介入することは、欠片もできない。
しかし、今は違う。
思うように、自由自在に天候を操作できるのだ。
それが俺の新しいスキル、『天候操作』だ。
そのスキルを使い、意図的に落雷を発生させた。
その威力は、見ての通り。
ブラックバイパーを一撃で倒すことに成功した。
「……と、いうわけなんだ」
一週間後。
ブラックバイパーの騒動がようやく収まり、落ち着いた頃……
なにが起きたのか、アルフィンに説明を求められた俺は、自分に起きたことなどをまとめて説明した。
「……」
「アルフィン?」
全部を説明すると、アルフィンがぽかんとした。
目の前で手をひらひらさせるけれど、反応がない。
どうしたのだろう?
不思議に思っていると、急にアルフィンの表情が明るいものに変わり、
「すごいっ!!!」
「おわ!?」
いきなり抱きつかれた。
「すごいすごいすごい、すごいね!!! 天候操作なんて、そんなスキル聞いたことないわ! 自由自在に雷を落とすことができるとか、ものすごいレアスキルじゃない……あーもうっ、ホントにすごすぎて、すごいしか言えていないし! 私、語彙力が貧弱になりそう!」
「ちょっ、ま……!? お、おい!?」
胸があたって……!?
いつも以上に、埋もれて……!?
「どうしたの、ユウ? ものすごく顔が赤いけど……?」
「む……ね……!!!」
「むね……? 胸……はっ!?」
ようやく自分がなにをしていたか自覚したらしく、アルフィンの顔も赤くなる。
ちなみに俺は、窒息しかけているため、顔が赤く見えているのだろう。
「ご、ごめんなさいっ!」
アルフィンが慌てて俺を離した。
柔らかい感触はちと惜しいが、しかし、今は空気の方が大事だ。
大きく息を吸い、体を落ち着ける。
「ふう……し、死ぬかと思った」
「その……本当にごめんなさい。悪気はなかったのよ……すごく驚いたから、ついつい、あんな感じに……」
「いや、いいよ。どちらかというと、役得だし」
「……えっち」
「ごめんなさい」
今度は俺が謝る番だった。
「でも……よかったね」
「え?」
「ユウのスキルは外れなんかじゃなかった。村の危機を救ってしまうほどに、とても強くて……そして、素敵なものだった。そのことが、私、自分のことのようにうれしいよ」
「アルフィン……ありがとな」
彼女の言葉がなによりもうれしい。
心に染み渡るみたいで、しばらくの間、うまく言葉が出てこなかった。
「ところで……」
「うん?」
落ち着いたところで、アルフィンが問いかけてくる。
「これから、ユウはどうするの?」
「どうする、っていうのは?」
「決まっているでしょう? 冒険者になるかならないか……その選択肢をどうするの、っていうことよ」
アルフィンがニヤリと笑いつつ、そんな質問を投げかけてきた。
それに対する俺の答えは……もちろん、決まっている。
彼女に応えるように不敵な笑みを浮かべつつ、答えを紡ぐ。
「もちろん……冒険者になる!」
そして、いつか英雄になる!
それが俺の夢であり、生きがいなのだから。
「ただ、今すぐにっていうのは難しいかな」
「そうなの? どうして?」
「スキルが進化がしたばかりで、まだうまく扱えるかわからない。またしばらくは、訓練だな」
「そっか……そうだよね、まだ訓練は必要だよね」
「アルフィン?」
なぜか、アルフィンが寂しそうな顔をした。
その意味がわかるのは、一週間後のことだった。
――――――――――
アルフィンが王都に旅立った。
俺と冒険者としての旅に出たわけじゃなくて……
一人で旅に出た。
その目的は、王都にある剣士学校に通うこと。
そこで剣の腕を磨くことが目的らしい。
元々、そうすることが5年前から決められていたらしい。
つまり、アルフィンのスキルが判明した時から、彼女の両親は、娘を王都の剣士学校に入れることを考えていた。
アルフィンは、最後までそのことを俺に隠していて……
一人で王都に移動した。
一緒に冒険者になると約束をしたのに……と、一時は落胆したが。
しかし、いつまでも落ち込んではいられない。
よく話を聞いてみたら、剣士学校を卒業した後は、アルフィンの行動は特に制限されていないらしい。
つまり、そこから冒険者になることは可能だ。
なら、俺がやるべきことは一つ。
その時に備えて、きちんとした力を手に入れることだ。
アルフィンが剣士学校を卒業する3年後に備えて。
そして、冒険者になるために。
俺は、スキル『天気予報』と『天候操作』を完全にマスターして……
天気の支配者となろう。
――――――――――
3年後。
十分に訓練を重ねた俺は、いよいよ村を旅立つことにした。
「ユウ、がんばるんだぞ。お前に冒険者なんてものが務まるか、不安だが……まあ、男に生まれた以上、やらなくちゃならん時はあるからな。全力をぶつけてこい」
「怪我には気をつけるのよ。あと、病気にも。元気でいることが一番なのだからね」
父さんと母さんが見送りに来てくれていた。
二人共、最初は俺の旅立ちに反対をしていたが……
今は、なんだかんだで応援しているらしく、昨日、色々なものを持たせてくれた。
旅の資金として、銀貨で50枚をもらった。
いつか、親孝行をしたいと思う。
「大丈夫。俺、ちゃんとした冒険者になって……そして、英雄になってみせるから」
「「……」」
両親の顔は暗い。
それも仕方ないと思う。
ぶっちゃけてしまうと、冒険者の死亡率は高い。
1年以内に1割は死んでしまう計算だ。
1割と言うと少ないと感じるかもしれないが……
そもそもの話、死ぬ可能性がある仕事というのはありえないことだ。
それなのに、1割の確率で死亡するリスクがある。
そのことを聞けば、冒険者がどれだけ過酷な職業であるか、わかってもらえると思う。
心配をかけてもうしわけないと思うが……
それでも、俺は冒険者の道を歩むことを選ぶ。
英雄になるという夢が俺の全てであり、俺という存在の原点なのだ。
「やあ、ユウ」
「クラインさん」
クラインさんも見送りに来てくれていた。
「あー……前は悪かったね。ユウには才能がないようなことを言って」
「いえ、気にしてませんから」
「今は、ユウならできると思っているよ。がんばれ」
「はい!」
父さんと母さん。
それとクラインさんと村のみんなに手を振り、俺は村の外に出た。
「さあ……冒険の始まりだ!」
そして、冒険の第一歩を踏み出した。
本日19時にもう一度更新します。