2話 5年後
その日から、俺は毎日スキルを使用して、鍛錬に励んだ。
あいつはなにをやっているんだ?
外れスキルを掴まされて、ヤケになっているんじゃないか?
村のみんなが呆れ、時にからかい、俺の行動をバカにする。
それでも、俺は諦めることなく、スキルを鍛え続けた。
そうすれば、きっと道が拓けると信じて。
変化が起きたのは、一ヶ月後のことだ。
最初は晴れか雨なのかしか予報できなかったのだけど……
晴れのち雨など、細かい予報ができるようになった。
ものすごく些細な変化だけど、それでも、進化は進化だ。
俺は喜び、ますます鍛錬に励んだ。
――――――――――
1年が経つ頃は、翌日の天気を100%の確率で当てられるようになった。
それだけではなくて、細かい天候の変化も感知することができる。
晴れのち雨のちわずかに雷……なんていう具合に。
些細な進化かもしれない。
進化したとしても、大したことのない内容かもしれない。
それでも俺は、鍛錬を続けた。
シュテルさんとの約束を信じて。
そして、自分を信じて。
ひたすらに鍛え続けていく。
――――――――――
3年が経ち、俺のスキルはだいぶ安定してきた。
翌日の天候の予報は完璧。
今や、分単位で予報できる。
それだけじゃない。
数時間後の天気も予報できるようになった。
ただ、それはまだ完璧じゃなくて、多少の確率で外れてしまうことがある。
今後の課題だ。
こちらも完璧に当てられるように、がんばらないといけない。
そんな感じで、順調に進化を続けていたのだけど……
ふと、思う。
スキルだけを鍛えても、知識がなければ意味がないのではないか?
俺のスキルは天気に関わることだ。
普通に生きていたら、天気に関する詳しい知識なんて得られない。
いざという時に、その知識が必要になるかもしれない。
そう考えた俺は、天気についての知識も蓄えることにした。
幸いというべきか、村に図書館がある。
小さな村だけど、子供たちに学ぶ場所を……と、村長が作ってくれたのだ。
それなりの本が揃っているため、勉強するには十分だ。
その日から、俺は毎日図書館に通った。
天気に関する書物を読み漁り、ひたすらに知識を蓄えていく。
もちろん、スキルの鍛錬も欠かさない。
毎日、毎日、毎日鍛錬を続けて……
ひたすらに自己研鑽を積んだ。
そして……
気がつけば、5年の年月が流れていた。
――――――――――
村の近くに森がある。
その森に入り、少し進んだところに小さな泉がある。
15歳になった俺は、今日も泉に足を運んでいた。
静かに息を吸い、静かに息を吐く。
そうして集中をして……
「天気予報」
スキルを使用した。
「……なるほど。1時間後に曇り。それから、3時間ほどその状態が続いて、再び晴れ。夜になると、弱い雨が降る……か」
スキルを使用して、天気予報をする。
この5年で、当たり前になった俺の日常だ。
精度などは抜群に増した。
その気になれば、秒単位で、細かく先の天気を予報することができる。
ただ、それ以上のなにかはない。
戦いに使えるようなスキルではないし……
かといって、サポートに役立つようなものでもない。
農家を営む両親は、俺のスキルは役に立つという。
農業を営む人にとって、天気はかなり大事な要素だから。
でも、俺は農家になりたいわけではなくて、冒険者になりたいんだ。
英雄を目指しているんだ。
「ふう」
自然と吐息がこぼれてしまう。
5年、がんばってきた。
一日も欠かさず鍛錬を続けてきた。
しかし、目に見えた変化はない。
その予兆を感じ取ることもできない。
「……ちょっとつらいな」
こうして、たまに弱気になってしまう。
シュテルさんとの約束を果たすために、夢を叶えるためにがんばっているのだけど……
でも、俺はまだまだ子供だ。
心が強い大人じゃない。
折れてしまいそうになる時がある。
でも、そんな時は……
「あ、見つけた」
振り返ると、俺と同い年くらいの女の子が。
輝くような髪は長く、風に揺れている。
若干幼さが残る顔は、素直にかわいいと思う。
色々な顔のパーツはとても精巧で、まるで人形のようだ。
背は低いものの、体の凹凸はハッキリとしていた。
最近の悩みは胸がまた成長したことらしく、服はややきつそうである。
スカートから、すらりと伸びた足が見える。
とても健康的な感じがして、魅力的だと思う。
「見つけた、ユウ」
「アルフィンか」
物心ついた時から一緒に過ごしてきた女の子。
幼馴染の、アルフィン・アストレアだ。
「いつものように訓練をしていたの?」
「ああ。一日たりとも、欠かすことはできないからな」
「んー……もしかして、失敗でもした?」
「……なんでそう思うんだよ?」
「元気がないように見えるから」
「元気、ないか……?」
「うん」
さすが幼馴染。
俺の心理状態は、手に取るように把握できるらしい。
そんな彼女だからこそ、俺は素直に心境を吐露することができる。
「俺、本当に冒険者になれるのかな……って、ちょっと不安になっていたんだ」
「どうして?」
「だって……5年も訓練を積んできたのに、なにも変わらない。なにも得られない。もしかしたら、ずっとこのままじゃ……」
「ユウ」
アルフィンに優しく抱きしめられた。
胸があたっているのだけど、そんなことは気にしないというように、アルフィンは俺の頭に回した手を離さない。
「……」
そのままなにを言うわけでもなくて、アルフィンは、優しく俺を抱きしめていた。
まるで聖母のようだ。
不安に揺れていた心が落ち着いていく。
気持ちが安らいでいく。
ほどなくして、アルフィンは俺をそっと離した。
「落ち着いた?」
「……ああ、もう大丈夫だ」
俺が落ち込む度に、アルフィンはこうして励ましてくれている。
折れずにいられるのは、彼女のおかげだ。
「その……」
「うん?」
「えっと、つまりだな……あー」
照れくさい。
でも、言葉にして、きちんと伝えないといけないと思う。
「……いつもありがとう、アルフィン。感謝しているよ」
「うん、どういたしまして♪」
アルフィンはにっこりと、天使のように微笑むのだった。
「ずっと不思議だったんだけど、どうしてアルフィンは、俺に優しくしてくれるんだ?」
慰めてくれるだけじゃない。
ちょくちょく声をかけて気にしてくれたり、遊びに来たり。
時に、おかずのおすそ分けもしてくれる。
「それは……ほら、ユウは幼馴染だから」
「そういうものなのか? アルフィンは、誰にでも優しいんだな」
「……ユウだけなんだけどな……」
「今、なんて?」
「ううん、なんでもないよ」
笑顔でごまかされてしまう。
「それに……約束したでしょ?」
「約束?」
「一緒に冒険をしよう、って」
俺には、もう一つの夢がある。
それは、アルフィンと冒険に出ることだ。
幼い頃に夢を抱いた俺に対して、周囲の大人は子供だからとまともに取り合うことはなくて、適当に聞き流していた。
そんな中、アルフィンだけが真摯に耳を傾けてくれた。
その上で、こう言ったのだ。
「私とユウで、最強の冒険者になろう……って」
「そう……だな。うん、そうだな」
「その約束のために、ユウにはがんばってもらわないと」
「ああ、がんばるよ。俺、絶対に冒険者になる」
「うんうん、その調子だよ。応援しているからね♪」
「でも、やっぱり、なんで優しいのかわからないな……」
「私がユウだけに優しい理由、教えてほしい?」
「教えてくれるのか?」
アルフィンはにっこりと笑い、
「内緒♪」
べーっと舌を出すのだった。
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