13話 今は胸の内に
アーリマンを倒した後、俺とアリアはリンクスに戻った。
さっそく、アリアの家へ。
領主の娘ということもあり、家というよりは屋敷。
お手伝いさんがいる家なんて、初めてだよ……
まあ、それはともかく。
マリアちゃんの部屋にまっすぐに向かうと……
アリアは妹の元気な笑顔に迎えられて、思わず涙を流していた。
妹を助けられたことを喜び……
再び笑顔を見ることができたことを女神さまに感謝して……
姉妹は熱い抱擁を交わす。
その後……
「ユウ……本当にありがとうございました」
屋敷の客間に案内された俺は、そこで改めて、アリアからお礼の言葉を受けた。
同じく、この屋敷に務める執事やメイドさんたちも頭を下げている。
彼ら、彼女らは屋敷に仕える身分ではあるものの、マリアちゃんを我が子のように思っていて……
深い愛情を抱いていると言う。
そのため、今回の一件をとても心配していて……
解決に導いた俺に感謝しているらしい。
「残念ながら、父と母は公務のために街を離れているが……使いは出しました。すぐに戻ってくるでしょう。その時は、ユウが望む限りの報奨を約束します」
「俺としては、アリアにお願いしたいことがあるんだ」
「私に? なんでしょうか?」
「俺の師になってくれないか?」
冒険者になりたいこと。
しかし、スキルのせいで登録できないこと。
ランクGならば、師がいれば登録できること。
こちらの事情を説明した。
「なるほど、そのようなことが……」
「アリアはCランクなんだよな? だから、条件にピッタリなんだ。よかったら、俺の師になってくれないか?」
「そのようなことでいいのなら、もちろん」
「ありがとう!」
「本来は、私がお礼を言う立場なのですが……本当に、あなたという人は変わった人ですね」
アリアが苦笑して……
俺は小さく笑うのだった。
翌日……
俺はアリアと共に冒険者ギルドへ赴いて、無事に登録を済ませることができた。
ランクはG。
色々と遠回りをしたけれど、これで晴れて冒険者だ!
――――――――――
アリアは一人、自室でユウについての考えを巡らせていた。
駆け出しの冒険者として、道を歩み始めた青年。
そのスキルは、現在、『天気予報』と『天候操作』。
一見すると、なんの意味があるの? と思うようなスキルだ。
事実、アリアも最初はそう思った。
しかし、現実は違う。
ソードファルコンを一撃で倒すほどの力。
さらに、広大な平原をまるごと深い霧で覆い、視界を奪うことができる。
聞けば、ブラックバイパーも落雷で倒したというではないか。
「なんて……すさまじいスキルなのでしょうか」
ブラックバイパーやソードファルコンを一撃で倒すなんて、普通に考えてありえない。
Bランク、Aランクなどの高位者ならばわからないでもないが……
ユウはまだ、冒険者に成り立て……最低のGランクなのだ。
有用なスキルを持つ者は、Fランクだとしても、目覚ましい活躍を見せることはあるが……
それは極少数。
基本、ほとんどの者は一歩一歩階段を登るように、地道に成長していくしかない。
しかしユウは、スキルだけで、その階段を大きく飛ばそうとしている。
ここに冒険者としての経験、知識などが加われば、どうなるか?
「末恐ろしいですね……私なんて、あっという間に抜かされてしまうかもしれません」
アリアはユウのことを考える。
ユウの未来のことを考える。
彼は妹を助けてくれた恩人だ。
できる限りのことをしてあげたい。
そうなると……
「まずは……私が持つ冒険者としての技術、知識を伝授する……というところでしょうか」
それは、ユウも望むところだろう。
強くなりたい。
ユウの目はどこまでもまっすぐで、そんな強い意思を秘めているのが見てわかる。
「ただ……今はまだ、ユウのことは、必要以上に知られないようにしないといけませんね」
ユウのスキルはとても強い。
強力すぎる。
ブラックバイパーやソードファルコンを倒した力はもちろん……
平原一帯を深い霧で包み込んでしまう力。
あれは、特別にすさまじい。
例えば……戦争。
うまく活用すれば、戦況を一気にひっくり返すことができるだろう。
現在、大戦と呼ばれる大きな戦争は起きていないが……
小競り合いのようなものは、日々、どこかで発生している。
その戦いを指揮する者がユウのことを知れば、どうするか?
心が曲がっている者ならば、ユウを利用しようとするだろう。
冒険者としてではなくて、殺人兵器として扱うだろう。
そんなことは、ユウは望むわけがない。
アリアも望まない。
「私がユウを守らなければ」
ユウは強いスキルを持つ。
しかし、力だけで世界と渡り合うことはできない。
足りない部分は、自分がサポートしよう。
徹底的に補おう。
アリアは、固く決意した。
「それにしても……」
なぜ、ユウにあんな強力なスキルが与えられたのだろう?
……と、アリアは小首を傾げた。
ユウのスキルはAランク冒険者に匹敵する。
いや……あるいは、Sランク冒険者にさえ届くかもしれない。
それほどのスキルを個人が得るなんて、ありえることなのだろうか?
それこそ、女神の加護を与えられて……
女神に選ばれし者である使徒でなければ、そんなことはありえないのだけど……
「まさか……ね」
考えすぎであろうと、アリアはそこで思考を打ち切り、床についた。
ひとまず、ここで第一部完、という感じになります。
ふとネタを思いついて、勢いで書いてみましたが……
やはり、しっかりと時間をかけるべきですね><
色々と拙いところがありましたが、たくさんの方に読んでいただけでうれしかったです。
続きを書くかどうか、それはまだわからず……
ひとまず、一度、ここで更新を終了にさせていただきます。
ただ気分次第で再開する可能性もあるので、連載終了にはしておきません。
ありがとうございました。