12話 終わりよければ全てよし
どのような方法か、それはわからないが、霧を生み出し視界を塞ぐ。
その間に接近戦に持ち込む。
悪くない作戦だと、アーリマンは感心した。
しかしまだまだ足りないと、アーリマンは嘲笑した。
視界を塞ぐだけで、どうにかなるものではない。
そんな状態でもどうにかできる身体能力がある。
アリアは、アーリマンの前方5メートルの位置にいた。
その距離では、剣は届かない。
勝った!
アーリマンは勝利を確信して、魔眼を発動させようと……
「おいっ、こっちだ!!!」
「ギッ!?」
鋭い声と殺気。
反射的に振り返ると、もう一人、人間が見えた。
ユウだ。
アリアから借りた短剣を手に、アーリマンに突撃をする。
「ギギギッ!」
甘い。
アーリマンは内心で笑いつつ、魔眼を発動させる。
「ぐっ!?」
魔眼の魔力に蝕まれて、ユウは足を止めた。
顔色がどんどん悪くなり、立っていることができない様子で地面に膝をついた。
「かはっ!?」
内蔵をやられたのか、ユウは血を吐く。
しかし。
それだけの重症を負いながらも、口元に浮かんだ笑みは消えない。
「お前の……負けだ」
「これでも……喰らいなさい!!!」
「ギィイイイッ!!!?」
ユウに気を取られすぎたせいで、アリアの接近を許してしまう。
ドンッ、と剣がアーリマンの目を貫いた。
アーリマンは手足をバタバタと暴れさせるものの……
ほどなくして力を失い、そのまま絶命した。
――――――――――
「ふう」
アーリマンが死んだところで、体を蝕む呪いも消えた。
途端に体が軽くなり、悪寒や倦怠感がなくなる。
ただ、すでに傷ついた内蔵などは簡単には治らない。
すぐに立ち上がることはできず、その場に尻もちをついたままだ。
「大丈夫ですか!?」
アーリマンを仕留めたアリアが、血相を変えて駆けてきた。
立ち上がることのできない俺の体を片手で支えて、もう片方の手でポーションを取り出す。
「これを飲んでください!」
「ありがとう」
ポーションを飲むくらいの体力は残っている。
アリアからポーションを受け取り、瓶の中の液体を口に流し込む。
「……ふううう」
体の中の違和感……おそらく、傷ついた内蔵だろう。
その部分が癒やされていくのがわかる。
こんなに早く効果があるなんて……
かなり高級なポーションかもしれない。
「ありが……」
「あなたはバカなのですか!?」
ポーションのお礼を言おうとしたら、いきなり罵倒された。
なぜ……?
「視界を塞ぐから、その隙に突撃をしろと……そんな作戦でしたね?」
「そうだな」
「しかし、いざという時は、ユウが囮になるなんて聞いていません!」
「あー……それは、まあ、なんていうか」
俺の考えた作戦は、こうだ。
アーリマンの魔眼が厄介ならば、それを使用できない状況を作り出せばいい。
まずは、俺のスキルを使い、この平原一帯に深い霧を生み出した。
これで、アーリマンはこちらを視認することができず、得意の魔眼は使えない。
ただ、これでもまだ不安が残る。
ギリギリまで近づいてしまうと、霧の影響は受けない。
タイミング次第ではあるが……
下手をしたら、攻撃する前に、アーリマンの魔眼を受けてしまう。
なので、俺も同時に動くことにした。
アリアが問題なくアーリマンを倒すことができれば、それでよし。
もしも見つかってしまった場合は、攻撃するなり大声を出すなりして、アーリマンの注意を俺に向けさせる。
その場合、俺が魔眼を受けてしまうだろう。
しかし、魔眼はアーリマンが倒れれば効果を失う。
俺は時間を稼ぐだけでいい。
魔眼を食らったとしても、アリアがアーリマンを倒せば、最終的に助かるのだから。
「……っていうことを考えていたんだ。決して、無策に突撃をしたわけじゃないぞ?」
「無策ではないかもしれませんが、無謀極まりありません!!!」
「ど、どうしてそんなに怒っているんだ……?」
「ああもうっ……あなたという人は! 自分に対して、こんなにも無頓着だなんて、思いもしませんでした! ユウがこのような人と知っていれば、あのような作戦に賛成はしなかったというのに……!」
「まあ……いいじゃないか」
「よくありません! 魔眼の効果は解除されましたが、しかし、一歩間違えば死んでいたかもしれないのですよ!? そのような危険を犯すなんて……」
「誰かの命を助けようとしているんだ。俺の命を賭けることくらい、わけないさ」
「あなたという人は……」
アリアは怒るような顔をして、次いで呆れたような顔をして……
最終的に苦笑を浮かべ、深いため息をこぼす。
「とんでもないスキルを持っている強者と思っていましたが……それ以上に、とんでもないお人好しなのですね」
「そんなことないさ」
「本当のお人好しは、そういう風に否定するものですよ」
「むう」
お人好しだなんて、そんなことはないと思うのだけど……
アリアは評価を変える様子はない。
「……まあ、なんでもいいか」
「なんでもいい、とは?」
「だって、これでアリアの妹……マリアちゃんにかけられた呪いも解除できただろう? それが達成できたのなら、他のことなんてどうでもいいさ。俺の評価もどうでもいい」
「……」
アリアはぽかんとして……
次いで、くすくすと笑う。
初めて、アリアの笑うところを見た。
いつも凛として、かっこいいと思うのだけど……
笑っている時のアリアは年相応の女の子に見えた。
本人に言うと怒られるかもしれないが、素直にかわいいと思う。
「アリアはかわいいな」
あ、しまった。
ついつい本音が滑りこぼれてしまう。
「か、かわっ……!?」
カアアアッ、とアリアの顔が赤くなる。
なにを思ったか、アリアは剣を抜いて……
「そ、そそそっ、そのような冗談はまったく笑えません! ええ、ぜんぜんおもしろくありませんとも!!!」
「な、なんで剣を振り回すんだよ!?」
「うるさいですっ、うるさいですっ……うるさいですっ!!!」
回復したばかりのフラフラの体で、俺はアリアから逃げるハメになった。
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