11話 1つ目の悪魔
1メートルほどの巨大な目玉に、悪魔の翼をセット。
そこに木の枝のように細長い手足。
それがアーリマンという魔物の姿だ。
Cランクということもあり、なかなかに凶悪そうな外見だ。
「あれがアーリマンか……」
「かなりの強敵ですが、ユウの竜巻を発生させるスキルがあれば倒せるはずです。ここから、攻撃することはできますか?」
「……ちょっと難しいな」
目測だけど、100メートルくらい離れている。
竜巻を発生させるためには、それなりの集中力が要求されるため……
これだけ離れていると、コントロールが難しい。
日々、鍛錬を積み重ねているけど、俺はまだまだ発展途上だ。
今の俺の限界は、そうだな……
竜巻を確実に命中させるとなると、10メートルというところだろう。
それ以上の距離があったとしても、試すことはできるは……
命中率は、著しく落ちるだろう。
雷を落とすことも、同じくらいの射程だ。
もう少し近づかないと、厳しい。
「ちょっと……というか、かなり射程距離が足りない」
「そう……なのですか?」
「確実に命中させるとなると、10メートル圏内に近づきたいな」
「10メートル……ですか」
アリアが難しい顔になる。
「幸い、アイツはまだ俺たちに気がついていない。一気に距離を詰めれば、なんとかならないか?」
「いえ、それは難しいです。ヤツ目は、魔眼なのです」
見たものに呪いをかける眼。
それが魔眼だ。
あんな外見をしているから、魔眼を持っていたとしてもおかしくはない。
というか、当たり前のような気がした。
「ヤツの呪いを受けたものは、たちまち病に侵されてしまいます」
「もしかして、マリアちゃんも……?」
「はい……たまたま、この近くで遭遇してしまったみたいです」
妹のことを思い、アリアはとても悔しそうな顔をした。
どうして、その時、自分は近くにいなかったのか?
どうして、助けることができないのか?
そう悔いているようだった。
「悔しいか?」
「……はい」
「なら、ここでヤツを確実にしとめよう。そして、マリアちゃんを助けよう。それが今、俺たちにできることだ」
「……ユウ……」
アリアは驚いたような感じでこちらを見て、
「はい」
強い決意を瞳に宿して、しっかりと頷いた。
戦意が失われることなく、むしろ、燃え上がったようだ。
これでいい。
「アーリマンの攻撃能力、防御能力は?」
「攻撃は魔眼に全部頼り切っていますね。それだけの威力がありますし……見えるもの全てが射程範囲ですから」
「なるほどね……となると、逆に言えば他の攻撃手段は持たない?」
「手や足の爪でひっかくようなことはするみたいですが……それは、大して威力はないでしょう。防御能力も大したことはありません。接近さえできれば、成り立ての冒険者でも倒せると思います」
「それなら、弓や魔法で攻撃すれば……って、100メートルの射程がネックになるのか」
100メートル以上離れた敵を攻撃するとなると、かなりの腕が要求される。
最低でCランク以上になるだろう。
それだけの人物を見つけることができず、困っている……という感じか。
それに、敵もなかなかに賢い。
遮蔽物がほとんどない平原を根城にすることで、確実に敵を撃退できるようにしている。
寝ている時に奇襲をかけるという手もあるが……
アリア曰く、アーリマンはとても慎重な性格をしているらしく、些細な音で目を覚ましてしまうという。
そのことを考えると、奇襲も難しい。
「そうだな、そういうなら……」
頭の中で作戦を組み立てていく。
俺のスキルを使い、どのようにしてアーリマンを倒すか?
パズルを組み立てるようにして、情報を積み重ねていく。
そうして、答えを導き出す。
「……よし、思いついた」
「なにか手が?」
期待に目を輝かせるアリアに、俺は告げる。
「アリアがアーリマンを倒すんだ」
――――――――――
アーリマンは細長い手を伸ばして、さきほど仕留めた獲物のウサギに突き刺した。
ウサギの体に残る生命力を吸い上げて、食事を堪能する。
ほどなくしてウサギは骨と皮だけになり、アーリマンは空腹が満たされる。
食事の時間は終わり。
次は休憩だ。
アーリマンは目を閉じて眠ろうとするが……
「ギギッ……!?」
本能が警報を鳴らして、瞬時に目を覚ました。
見ると、いつの間にか周囲が白いモヤに包まれていた。
霧だ。
数メートル先も見通せないほどの深い霧が降りている。
いったい、いつの間に?
そもそも、なぜ霧が?
このような地形、時間帯に霧が発生するわけがない。
アーリマンは軽く混乱して……
それから、敵襲を警戒した。
人間が魔法などで人為的に発生させたものなら、理解できる。
というか、それ以外の可能性がない。
「ギィッ」
アーリマンは不機嫌そうな鳴き声をこぼす。
自慢の魔眼も、ここまで深い霧の中では意味がない。
見える範囲が射程距離なので……
なにも見えないこの状況では、魔眼の射程はほぼほぼゼロだ。
タタタッ、という足音が近づいてきた。
考えるまでもない。
敵襲だ。
アーリマンは警戒を最大限に引き上げて、周囲に視線を走らせる。
あいからわず、深い霧のせいで視界はゼロに等しい。
なにも見えない。
それなのに、足音だけはよく響いていた。
それがどんどん距離をつめてくる。
このまま敵の接近を許したら、おそらくやられてしまう。
遠距離戦は強いが、近接戦は弱いのだ。
アーリマンは焦った。
どうする? どうしたらいい?
追い詰められた頭で必死に考えて……そして、閃いた。
この霧のせいで、敵も遠距離攻撃は封じられているはずだ。
攻撃する時は、かなり近くまで接近するはず。
近づいてくる足音がその証拠だ。
ならば、その瞬間を狙い、カウンターを叩き込む。
アーリマンの目は、無意味に大きいわけではない。
魔眼という能力を最大限に活かすために、目が極限まで進化している。
巨大な目が見通す範囲は、おおよそ270度。
ほぼほぼの角度を一度に見ることができて……
なおかつ、どんな小さな動きも見逃すことはないほどに、精密な情報把握ができる。
いわば、クモやトンボなどの目をより精密に進化させたようなものだ。
その目を使えば、敵よりも先に攻撃をすることができる。
集中を途切れさせなければ、カウンターを叩き込むことができる。
「ギギッ……!」
アーリマンは絶対の自信を持ち、敵を迎え撃つ体勢に入った。
足音がどんどん近づいてきた。
それに惑わされることなく、アーリマンは目の前に見える光景のみに集中する。
そして……
一瞬、霧が揺れた。
風が吹いたかのように、ゆらりと揺らいだ。
「ギィッ!!!」
敵に違いない。
そう確信したアーリマンは、自ら前に出た。
「なっ……!?」
アーリマンは、剣を振りかぶるアリアを見つけた。
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