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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

特別独房のクリスマス

作者: 田中ゆき

「ねえアグ! 明日何の日か知ってる?」

「な、何……?」

「クリスマス・イブだよぉ〜!!」

「えっ……」


ヌゥ・アルバート、10歳。長い黒髪で可愛らしい顔の明るい少年。6歳の時に自分の親を含む村の住民全てを殺して捕まった、最年少大量殺人鬼だ。10歳以下の子供は死刑にならないのがこの国のルール。終身刑として、特別独房と呼ばれる牢屋に収容され、もう4年が経った。


アグ・テリー、10歳。茶髪でちょっと目つきが悪いが、天才的に頭がいい少年。その年、自作の爆弾で一国の城をふっとばして捕まった彼もまた、終身刑。ヌゥと同じ特別独房に収容されて、数カ月が経った。


大量殺人鬼であるヌゥを前に、そのうち自分も殺されるのではないかと、怯えた生活を送っていたアグだったが、少しずつ彼にも慣れてきたところだ。


この前アグは、ヌゥが読んでいる本のタイトルを、彼が入浴に行った隙にこっそりと見た。


ーーー『友達と仲良くなる12の法則』


どうやらヌゥは、アグと友達になりたいらしい。


(ってことは、俺のことを殺す気はないんだよ……な………?)


その独房内で、隣でヘラヘラ笑っているヌゥをちらりと見る。

あの笑顔、まじでサイコ的だ……。


(やっぱ信用できない……。家族だって殺したんだ。友達だって殺すに違いない)


そうさ。友達になっても殺される可能性は充分にある。

全てこいつの気分次第に違いない。

ていうか、そんな奴と、誰が友達になんかなるかよ…。


「クリスマス楽しみだねぇ!」

「別に独房(ここ)じゃ何もないだろ…」

「あるある! だってクリスマスの晩御飯にはね…」

「うん……?」


まさか独房飯でケーキとか出たりすんのか?

そんな大盤振る舞いしちゃう?


「バニラアイスがつくんだよ!」

「そ、そうなんだ……(しょっぼー……)」


ていうか甘いものはそんなに好きじゃないからな。もはやどうでもいい。


ヌゥはあぐらをかいて、壁にもたれかかった。


「でもねぇ、独房(ここ)に来てから、サンタさんが来てくれたことがないんだ〜」

「……」


いや、当たり前だろ。来るわけねえだろ。

馬鹿なやつだ。お前のサンタはな、お前が殺したんだよ。

クソイカれ野郎が。


ていうか、ちゃんとサンタ信じてんだな。

やっぱ脳内ガキだなこいつ。

俺なんて孤児だったからな、サンタなんて来るはずもなかったよ。


「やっぱりあれかな! 悪いことした子のところにはサンタは来ないっていうの、本当なのかな!」

「……」


悪いことどころじゃねえよ、俺たちがやったのはな……。


「だけど今年もお願いしてみようと思うの! ダメ元で!」

「そ、そう……」

「毎年ね、サンタさんに手紙を書いてるんだ!」

「へ、へぇ……でも書いたあとどうするの?」

「どうって、枕元に置いとくんだよ! サンタさんがもしここに来てくれたら、手紙を読んで俺の欲しいものをくれるはずだからね!」

「なるほど……」


魔法使いだな。こいつの中のサンタは、マジ魔法使い。


「アグも一緒に書かない?」

「え……俺はいいよ……」

「な、何で?! 諦めないでよ! 2人でお願いしたらさ、ほら、サンタさんが来る確率が上がるかも!!」


(確率て……何を言ってんだこいつは)


もし仮にサンタがいても、殺人犯のところになんて来やしねえよ。しかもそれが2人もいるんだ。もっと来ねえよ。

サンタはアホじゃないはずだ。殺されたくねえから逃げてくよ。特にお前からは。


「はいどうぞ」


ヌゥはびりっと破ったノートの1ページを俺に渡した。

そして俺に、拒否権などない。


(はぁ……)


いるはずのないサンタに手紙を書くなんて、何と虚しい。

まあいいや。欲しいものなぁ……そうだなぁ……。


ていうかサンタへの手紙って、そんなギリギリに書くもんなのか。もう23日だぞ。

こいつの母親よく対応できたな。


「何をお願いしようかな〜……」


ヌゥは鉛筆を顎に当てて、ニコニコしながらプレゼントを考えている。彼は真剣だ。


そういや、明日がクリスマス・イブってことは…。


「あ……」

「何なに?! 何か欲しいもの思いついたの?!」

「いや、そうじゃないけど……」

「えー? でも何か思いついたような声出してたよ?」

「いや、その……明後日、俺の誕生日だ……」


アグ・テリー、11歳の誕生日だ。


それを聞いたヌゥは、パアっと目を輝かせた。


「そうなの?! おめでとう!!」

「いや、まだだけど……」

「そっかあ! アグの誕生日はクリスマスなんだね!!」

「うん。まあ……」

「俺もね、冬生まれなんだよ!」

「へえ。いつなの?」

「12月31日!!」


大晦日かよ………。

1年の終わりに最悪の殺人鬼が産まれちまったんだな……。

まあ母親に罪はないんだろうが。というかもう、死んでるし…。


「結構近いんだな…」

「そうだね! 奇跡だねぇ!!」

「いや、奇跡ってほどじゃないだろ……別に同じじゃないんだし」

「えー? そっかあ…。まあでも、親近感がわくね! 冬生まれ同士! 仲良くなれそうだね!!」

「……(いや、全く)」


まあでもよく考えたら、春生まれだったら俺は事件を起こす前に11歳か。危うく死刑になるとこだったよ。

いや、こいつと一生一緒に過ごすくらいなら、死刑になった方がましだったろうか。なんてね。


「ああ、でも独房(ここ)にいたんじゃ、アグにあげられるものが何もないよ〜」

「別に何もいらないよ…」

「えー? アグの欲しいものって何? あ、手紙もう書いたの? 見せて!」

「ちょっ…勝手にみんなよ!!」


ヌゥに紙を奪われそうになったので、アグはクシャクシャにそれを握ってポケットに隠した。


「ケチー!」

「いいから!」


ヌゥは再び自分のメモに向かい合うと、スラスラと何かを書いた。


「今年こそプレゼントもらえますように…!! サンタさんお願い!!」


ヌゥはその手紙をぎゅっと握りしめて、神頼みをするようにサンタさんにお祈りをした。


(だから、来ねえってのに……)


「ヌゥは何がほしいの」

「教えなーい!」


ヌゥは右目の下まぶたを引き下げて、べーっと舌を出した。


「あっそ……」


俺はそっぽを向いて、カンちゃんに図書室から借りてきてもらった気難しい本を、暇つぶしに読み始めた。


「アグは本当に読書が好きだね! 俺も読ーもう!」


ヌゥは例の本を取り出して、読み始めた。


(まだその本読んでんのかよ……)


ヌゥが読んでいるのは、本の最初の方だった。


(何周目なんだよ……)


そうして12月23日は、終わりを迎えた。



翌日、世間で言うクリスマス・イブがやってくる。

といっても、俺達には何の関係もない。

クリスマスも元は神様の誕生を祝う神聖なイベントだ。俺達みたいな極悪人が関わっていいものじゃない。なんて思ったり。


「ねぇ、何でクリスマス・イブっていうの?」

「クリスマスイブニングの略だよ」

「クリスマスの夜ってこと?」


ちなみにこの世界には、俺たちが話す言葉とは別に、とある国が独自に生んだ伝統言語のエイ語ってやつが存在する。俺たちもそれを授業で習ったりもするから、簡単な言葉ならその訳を知っている。というわけだ。


あ、特別独房の俺たちは、日中は授業を受けているんだ。先生は看守なんだけど、名前を知らないから看守のカンをとって、勝手にカンちゃんって呼んでる。


「そうだよ」


ヌゥはうーんと頭をひねった。


「クリスマスの夜って、25日(あした)の夜なんじゃないの? なんで今日がイブなの?」

「エイ語を作った国、あそこじゃ日没から日没までを1日と数えるんだってよ」

「うん?」

「だから、日が暮れてから1日を数え始めるんだよ。何時とかじゃなくってさ。つまりその国じゃあ1日は夜から始まるってわけ。つまり俺たちがいう24日の夜は、その国にとってはもう25日(クリスマス)の夜ってわけ」

「ふうん……」

「何だよ。わかんなかったのか? つまりだな……」


アグはノートに図まで書いて説明しようと試みるが、ヌゥはもうその話にはあんまり興味がないようだ。


「ねぇ、聞いてんの?」

「もうわかったからいいよ〜」


(なんだよもう……)


「はあ〜! でも今夜だね! サンタさんお願いだよ〜! 一度でいいから独房にも来てよ〜!」

「独房にはサンタは来ねえよ…」

「来るよ! 絶対来るの! 俺が5歳の時まではね、毎年ちゃんと来たんだよ! 最後のプレゼントは人形だったよ! でもねぇ、イライラした時にぎゅっと握ったら、身体が潰れて目玉も飛び出てどっかいっちゃった! 気持ち悪いからすぐ捨てちゃったよ。あはははは!!」


(こ〜わ〜い〜……もうやめてぇ……怖いんだよぉ……笑うなし……)


何で人形なんてもらうんだよ……お前男だろ……。


「手紙に人形って書いたんだ?」

「書いてないよ」

「え? じゃあ何て書いたの?」

「……友達」

「……」


どんだけ友達が欲しいんだよ……。

気持ち悪いなもう……。


母親もあげるの人形て。いや、まあ人間はあげられないからな…。なかなか考えたじゃねえか。


そして案の定、人形(ともだち)壊されてるし…。

やっぱ俺も殺されるのか…。


「毎年書いたんだ〜。友達くださいって」

「そ、そうなんだ……」

「去年も、一昨年も、先一昨年も!」

「……」


サンタが仮に独房に来ててもあげられねえなあ、そんなものはよ。


「でもやっとね、俺のところにアグが来てくれたよ」

「……いや、それはたまたまだろ…」

「そうかもしれないけどさ……」


ヌゥはなんだかもじもじしている。


「ねえアグ…」

「うん?」

「俺と……と、と、とも……」


アグもゴクリと息を呑んで、彼のことを見ていた。


「ヌゥ・アルバート、入浴の時間だ」


急に放送が入って、ヌゥは心臓が飛び出そうになった。

入浴の時間になるとこんな風に呼び出されるんだ。

そして俺は、なんだかホっとした。


「い、いってくるね…」

「いってらっしゃい……」


この殺人鬼に友達になってと言われたら、俺はどうするんだろう…。

怒らせたら怖いから、とりあえずイエスと言うんだろうか。


でもそんなのって、友達なんかじゃないよな…。


「……」


ヌゥは入浴に行ってしまった。

独房に1人になったアグは、考える。


(ヌゥは何が欲しいんだろう。まさかまた友達とか書いてねえだろうな…)


そしてアグは、覗き見の常習犯になりつつあった。この前も本のタイトルを覗き見たばかりだ。


(ええい!)


アグはヌゥの枕元に置かれたサンタへの手紙を開いて読んだ。


『サンタさん アグの欲しいものを1つ、俺にください』


「……」


俺はそっとその手紙をたたんで元の場所に戻した。


はぁ……とため息をついて、自分が書いたメモを見る。

アイルドクレースと書いた。この前本で読んだ、ある山の山頂でたまにしか採れないという、珍しい鉱石の名前だ。俺は鉱石を集めるのが昔から好きなんだ。


(はぁ……)


アグはその文字を消して、書き直した。


そしてヌゥが風呂から帰ってくる前に眠りについた。

フリをしただけど……。


「あれー? もう寝ちゃったの〜?」


ヌゥが独房に帰ってきて、檻の鍵が閉まった音がした。


「何だ〜つまんないの。俺も寝よ〜」


そしてヌゥも、眠りについた。




ガサガサ


(うん?!)


その深夜、ヌゥは物音に気づいた。


(サンタさん!!)


しかしヌゥは寝たふりを続ける。


(駄目だ……サンタさんは寝てる子のところにしか来ないんだ……寝たふり寝たふりと……)


ヌゥはそのまま目を閉じて、眠っているフリを続ける。気づけばもう一度、眠りについていた。




「うーん……」


12月25日の朝、ヌゥは目を覚ました。普段は起きられなくてアグに起こしてもらうのだけれど、今日はヌゥが先に起きた。


「サンタさん!!」


ヌゥはハっとして身体を起こした。


「あ……」


しかし枕元には、何もない。


(あれ〜? サンタさん来てたのに!! 何で何もくれないんだよ〜!!)


どうしよう。アグの誕生日にあげられるものが何もない。


ヌゥはちらっと、隣でまだ寝ているアグを見た。


「あ……」


アグの枕元には、サンタへの手紙が置かれている。

あれ、昨日から置いてあったかな。気づかなかったや。


(アグの欲しいものって何だったんだろう…。やっぱり本とかかな…アグは勉強好きだし)


ヌゥはゴクリと息を呑んで、その手紙をとって開いた。


『欲しいものはありません』


(ああっ!!!)


ヌゥはアグをキッと睨みつけた。


(んもう! アグのせいでプレゼントを貰いそこねた!!)


何でそんなこと書くんだよ…。もらえるものも、もらえないよこれじゃあ……。


(うん?)


ヌゥはその文字の奥に、消されている何かの文字の跡を見つける。


(あれ、何か書いたのに消したんだ…)


ヌゥは薄暗い独房で何とか紙を透かして文字を見ようと試みる。


(アイ……ク……ー……??)


「あ!」


(アイスクリームか!!!)


ヌゥはパアっと顔を輝かせた。


「おい、何見てんだよ……」


目を覚ましたはアグはヌゥの紙をさっと奪い取る。


「アグ! おはよう!」

「こういう日は早起きするんだな…」

「うん! でもねぇ、サンタさん何もくれなかったよ!」

「サンタはここには来ないよ……」

「来てたんだよ昨日! 物音が聞こえたんだもん!」


(何で起きてんだよ……それ、俺がトイレに行っただけだよ……)


アグはふわぁと欠伸をした。




その日はクリスマスだったが、平日だったから普通に授業があった。


「カンちゃんも大変だねぇ、せっかくのクリスマスに、俺たちなんかと授業なんてさ」

「そう思うなら真面目にその問題を解け」


カンちゃんは腕を組んで教壇に立っている。いつもの仏頂面で俺たちを見下す。


アグは聞き耳だけ立てながら、サクサクと問題を解いていた。簡単すぎる問題だ。半分寝てても解ける。


「ねぇ、カンちゃん家族とかいるの?」

「お前らに勉強以外で教えることなんて何もない」

「いいじゃ〜ん。ちょっとくらいカンちゃんのこと教えてくれても! まあでもカンちゃん、結婚とかできなさそうだよね〜」

「……」

「カンちゃんて今いくつ? 俺の倍くらいかなあ」

「……」

「でも実は子供とかいたりして? でもカンちゃんの子供じゃあ、物凄く無愛想な奴に違いないね!」


うざくなったカンちゃんは、完全に無視を決め込んだようだ。

まあ確かに、カンちゃんは結婚とかしなさそうだよな〜…。


ていうか、何で看守になったんだろう。囚人の相手なんかして一生を終えるなんて、俺には理解できねえや。

まあ、人を殺して独房で一生を終えるなんて、カンちゃんこそ俺らを理解できないんだろうけど。


「アグ、もしカンちゃんに子供がいたらどんな子だと思う?」

「え? うーん…結構可愛いんじゃない?」

「え! 娘ってこと?! 娘はさすがにないでしょう! カンちゃんだよ? あはははは!!」


バン!とカンちゃんが教科書で教壇を叩いた。


「ひっ!」


俺とヌゥはびっくりして、ガラス板の向こうのカンちゃんを見ては顔をしかめた。このガラス板、特別製でね、何しても壊れないけど声はよく聞こえるんだ。カンちゃんがヌゥに殺されたりしないようにつけたらしいよ…。


「52ページから3章の終わりまでの問題、全部宿題。明日まで」

「えええええ?!?!?!」


ヌゥは焦って52ページからページをめくり始めた。


「え? え? え?」


章の終わりにたどり着くまでに、数えきれないほどの問題の山が載っている。


「無理無理無理! 嘘でしょ?! カンちゃん! 今日何の日か知ってる?!」

「クリスマスプレゼント。俺からの」

「えええええ!! いらないいらない! そんなのいらない! 勘弁してよカンちゃん!」

「連帯責任。どっちか1人でもやってこなかったら、明日の昼食、2人共出ないから」

「何それ! ズルい!! ちょっと! カンちゃん!!」


ヌゥが叫ぶと、授業終わりの時間を知らせるチャイム…代わりのアラームが鳴った。


「じゃ、メリークリスマス」

「えええええ!!!!」


カンちゃんは颯爽と去っていった。


「アグ〜〜……」


ヌゥは泣きそうな顔で俺を見てくる。


「いや、お前のせいだろ……」

「何で? 何でこんなことに? クリスマスなのにぃ〜〜……」


ヌゥはがっくりして、机にうつ伏せた。




独房に戻った俺たちは、宿題を始めた。

スラスラと俺はノートに解答を書いていく。


(30分もかかんねえな)


ヌゥもだるだるとした様子で床に寝っ転がりながら問題を解いている。

ちなみに、あぐらをかいてちょうどいいくらいの高さの机を、必要なら借りられる。というわけで、俺は机で問題を解いている。


「ふわ〜……全然終わんないぃ〜……」

「もう習ったとこだろ。そんなに難しくねえだろ」

「覚えてないんだも〜ん……」


いつも復習しねえからだよ。

天才じゃねえんだからさ、そりゃやんなきゃ忘れるだろうよ。


ヌゥはすこぶるアホってわけでもないが、不真面目なもんで復習なんて絶対しない。やる気がないからアホに染まっていくタイプだ。


問題を解くこと数十分、アグは宿題を終わらせた。


「はい、終わり」

「も、もう終わったの?!」

「そりゃ終わるだろ」

「終わんないよ! ちょっと! アグの答え見せてよ!」

「それは無理」

「何で?! 明日の昼食なくなるよ?!」

「ズルは駄目だぞヌゥ。ちゃんと自分で解かないと」

「えええ! アグって真面目だね!」

「普通だから。ほら、頑張って」

「うい〜……」


それから数時間、休憩もはさみながら、ヌゥは問題とにらめっこしていた。




そうして夜の18時になると、独房内に晩御飯が運ばれてきた。


なるほど、クリスマスを意識している。

珍しくローストビーフなんてものがあるじゃないか。ご飯もドリアだし。

相変わらずスープの具材は少ないけれど。


「10分前になったらね、アイスがくるよ! ふふ!」

「あぁ、そうなんだ……」


まあ一緒に来たら溶けるからな。

だったらケーキとかお菓子にすればいいのに。

まあアイスの方が原価が安いからだろうけど。


まあどうでもいいや。甘いものはあんまり好きじゃないし。

こいつにやろう。


「いただきます!」

「いただきます」


ヌゥはご飯を食べながら、食事が運ばれてくるその壁際のボックスを、チラチラと見ている。


どんだけアイスが食いたいんだよ…。

まじでガキなんだから…。


それにしてもこのローストビーフ、なかなかうまいじゃねえか…。


ちょうど食べ終わった頃に、アイスとスプーンが運ばれてきた。

蓋がついたカップのバニラアイスだった。


皿にのってる一口サイズくらいのしょぼいやつだと思っていた。思ったより結構量がある。


「アグ!!」


ヌゥはそれに駆け寄って、2つのアイスを両手にとった。


「ああ、それさ、俺いらないから……」

「誕生日おめでとう!!!」


ヌゥは満面の笑みで、その2つのアイスを、俺の目の前に差し出した。


「は……?」

「俺のもあげる!! アイスクリーム!!!」

「は……?」


アグは顔をしかめた。


(何で?)


「いや、いらないから」

「んもう! 遠慮しなくていいよ! サンタさんに頼むほど欲しかったんでしょう!」

「は?」

「ほら! 早く食べないと溶けちゃうよ!!」

「いや、だからいらないって……はぶっ」


ヌゥは蓋を開けてアイスをすくっては、俺の口にスプーンを放り込んだ。


んめたっっ!!!」

「おいしい? あはは!! おめでとうアグ〜!! 11歳ィ〜!!!」

「い、いらないっ……いらないっての………」

「遠慮しないでってば〜!!」


ヌゥはにっこにこしながら、俺にアイスを無理矢理食わせる。


(何なのこいつ……。まじでいらないんだけど……)


「あはははっ!!!」


(笑うな!! 怖いからぁっ!!!)


こいつ…、駄目だ……。

頭おかしい……!!


そう、あれだ…。こいつ、殺人鬼じゃなくったって、友達が出来ないタイプの奴っ!! ありがた迷惑が尋常じゃないぃ……!!!


「じゃあ2個目、開けまーす!!」

「いや、もういらない! 本当にいらないっ!!」

「はい、あーん!!」


(く、口が凍るぅっ……!!!)


ヌゥは終始楽しそうに、俺の口にアイスを突っ込み続ける。


(ふふ! 俺、アグに毎年プレゼントをあげられるね!!)

(だったらローストビーフくれよ〜……)


ねぇ、サンタさんが俺にアグをくれたんでしょう?

いつかアグと友達になれるかな…。

俺、頑張るからね、サンタさん!


そのバニラアイスは非常に濃厚で、アグの口の中はアイスの甘味ととろみでいっぱいだ。


そしてアグはその夜、腹を壊すのだった。




最後までご覧いただきありがとうございました!

本編は、10年後この独房から出ることになったヌゥとアグが、異能力人間シャドウと戦うダークファンタジーです! もし気が向きましたら本編も読んでいただけると幸いです!

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