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モグラの街。地下のハイエナ。  作者: 足元 ノリヲ
2/2

その2

 グランドタワーは5階までは明るくランタンなど必要ない。俺は展望デッキとしてこのあたりの場所が人が溢れていた昔の姿を潜る度に思い出す。この国で一番高い建物として観光客が溢れていたのだ。綺麗な景色を前に記念写真をする人々は消え、今となっては薄汚れたモグラと呼ばれる男達が意気揚々と進んでいくか、疲れた顔で登っていく姿しか見えないが。真ん中が大きくあいたドーナツの形の大きな部屋が地下へと連なっている。低階層ではルートが別れないため、周りに人がちらほら見える。ただ、トラブルを避けるためにも無用には近づかないのがマナーだ。俺は前を進む二人組を追い越さないようにゆっくりと進んでいた。


「情報は要らないかァ?滑落、ムシ、ハイエナ、ガス!今日はムシが大量発生だッ!20階までだが。どうだ?いらないか?情報は要らないか?」


 男の客を引く大きな声が階段に響き渡る。ブン屋と呼ばれる情報屋の声だ。俺たちの命を左右する情報はここでは高く売り買いされる。滑落して通れなくなった通路の情報、ムシと言われる害虫たちの情報、ハイエナと呼ばれる金目当てのたちの悪いモグラの情報に、猛毒のガスの情報。


「今日はムシが出てるのか?なんてこった。ルートを変えなきゃな。」


「くそっ!嫌だな…今日くらいは買っておくか。」


 前を歩く二人組の男達がブン屋と話し込む。とたんにブン屋の声が聞こえなくなるほど小さくなった。モグラとして生き抜くためには情報は死活問題である。俺も気になるが情報を買えるほど余裕があるわけではないし、無理なアタックをするつもりもない。今の懐事情では、情報を買うだけで一週間はひもじい生活を強いられる。そんなのはさすがに嫌だ。


(危ないと思ったら逃げたらいいか…)


そう独り言を呟きながら俺は二人組を追い抜いて進んでいく。


ーーーーー

展望デッキを過ぎ、非常階段を降りていき。朽ちた防火扉をくぐると濃厚な闇が広がった。緊張感が高まる。俺はランタンに火を灯し、相棒のチッチを確認する。ここから先は自らのランタンの灯りとチッチが頼りとなる。燃料の枯渇は死を意味するし、チッチ、小鳥はガスの発生を教えてくれる。どちらも生命線だ。

 このショッピングゾーンの広さだけでかなりの広さがある。地上のマーケットの数倍にもなるだろう。もちろんこの区画にはすでにほぼ何も残されていない。先輩のモグラ達が草の根一本残さぬ勢いでむしりとっていったのだろう。なんせこの世界ではビニール袋ですら過去のモノとしてかなりの価値を持っているのだ。新しい区画を探索出来れば10年は遊んで暮らせるという。ただ、俺の興味はそんなところにはない。ただ思い出を探しているだけだ。しかも大した思い出でもない。なんとなく懐かしいな…そんなぐらいだがそんなものしか俺は持っていないのだ。そんな思い出を頼りに通路進んでいくのだった。


何もない空間となってしまっている上層階を駆け足で通り抜け初心者殺しと呼ばれている階層へと辿り着いた。元は観光名所だった展望台周辺の上層階は迷路のような構造をしており、経路を把握していない者にはどうしても迷いやすくなっている。しかもこの薄暗いランタンの灯だけでは精神的にも追い詰められてしまうのだろう。10階層より下に潜ることができるのはそれに耐えることができた一部の人間だけだ。そして追い討ちをかけるようにこのあたりからは命の価値がグッと下がる。ハイエナと呼ばれる無法者たちが現れるからだ。ハイエナたちはここで探索を終え、懐に宝物を溜め込んだモグラたちを待ち伏せしている。時折、暇つぶしのようにやっと上層を超えてきたバンビ(新人)たちに牙を剥くのだ。ギリギリの体力で潜り続けているバンビたちはひとたまりも無いだろう。そして温存していた食糧などをハイエナたちに奪われる。直視はしたくない弱肉強食の世界だ。俺はルートも暗闇にも慣れてしまっている。精神的に参っていなければハイエナたちなんかは恐れることはない。避ければ良いだけだからだ。奴らは臭い。臭いでわかる。というかこの時代の人間は基本的に不潔だから数十メートル先からでもわかる。俺が自分を清潔に保ち、独りで潜っている理由がこれだ。他人の臭いに敏感であるためには自分とその周りをできるだけ無臭に保たなければならない。




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