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8話:魔剣ゾンビ娘との攻防

 動き出したゾンビ娘は僅か二歩で凄まじい加速を遂げ、僕との間合いを急激に縮めてきた。接近戦に持ち込まれては分が悪すぎる。僕も後ろへ下がるが、相手の進む勢いが勝っているのは明らか。


「ヴ……ヴ……」


 更に駆けながらゾンビ娘の左手が動いた。自分の前方へ向けて横薙ぎに振り、腕の運びへ沿って魔剣が扇状の斬閃を宙に切る。

 すると動線を正確になぞり、魔力を帯びた剣圧が発生した。刃の間合いを越えて、斬撃の圧力が僕へと舞い飛んでくる。横に長く放たれた剣圧は広く、壁際へ逃れることは出来ない。


「くぉ、こっの!」


 殆ど反射で僕は膝を折り、腰を落とし、全身を屈めていた。

 一秒あるかないかの間で、僕の頭上を魔剣閃が高速で抜けていく。圧と速度で生まれた風に髪が靡き、斬威に掠った何本かが切断され落ちてくる。

 ギリギリのところで回避が間に合った。これに失敗していたら、今頃は頭と胴体が切り離されていただろう。危なすぎる。

 けれど安堵している暇はない。僕は屈んで剣圧をやり過ごすことで後退が止まり、その間にもゾンビ娘は進んでいた。

 強い踏み込みが入ったと思った直後、彼女は既に僕の正面へ近付いている。思わず目を瞠った最中、ゾンビ娘の左腕が真っ直ぐに突き出され、握る魔剣が僕へ冷たくも鋭い刺突を繰り出す。

 流石に体勢が整っておらず、これは避け切れない。奥歯を噛んで堪える同時に、黒い切っ先が僕の眼前へ届いた。

 が、そこで透明な光の壁が刃を受け止める。さっき僕とプルルンに掛けておいた防御魔法が、魔剣を遮る盾となったんだ。

 魔法障壁に阻まれた剣身が、これを破ろうと尚前へ押し込んでくる。防護の壁は今以上の侵入を許さない。それ故に魔剣と障壁の間で鬩ぎ合いが起こり、二つの接触点では鮮烈な火花が飛び散った。

 今は耐えている。しかしこのままでは長く保たないだろう。窮地は依然として継続中だ。


「力の渡り、流れの運び、たゆたう烈印を逆巻き報せ」


 状況打開のため次なる一手。詠唱を経て生じた魔力の渦が、上下に向い合せた両手の合間で発生する。

 魔法壁の内側から両腕を前へ押し、風迅魔法を放出した。発動したのは螺旋状に大きく巻き起こり、進路上の全てを吹き散らす雄々しい竜巻。両手を基点として吐き出された暴風が、正面に立つゾンビ娘と魔剣を強烈に叩く。

 手加減無用で放った魔法風が、剥落した岩片を洞窟の奥側へ次々と押し流していく。そのエネルギーを至近距離から無防備に浴びるゾンビ娘は、徐々に踏ん張りが利かなくなり、後ろへと滑り始めた。

 それと共に魔法障壁へ激突している魔剣も下がりだし、僕へと届き得る距離から離れていく。

 一秒ほど後、今まで守ってくれていた魔力の壁が罅割れ、粉々になって霧消した。こちらも危ないタイミングで、耐久の限界へ達したようだ。


「くっ、予想以上に耐えてくれるじゃないか」


 風魔法の猛陣を叩き付けはするが、魔剣を持つゾンビ娘はジリジリとしか下がっていかない。

 凡百の相手ならとっくに竜巻へ飲まれ、彼方まで吹っ飛んでいるところだろうに。

 肉体の限界を超過して動ける死霊族ならではの抵抗だ。正直、ここまでやり辛いとは思わなかった。

 未だに大した距離を引き離せていない。けれどもう魔法を維持し続けることもできない。


「駄目、だ」


 紡いでいた魔力の流れを維持できなくなり、風迅魔法は終わりを迎える。

 期待した通りとはとても言えず、然して離れていない所にゾンビ娘は居た。魔法風による追い立てがなくなったことで、再び攻撃態勢が作られる。


「プルプルー!」


 そこへ突然、プルルンが突っ込んできた。

 僕を襲った時と同じボール型へ丸くなり、こちらを向いているゾンビ娘の後ろから飛び掛かったんだ。

 彼の軌道は魔剣を握っている左手狙い。ゾンビ娘と魔剣の注意が僕へ集まっている、その間隙を突いた。

 丸まったプルルンの体当たりは、見事にゾンビ娘の左手へ命中する。速度と弾力の乗った一発が豪快にぶつかり、強い衝突音が洞窟内へ響いた。


「ヴ……ヴ……」

「プルル~!?」


 ゾンビ娘が反応し、左腕を振る。それだけでプルルンは力負けし、逆に弾き飛ばされてしまう。

 彼女の手は魔剣を握ったまま、まったく緩んでいない。

 魔剣を手放させることは出来なかった。だけど、彼の奮戦はけして無駄じゃないんだ。


「よくやった、プルルン」


 ゾンビ娘はプルルンを払うために手を動かし、僕から一瞬注意が逸れた。

 勇敢なウーズ族を相手にした間だけは、こちらへと向かってこない。生まれたささやかな空白。微かな時間。

 でもそれで僕には充分。改めて魔力を練る時間は稼がれた。


「天矢五連、魁の誅威来たれ、貫く先、此処に狙わん」


 左右の手を拳として握り、互いに打ち合わす。詠唱により波打つ魔力を束ね、両手を正面へ伸ばした。

 左腕はそのままに右腕を引き、弓を射るための姿勢を模倣。両手の合間には光の矢へと昇華された魔力が集い、五つの輝きを抱える。

 引いた右腕の拳を開き、絞った魔矢を解放した。合せて五つの光矢が連続で射放たれ、魔剣の黒刃へと一気に飛び込む。

 狙いすました魔撃が一発ぶつかれば、立て続けに四連が繋がり、相乗的な魔力の炸裂が決まった。間髪入れぬ多段衝撃が攻め打ち、一射ごとの余波が拡散する。重い爆音と鳴動が立て続けに起きて、猛圧が場を吹き抜けた。

 そして遂に重なる威力へ押し負けた魔剣が、ゾンビ娘の手中から剥がれて虚空へ。五つの光矢に撃たれて飛び、アンデットの体から離れた後方の床面へと落下する。

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