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65話:仲間会議

 自分達のダンジョンへ戻った僕達は、発見した洞窟湖をどうするか協議すべく、全配下を招集した。

 メンバーが一同に会して話し合えるだけの空間は大食堂以外にない。そのため食堂の長机を臨時の会議席として囲むこととなる。

 尚、新洞窟への入口には防衛用の魔生植物を配置した。万が一粘体獣がこちらへの侵入を試みても阻むことが出来るし、襲撃情報は僕達まで即座に届く。その際は迎撃に乗り出す体制だ。もっとも、水棲適応型の粘体獣が水場を離れ、わざわざ長距離を移動してくるとも思えないけど。念のために、ということ。

 ダンジョン管理を開始した時点から総勢8名の部下を擁していたため(プルルン・ゾン子・シラユキは飲食が必要ないけど)、大食堂は最初期にプルルンの掘削作業で作り出した。

 厨房と隣接する広々とした空間。その中央に据え置かれた長机と、対面状に並べられた配下と同じ数の椅子。室内はカリナの細やかな掃除が行き届いて、常に清潔感が漂っている。

 今は各々の担当業務と生活サイクルの違いから、全員が揃って食事を摂ることは滅多にない。だから今日の様に配下が揃って大食堂に身を置くのは、非常に珍しい光景だ。

 上座には僕が座り、一段進んで左右にプルルンとゾン子が、そこから隣へアルデとルシュメイア、更に隣へシラユキとクラニィ、またその隣へカリナとレイドが腰掛けるという形。単純に配下となった順番での並びを取った。

 ちなみにプルルンとクラニィは椅子の高さが合わないので、直接机の上に座っている。

 そして今回はシラユキも参加だ。普段は先史遺跡層に待機して、こちら側の事態には我関せずの姿勢を崩さない。しかし今は大人しく椅子に座り、配下陣の顔ぶれに混ざっている。

 気が向いただけか。はたまた僕の号令だから動いたのか。兜状の顔からは、やはり心情を読み解くことは出来なかった。


「ドウゾ」


 カリナが全員の前に紅茶入りカップを置き、自分の席へ着いたところで、僕は一同を見渡す。


「今回皆に集まってもらったのは、事前に伝えた通り新しく発見された洞窟と、そこに存在する湖について話し合いたいからだ。まずはアルデ、湖水の分析結果を教えてくれるかな」

「心得た」


 指名を受けたアルデが机の上に小瓶を乗せた。

 僕が持ち帰り、彼に渡して検分を頼んだものだ。内部には採取した水がそのまま入っている。


「。含まれている塩分濃度から、山脈直下を流れる地下水が湧き出たものと推測される。主成分は普通の水と大差ない。特別な毒性はなく、有害な微生物も確認されなかった。そのまま飲むこともできるし、湯浴みに使ってもいい。唯一の特色としては微量ながら魔力が宿っている。よって我々魔族の体には寧ろ馴染み易いだろう」

「ありがとう。次に調理をはじめ家事全般担当として、カリナの意見を聞かせて欲しい」

「ハイ。使用ニ問題ナイノナラ、確保シテ運用ノ流レを確立シテオキタイデス。生活用水ハ、ドレダケアッテモ困リマセンカラ。非常時用モ兼ネテ、蓄エガアルト安心デス」


 話を振られたカリナは赤い瞳を数度瞬き、上目遣いに全員の顔を窺いつつ語った。

 目の前のカップを両手で包み、時折恥ずかし気にしては、そちらへと視線を落としてしまう。

 喋るのが得意でない種族性故か、平時より口数少ない彼女だが、必要なものを必要という声には求める者の実感が込められている。


「さんせー!」

「プルルー!」


 元気よく手を上げるレイドと、粘体を縦に伸ばすプルルン。

 二人は自分達が見付けてきたこともあり、洞窟湖制圧案を最も強く推している。

 必要性云々よりも、手柄として主張したいだけという様子ではあるけど。


「妾も言いたいことがある。よいであろう、主殿?」

「ああ、勿論だよ」


 次に声を上げたのはルシュメイアだった。

 着ているドレスと同じ色合いの白い扇で口元を隠し、滑らせるように皆の顔を流し見ていく。


「水があるに越したことは無いという話も分かる。じゃが現時点で特段に不足しておるわけではあるまい。魔力を水に変換する道具は正常に機能しておる故、今すぐ湖を押さえる必要はないと思うがの。聞けば大型の粘体獣が巣食っておるそうではないか。件の湖を制するには敵勢の規模を把握し、討伐に戦力を割くことが必須。些か手間が掛かりすぎるのではないか?」

「ユレ様、私の発言もお許しください。私達のダンジョンは現在その在り方を整えている最中にあります。各人に役割があり、それぞれの仕事を進めている途上です。この段階で洞窟湖を手に入れるとなると、索敵及び実働で時間と人員、それに相応の物資も費やさねばなりません。そうなると本分であるダンジョン構築に障りが出るのではないでしょうか」

「なるほど。つまりルシュメイアとクラニィは湖の獲得に反対ということだね」

「そういうことじゃ。今は必要あるまい」

「私もルシュメイア様と同意見です。急ぐのではなく、ダンジョン構築が十分な成果と安定を迎えてから、改めて切り込むべきかと考えます。カリナさんの思いも分かるのですが、ここは少し待って頂ければと」


 ルシュメイアは然も当然と言わんがように。クラニィはダンジョン進捗に最も通じているからこそ。それぞれの立場から一同へと投げかけてきた。

 一通りを述べてから、クラニィが申し訳なさそうにカリナを見る。目が合った単眼メイドは慌てて頭を左右へ振り、クラニィへ大丈夫だと意思表示を送っていた。


「イエ、アッタライイナト思ウダケナノデ。ドウシテモ今スグ欲シイ、トイウ訳デハアリマセンカラ」

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