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60話:水域への誘い

「プルルル」

「やあ、プルルン。別の洞窟へ穴を開けたって? 様子を見に来たよ」


 複雑に入り組んでいる洞窟内を足早に進み、僕とクラニィは現最長掘削点へ辿り着いた。

 プルルンは大きく穿たれた穴の前で、流れてきている小川のような水線を覗き込んでいる。

 報告にある通り、水は漏れてきているが大したことはない。岩床の上をチョロチョロと流れているだけだ。

 この洞窟は連なる山々の一つ、その側面へ出来ている山内洞窟。距離を開けた先に似通った条件で別窟が存在していても、然程不思議ではないだろう。もっとも、こちらは古代先史文明の遺産を下敷きにしているという特殊性を持つけれど。


「プルプル、プルルル~」


 プルルンは楕円形になっていた緑の粘体を少しばかり膨らませ、右へ左へ揺すり始めた。

 曰く、口溶けまろやかで他の岩壁より美味しかったので、ついつい夢中になって掘り進んでしまったのだとか。そしたら削った壁の先が空洞になっており驚いたと。

 少しだけ中に入ってみたが、広く奥行きもあるので一先ず引き返し、此処で待機していたらしい。少ししてから向こう側より少量の水が流れ込んできたようだ。


「選択肢としては、この穴を塞いでしまうという方法もありますが」

「この先がどうなっているのか気になる。何も無ければ新領として加えられるし、別の魔族が住んでいるなら配下にしたいところだ。どうあれ一度は調べてみないとね」


 クラニィの言葉へ行動方針を返して、僕も開いた穴を覗き込んでみた。

 内部は暗く奥まではとても見渡せないが、チョロチョロとささやかな水流の音は聞こえてくる。山の内部に雨水や地下水の溜まった洞窟湖が存在しているのかもしれない。

 現状、僕の洞窟に置ける水源は、魔導装置を利用して魔力から変換することで作り出している。同装置が不調へ陥り直ちに復旧できなかった場合、必要な水量を即座に確保できないのは問題点として常に抱えてきた。

 この発見場所に水場があるとすれば、それを押さえる事さえ出来れば、ダンジョンの基盤を一層堅固にすることが叶う。


「魂の灯よ、輝けく先行きを照らせ」


 詠唱によって掌へ集めた魔力が光球となり、煌々とした明光を放ち出す。

 生み出した照明灯は自ずから浮遊して、壁向こうへ移動すると、高所を取って静止した。魔法の灯りが重い闇を払拭し、暗く沈む一帯が照らし出される。

 視界へ明らかとなった光景は、こちらのダンジョンよりも遥かに天井が高い。左右にも広く、奥も遠く伸びており、想像以上の大空洞となっていた。

 所々で岩の柱が底床から天井まで突き立って、一種神殿のような様相とも言える。しかし誰かが手を加えたような痕跡はなく、天然の広域空間だ。視線を落とせば、岩床の上を幾つもの水の支流が流れている。その一つが緩やかな傾斜を伝い、僕達の洞窟へ流れ込んでいた。


「とても大きいですね」

「ああ。これは、ちょっと散策程度の気持ちじゃ臨めないかな」

「プルルル」


 全員で開けた空洞内を覗き込み、各々が目を凝らす。

 足元の些細な小川以外に動くものは見られない。他の生物がいるような気配も、この辺りには特段感じなかった。

 だが奥はまったく見通せないため、どうなっているかは直接踏み込んでみないと、何一つ分からないままだ。


「くんくん、くんくん――あ! リーダーだ! リーダー、リーダー、リーダー!」


 背後から威勢の良い声と、元気に駆ける音が聞こえてきた。

 誰が来たのか気付いて振り返れば、案の定、レイドが狼尻尾を激しく振りながら飛びついてくる。


「おっと。レイド、どうして此処に?」

「お風呂のあと、カリナねーのご飯を食べて、散歩してたんだ。そしたら嗅ぎ慣れない水の匂いがしたから、辿ってきたの。そしたらリーダーを見付けた!」


 右腕にしがみついて見上げてくる狼少年の両瞳は、純真な喜びに煌めいていた。

 思惑の慮外にあり、素直な感情を吐露する幼い顔には屈託がない。


「あ、プル先輩とクラねーもいる! 皆、なにしてる?」


 僕の後ろで待機していたプルルンとクラニィに気付いて、レイドは大きく手を振った。

 未熟なレイドを育てる意図から各配下の下へ付かせ、ローテーションで助手兼生徒をやらせている関係上、彼は全員を先輩と呼び慕っている。特にカリナとクラニィは一緒に捕らえられていたという経緯もあり、姉同然に懐ている。二人にとっても無邪気なレイドはかなり可愛いようだ。


「プルルンさんが新しい洞窟を発見したので、それを調べにきました。それにしても流石はローンウルフ族ですね、レイド君。水の匂いを嗅ぎ分けてしまうなんて、私達には真似できません」

「プルルル~」

「えへへへ、ボク、鼻の良さと脚の速さには自信があるんだ!」


 クラニィの賞賛を受け、嬉しそうにはにかむレイド。

 鼻の頭を指で擦ると、両手を腰に当てて背筋も伸ばし、大きく胸を張ってみせる。

 単純で子供っぽいが、だからこそ裏表のない姿勢は、僕も嫌いじゃない。


「レイドの嗅覚は確かに優れている。未踏領域を進むのに役立ちそうだ」

「ほえ?」

「どうだいレイド、僕達と一緒に未知の空洞を探索してみないか?」


 僕が誘ってみると、狼少年は数度目を瞬いた。

 それから黒い両目を冒険心と輝かせ、群青色の狼耳と尻尾を力強く振り始める。


「行く行く、探検に行くー!」

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