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6話:予期せぬ闖入者

 ゾンビを配下に加えた場合、生命がないからこその継戦能力が期待できる。こちらが魔法でより強化すれば、優秀な突撃・迎撃要員に据えることができるだろう。

 ただ逆にそれ以外の面で役に立つとは言い難い。知能がない所為で、気を回し動く事ができないからだ。運用方針としてはプルルンと真逆ということになる。

 目指すべきは異なる特性の配下を揃え、それぞれの能力を活かした作業へ就かせること。同じタイプだけで固めた軍団は、一方面に特化しすぎて、他の面が脆弱にならざる負えないから。

 ここで正面戦闘が得意な死霊族を従えるのは、けして損じゃない。

 野生のゾンビであっても、ネクロマンサーの手駒であっても、支配する自信はある。ただ一発ポンで出来ることじゃないから、近付いてからある程度の時間が必要だ。

 あのゾンビ娘の戦闘力如何によって、かなりの苦戦を強いられるだろう。


「プルプル」

「ああ、彼女も出来れば配下に欲しいね。倒して進むだけなら、遠距離から上級魔法で燃やしてしまえばいいけど。アンデットには治癒魔法が利かないから、できるだけ手傷を負わせず確保したい」


 アンデットの修復にはネクロマンサーが修める特殊な専門知識が不可欠だ。通常の治癒魔法は生命力を注ぎ込んで対象を癒すけれど、生きていない死霊族には効果がない。

 自身の損傷を気にせず、四肢さえ繋がっていれば無理矢理に動けてしまうから耐久性は高いものの、ダメージが臨界に達すれば体が壊れて動けなくなる。その前に修復しないといけないわけだけど、死霊族に精通した者でないと何が必要で、どう処理すればいいか分からない。

 これはアンデットマスターの領分だったから、僕は門外漢なんだよね。

 知識は後々学ぶことができるとはいえ、今ここでゾンビ娘を行動不能にしてしまうと即時戦力として望めない。


「取りあえず、僕達へ気付いていない間に拘束してみようか」

「プルル!」

「白き凍気の嘶きよ、地を這い空駆け、立つ者芯身を束縛せよ」


 詠唱と共に放たれた魔力が急速に冷気を帯び、僕の足元から氷晶を発生させながらゾンビ娘へと走る。

 洞窟の床面を素早く直進し、標的の素足側へ達するや、一気に冷気が噴き上がった。周辺温度を一瞬で低下させ、足先から始まり全身へと駆け上がる氷晶は、ゾンビ娘の五体を氷の塊で閉ざしてしまう。

 相手が動くより先に固まっていく体。拘束用の魔氷が少女体を取り囲み、全躯の上から密集して抑え込んだ。


「プルプルプルー」

「うん、いい感じ」


 一発で等身大サイズの氷結晶オブジェへ変化した対象を見て、プルルンは興奮気味に跳ねている。予想以上に上手くいき、僕も思わず右手を握った。

 アンデットと戦ったことがないから加減はいまいち掴めないけど。念のために大型魔獣捕獲用の強制拘束魔法を使ってみた。成果は上々。これで労せずゾンビ娘を支配下に置くことができる。

 あとはこっちから近付いて、相手の身動きを封じている隙に、作業を終わらせてしまえばいい。


「プルルン、辺りを警戒しておいてくれないかな。この子がネクロマンサーの下僕だった場合、術者本人が干渉に気付いて襲ってくるかもしれないからね」

「プルルー!」


 威勢の良い了解を返して、プルルンは洞窟奥へ続く方向に跳ねていく。

 見張りは彼に任せて、僕はこちらに集中するとしよう。まずは手をゾンビ娘の頭に乗せて、魔力感知を実行する。誰かに使役されているなら、必ず繋がりがある筈だ。連動部を見付けることが出来れば、術式に組み入って回路を切断し、僕へ繋げて一気に乗っ取る。


「なんだ?」


 右手を上げて始めようとした時、妙な反応を感じた。

 空気にヒリつくような重みがある。胸騒ぎがして、反射的に手を引っ込めてしまった。

 何かがおかしい。一歩後退り、凍り付いたゾンビ娘を改めて見詰める。

 そこで気付いた。いつの間にだろうか、彼女の胸へ亀裂が出来ている。縦に一筋走っているそれは、汚れたドレスシャツを物理的に裂いているんじゃない。布地は傷付けないで開かれた裂け目、その虚が抱く蒼黒い煌めきは覚えがある。古い魔導書に記述されていた、異空間のものだ。ゾンビ娘の体内へ通じているのではなく、此処とは違う空間へ繋がっている。

 局所空間同士を連結させるのは古代高等魔法の一種。それが何故こんなところで発動しているのか。


 考察を巡らせる前に、状況は急激な変転を迎えた。

 ゾンビ娘の胸に突如として開いた亀裂から、くすんだ金色で仕上げられている柄が出てくる。異なる空間から、こちら側へと移動してきたということ。

 そうかと思えば、柄は自らどんどん外へと滑り出し、黒く分厚い刀身を持つ巨大な剣としての姿を露にした。

 蝙蝠の翼を意匠化した鍔と、重厚な刃の中心へ目玉の刻印を宿す、禍々しい剣。誰も触っていないのに独りで宙へ浮き、ゾンビ娘の前に留まっている。

 異様な雰囲気を纏う剣だ。ただの器物でない証拠に、強い魔力を内側から放射している。明らかに魔剣の類。

 僕の見ている前で、謎の魔剣はまた動き出した。自分だけで一回転し、柄をゾンビ娘の方へと向ける。更に彼女へ近付いていき、氷に覆われた左手へと入り込んだ。

 瞬間、ゾンビ娘の五指が締まり、魔剣をしっかと握る。同時に黒い刀身から強烈な魔力が迸り、剣を中心として波形に拡散された。

 僕は咄嗟に後ろへ飛び退き、その最中に見る。解き放たれた魔力の波動で、ゾンビ娘を固めていた氷塊が全て砕け、弾き飛ばされる光景を。

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