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59話:開通しまして

「本日の一役は終わったようだな、継承者よ」


 現実世界に戻ったところで一歩後ろへ下がると、シラユキの二重音声が背中に届いた。

 振り返れば灰銀の鎧騎士が視界へ入る。僕が『黒い箱』の中に入った時と、なんら変わったところはない。

 それもそうだ。クロバコ君と話したり、触手球体を退治したり、巨人に襲われたり、古代人と会話したり、色々あったのも全ては精神体でのみの体験。こっち側では一瞬しか経っていない。


「どっと疲れたよ。まったくもって面倒な話じゃないか」

「ふむ。なにか有益な情報でも得られたのかな」

「肝心な『黒い箱』については何も分からずじまいだ」


 言葉は問い掛けの形だが、シラユキ自身に然したる関心がないのは雰囲気で伝わってきた。

 守護者としては『黒い箱』の真相よりも、継承者の存在と維持、そして対象との繋がりさえ保てれば他はどうでもいいのだろう。

 片手を振って軽く応じ、僕は魔力結晶体の塊から離れていく。

 クロバコ君の中の人と話した内容を整理してみるけれど、一番聞きたい部分が依然として空白のままだ。余計な質問はせず直球で核心へ迫るべきだった、と今更後悔しても遅いけれど。


「これ以上は此処に居てもしかたない。戻してくれ」

「心得ているよ」


 僕の求めに反論もなく、シラユキは甲冑状の腕を上から下へと一振りした。

 それによって空間へ裂け目が生まれ、入り口が左右へと口を開く。

 流石に通い慣れた道は不安に能わず、裂け目を潜って異空間へ踏み込んだ。後に続くシラユキが先と同じ所作を取れば、通った入り口が閉じて、新たに外へ至る割れ目が出現する。

 これも踏み越えてみれば、目的地である中央指令所へと戻ってきた。


「私は守護の任に努める。明日、また会おう」


 僕が外に出ても、今度は追従してこない。

 異空間に留まったままのシラユキは、裂け目の合間からそれだけ言って身を翻す。すると空間上の断裂は綺麗に閉じられ、最初から何もなかったように見慣れた景色と同化した。

 彼の使う空間渡りは転移魔法の高等派生系だ。目的の場所へ瞬時に移動する転移魔法とは違い、一度必ず異空間を通過しなければならない。一見こちらの方が手間を踏んでいるので下位魔法のようにも思えるけれど、何者の外的干渉を受け付けない完全な独立空間へ渡り、自由に出入り出来るのは相当強力と言える。

 異空間の中にあらゆる物を溜め込んでおけるし、他人も匿える。猛威を揮う敵がいても異空間に入ってしまえば手出しされず、しかも出入り口は術者の望むタイミングで何処にでも開けられるのだから、不意打ちにしろ逃走にしろどうとでも使えてしまう。異空間へ移動するというワンテンポを置く作業には、計り知れない可能性がある。

 使命に傾倒し我欲の存在しないゴーレムでなければ、幾らでも多用し奨功を上げられたことだろう。はっきり言って僕も欲しい。


「ユレ様、おかえりなさい」


 戻った僕をクラニィが出迎えてくれた。

 しかし軽やかに舞ってくる挙動に反し、浮かべられているのは控えめな微笑。

 物言いたげな表情は、何かあったことを察するには十分だ。


「問題かい?」

「プルルンさんから報告が入りました。ダンジョン拡張中に、別の横穴へ通じる壁を抜いてしまったそうです」

「近くに此処とは違う洞窟でもあったかな。大山の連なる辺境帯だし、自然窟や魔物の掘った巣穴も考えられるか。ありえない話じゃない。それで向こう側と繋がってしまったわけだ?」

「はい。かなり広い空間らしく、水が流れ込んできていると」

「それはちょっとマズイかもね。水の勢いはどの程度? 酷く浸水しているか?」

「いえ、少量という話です。床に多少水溜まりが出来るほどしか入ってきていないので、今すぐ重大な問題とはならなさそうですね」

「そうか、分かった。なら直接現場を見て、どうするか判断しよう」

「お供します」


 指令所の中心に置かれている箱庭を見た。

 洞窟内を正確に象った魔砂の模型を俯瞰し、プルルンが現在居る問題の場所を探す。

 僕の視線に気付いたクラニィが、洞窟中央から枝分かれて奥へ伸びる道の一つを指差し教えてくれた。確かにその一本だけが随分と離れて長々と続いている。

 食事と掘削を兼ねているプルルンは、作業に没頭すると延々進んでしまうところがあった。おそらく今回も特別な意図などはなく、夢中になっていたら別の洞窟に行き当たってしまったのだと思われる。

 なんにせよ放置はできない。繋がった側に何が潜んでいるかもしれないし、調査は必要となるだろう。まずは実際の状況を確認してからになるけれど。

 戻って早々だが僕はクラニィを伴って、中央指令所から洞窟通廊へと向かった。

 今や足に馴染んだ岩剥きの床を踏み、目的地へと歩を進める。途中途中に複数の横穴が空いているので、最短でプルルンの待機地点へ辿り着けるルートを通っていく。

 広げるのはプルルンに任せているが、僕の支配するダンジョンだ。どの道が何処に通じているか、全て頭の中に入っている。体にも覚え込ませる必要があるため、暇を見ては直接歩いて回るようにもしている。

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