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54話:排除プログラム襲来

「排除プログラムが来ます」


 耳に心地良く、頭を痺れさせる魅力的な声が響く。

 聞き惚れそうになるのを堪え、周囲への警戒に意識の比重を置いた。

 神経を研ぎ澄ますと、細波の中へ異質な音が混じっているのを感じる。広がる大海原へ即座に向き合う、その瞬間、波間を破って黒い異形が浮上してきた。

 白い飛沫を散らして天日に晒されるのは、鋼鉄めいた堅牢の外殻を持つ球体。それ中心として四方へ黒い触手を伸ばすという、不気味な風体をした存在だ。既存の生物とは異なり生命感を感じさせない見た目からも、作り上げられたモノだと分かる。


「こいつか。さて、どう仕掛けてくるやら」

「魔なる縛鎖よ我が声に従い此処へ」


 現れた敵を一睨みする僕の後ろで、澎湃な魔力の含まれる歌声が流れた。

 それと同時、黄金へ輝く鎖の束が6方向から一斉に伸びて走り、鋼鉄球体へと襲い掛かる。球体物が反応するよりも速く、黄金の鎖は黒い触手を相次いで絡め取り、球本体にも巻き付いた。

 6束の強固な鎖に捕らえられた球体は、完全に動きを封じられて停止するよりない。海の上に浮いた状態で拘束され、触手群も自由を奪われている。


「マスター、今のうちにトドメを」

「紅蓮の息吹よ高く燃え立ち、我が敵を引き裂く爪となれ」


 美女化しているクロバコ君に頷き返し、僕も詠唱を編んだ。

 右手へと魔力が集い、手の全面を覆うと共に燃え上がる。紅色の炎爪が形成され、これを振り上げると、一拍溜めた。

 身動き出来ない触手球体へ狙いを定め、そこから一息に振り下ろす。応じて右手から魔炎が離れて膨張し、鋭利な鉤爪状の紅蓮となって飛翔していく。放たれた炎の爪は火の粉を散らして斜方に奔り、球体を豪快に切り裂いた。

 敵と魔力が触れるや小規模の爆発が起こり、熱波が周囲へと駆ける。爆炎が空間上を舐め、衝撃が弾けると、その内側から爪痕型に裂け壊れた球体が姿を見せる。

 全体の半分以上を失っている球体。それが僕達の見ている前で砂色に変色し、ボロボロと崩れながら消えていった。真下の海面へ落下物はなく、落ちる途中で全てが消滅していく。


「よし、やったね」

「いえ、まだ来ます」


 一息吐く暇もなく、クロバコ君が前方を指し示す。

 つられて見れば海面を吹き上げて、新たな触手球体がもう一体、更にもう一体と姿を現してきた。


「もしかして、キリがない系か?」

「管理ブロックのバグが解消され、マスターが正式な登録者であると認められるまでは続きます」

「やれやれだな」

「幸いにして前マスターの歌声は魔韻を含んだ天性のもの。魔法の詠唱へ等しい効果を持っています。回収した残存データでは拘束作用しか発揮できませんが、それでも排除プログラムを封じることは難しくありません」

「つまりキミが抑えて、僕が仕留めると。了解だ、手早くいこう」

「魔なる縛鎖よ我が声に従い此処へ」


 再び美女クロバコ君が歌い、黄金の鎖が具現化して宙空を渡る。

 鎖の束は正確に触手球体へと集い、これを雁字搦めに包み込んだ。現れた球体二体に対して、鎖は3束ずつに分散して絡み付く。それでも6束密集時と変わらない頑強さで、敵体の自由を奪い去っていた。


「天矢五連、魁の誅威来たれ、貫く先、此処に狙わん」


 この合間に僕は左右の手を拳として握り、互いに打ち合わせる。詠唱により脈打つ魔力を束ね、両手を正面へ伸ばした。

 左腕はそのままに右腕を引き、弓を射るための姿勢を作り。両手間で光の矢へと昇華された魔力を、五つの輝きとして顕現させる。

 目視で標的を定めると共に、引いた右手を開いて絞った魔矢を解放した。これにより五つの光矢が射放たれ、身動きできない触手球体へと躍り掛かる。

 手前の一体に二本の魔矢が立て続けに直撃し、球の体が粉々に砕け散った。崩れ落ちる敵を越え、その後ろへ控えた一体を残る三矢があやまたず貫き果たす。魔力の矢は防御も許されない球体の中心点を突破して、致命的なダメージを与えたようだ。硬質の外殻を勢いよく粉砕し、弾けた破片を四散させる。破壊された塊は砂化を経て、後には何も残さず消滅するのみ。

 だが、まだまだ敵勢の増援は終わらない。

 倒した端から新手の球体が海原より浮き上がり、僕達の正面空間へ次々に現れてくる。

 今度は一度に四体の触手球体が浮上してみせ、こちらへ向かって突っ込んできた。


「魔なる縛鎖よ我が声に従い此処へ」


 クロバコ君の魔歌が即座に響く。すれば黄金鎖が三度奔り飛び、球体群を押さえて止めた。

 一束が一体を、もう一束が別の一体を。残る二体は二束ずつが素早く絡めて丸く閉じ、強制的に移動を封じる。

 動きさえ停まってしまえば、狙いを付けるなどわけもない。相手との間合いも十分にあり、魔法発動へ集中できる。


「燃えて裂け、爆ぜて割れ、何者さえ灰塵たる法理を今、暴き放とう」


 詠唱の中で漲る魔力が次第に強くうねり上がり、熱火の瞬きを生じて見せた。

 僕の周囲は燃え盛る炎の赤に染まっていき、灼熱の帯が従者さながらに漂い渡る。そこから先、燃え立つ熱帯は長々と尾を引いて、圧倒的速度で飛び出した。

 通った進路を激しく焦がし、途上で魔炎が四方向へ分裂する。分かたれた紅蓮は他方へ曲がり、それぞれに異なる球体へ激突していった。赤々しい帯は四対の刃を描き、球の真ん中へ突き刺さると、内側から一気に爆ぜ広がる。容赦のない火勢が敵体を飲み込んで、猛烈に焼き尽くし、見る間に塵芥へと貶めていった。

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