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46話:じゃれつくワンコ?

「あっ、リーダーだ! リーダー、リーダー、リーダー、リーダー!」


 厨房を後にして洞窟通路を歩いていると、元気の良い大声と共に、小柄な影が横穴から飛び出してきた。

 影は殆ど体当たりする勢いで僕に飛びつき、左腕にくっついてくる。


「おわっと。びっくりしたなぁ」


 突然の衝撃によろめきながら、ぶつかってきた者へと視線を落とす。

 僕の腕には、群青色の短髪と狼の耳を生やした少年がしがみついていた。

 背は低く華奢な体付き。手足は髪と同じ群青色の狼毛に覆われてフサフサ。丈の短いシャツと半ズボンを身に着け、その上に赤いジャケットを羽織っている。

 ズボンの臀部からは狼の尾が生え出し、これまた軽快に左右へと振られていた。


「リーダーがこっちを歩いてるなんて珍しいね。見付けたボクはラッキーだ!」

「否定はできないか。今までの仕事が一段落したから、これからはなるだけ皆の所に顔を出せそうだよ」

「え、ホント! ヤッター!」


 僕を見上げてきたのは、まだあどけなさの残る幼い顔。耳や尻尾や手足には狼の特色が強く出ているけれど、顔は人型のそれだ。

 黒い両目をキラキラと輝かせ、八重歯が覗く口をニッと笑みの形へ変えていく。無邪気で屈託ない子供の表情がそこにあった。

 彼は僕の8番目の部下、ローンウルフ族のレイドという。

 カリナ同様、妖典族に囚われていた魔族の一人。異空間から解放されたあと、僕の事を恩人恩人だと連呼して、大いにはしゃぎ纏わりついてきた。助けを求めに動いたのはクラニィだし、実際に彼等を匿っていたのはシラユキだが、彼の解釈では僕が助けたことになっているらしい。

 そのまま『ご恩返しする!』と強く求めて押し切られ、強引に僕の配下へ加わった。


 しかしレイドは見た目通りに若く、もっといえば幼い。何事にも経験が浅く、知識も少なく、魔法も戦闘もそれ以外の作業も、はっきり言ってかなり拙い。ただめげることを知らず、前向きで、いつも元気なのは長所だろう。

 まだまだ成長途上の少年魔族には、専門で仕事を与えていない。代わりに各配下の元で、手伝いをさせながら経験を積ませている。プルルンの下ではつるはし握って掘削作業を手伝いながら体力作りに励み、アデルの下では魔導炉をはじめ魔導器の製造や魔力の扱いを学び、ルシュメイアの下では魔生植物の世話と共に彼女の培っている教養を授かり、カリナの下では家事全般に関わって生活力の向上へ努め(料理中につまみ食いが多いとカリナが苦笑していた)、クラニィの下では秘書の助手として細かな書類仕事の合間に勉強を習い、ゾン子の下では僕の指示を受けた彼女と戦闘訓練を行っている。

 何が出来るか分からない、というよりレイド自身、何がしたいのかまだ定まっていない。だから色々なことを学ばせながら、本当に自分の得意なこと、したいことを探させている段階だ。いずれ彼自身が『これと思うもの』に出会ったら、その道へ集中させてあげたい。


「ところで、レイドは此処で何してるんだい? 確か今日はゾン子のところで訓練してる筈じゃないか」

「うん。さっきまでいっぱい動いてたよ。今日も先生には、いなされまくりだったけど」

「ゾン子には手加減して戦うよう言ってあるけど、レイドが一本取る日はまだまだ遠いかな」

「むー」


 僕の左腕にくっついたまま、レイドは不服そうに頬を膨らませる。

 感情を隠さずに不平不満を表せるのは子供らしさであるし、種族の特性でもあるだろう。

 ローンウルフ族は、人型主体に狼の特徴を併せ持つ獣人系魔族だ。近縁種に虎系のワータイガー族、猫系のウェアキャット族、豚系のオーク族がいる。

 彼等は非常に嗅覚が鋭く、しなやかな肉体と俊敏さ、卓越した狩猟者としての本能が有名。武器や魔法の扱いは不得手だが、自身の手足、爪や牙を使った肉弾戦と得意としている。この辺りは闘鬼族とも通じる点か。

 素早い動きで確実に獲物の息の根を止め、その血肉を喰らうという野性味溢れる逸話も多い。反して性格は人懐っこく、お祭り好きで、騒がしく、開けっぴろげ。隠し事が苦手なら、偽ることも苦手で、じっと考えを巡らすことは大の苦手ときている。計画性がなく、本能に忠実で、後先考えない刹那主義者とも言える。

 群を作らず単独で活動するのが主流な彼等は、孤高を好む放浪者というイメージが根付いているも、実際にはかなり仲間意識が強い。一度受けた恩を忘れない義理堅さもある。ローンウルフ族は群を作らないが、共に行動せずとも仲間同士で強い絆を結んでおり、それを全員が確信しているという。なかなかに熱い魔族だ。


「とにかく、今日の訓練はもう終わったんだよ。沢山動いて汗かいちゃったから、これからお風呂なんだ」

「そうか、もうそんな時間か。最近は司令部で朝も夜もなく働いてたから、時間の感覚が狂ってたよ」

「そもそも洞窟の中だしねー。あ、そうだ! リーダーも一緒にお風呂入ろうよ! ボクが背中を流してあげる」

「折角の申し出だけど、まだ見回りの途中だからね。また今度にするよ」

「ちぇー」


 つまらなそうに唇を尖らせるレイドの頭を、空いた右手で撫でてやる。

 群青色の髪に手を置いてワシャワシャと動かせば、少年の顔はすぐ擽ったそうな笑顔になった。狼の耳はピンと立ち、尻尾はさっき以上に早く激しく左右へ振られる。


 ちなみにダンジョン内に築かれた風呂場こと大浴場は、あらゆる横穴や新部屋に先駆けて、最優先で増設した最初の施設となっている。

 それというのもルシュメイアを筆頭にクラニィとカリナの女性陣が結託し、強硬に求めてきたためだ。彼女達は大浴場の必要性を声高に説き、戦闘時以上の気迫を持って訴えてきた。その迫力と威圧感に押され、新設計画は彼女達監修のもと、最速でスタートしたのだった。

 いや、いいんだけどね。

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