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42話:洞窟ダンジョン化計画

 僕は支配体系種であるデーモン族。自らが統べる拠点を築き、配下となる魔族を集め、統治域を大きく成長させていくことを目標としている。

 蔓延っていた魔蟲や妖典族から洞窟を奪った後、その目的へ即しダンジョンとして拡張する方針を打ち立てた。

 拠点をダンジョン化させることは、侵入者への有効な対策となる。長く複雑で、罠などの危険が多くなればなるほど、踏み入る者は負傷し疲弊し、その果てに倒れていく。重要な深部域への部外者到達を阻み、道半ばで倒れればその者の持ち物も徴収が可能。

 防衛機能としての観点から、その意味は非常に大きい。これを実感したのは、かつて勤務していた魔王城だ。


 魔王城が壮麗で絢爛なだけの宮殿でなく、多種多様な罠の張り巡らされた大迷宮であれば、勇者の玉座到達を許さなかったかもしれない。或いは大いに手傷を負わせ、魔王様優位に戦いを進められたかもしれない。

 長い歴史の中で魔王城はいつしか攻め難い要害としてより、魔王の権威を明かす象徴としての価値が高まっていった。そのために外敵を阻む方法は、贅を尽くした豪奢さへと取って代わられている。

 その結果が侵入した勇者による短時間での突破だ。罠と呼べるものも碌になく、勇者を消耗させることが出来ていない。

 人魔戦役の最中だというのに、魔王城まで攻め込まれることを想定しない怠慢が、魔族軍敗北の一因か。

 この轍を踏まないため、僕は自身の拠点を難攻不落の巨大ダンジョンにすると決めた。


 しかし事は簡単といかない。

 洞窟の長さこそ申し分ないものの、入り口から一本の空洞だけで深奥へ通じている構造が、まずは問題。

 簡単に過ぎる道程は、当然ながら脅威とは成り得ない。求めているのは、複雑な分岐を設け、侵入者を大いに惑わせるものへ至る変化だ。

 そこで洞窟の拡張事業をプルルンに一任した。

 ウーズ族であるプルルンは、あらゆるものを取り込んで消化する強力な捕食能力を持っている。その力で洞窟内の岩盤を刳り抜いて掘り進み、新たな通路を増設する大役を与えている。

 この1年、プルルンは有能な働きぶりを示し続けてくれた。最初は正面一つしかなかった窟道も、今では十数本もの横穴を広げ、更にそこから複数へ分かれている。

 迷路として役立たせるためには各通路を極力同じ構造へ整え、差異のない等しさで侵入者の視覚を騙し、少しでも強く混乱を与えねばならない。そのため元からあった道と同じ大きさが横穴へも求められる。

 つまり高さも同等に作らねばならず、プルルンには相当な負担を強いることへなってしまった。それでも彼は文句を言わず、懸命に働き、こちらの求めへ応じてくれている。

 本日はそんなプルルンの様子と共に、作業の進捗状況を確認するべく、現在掘削中の洞穴道へと赴いた。


「やぁ、プルルン。頑張ってくれてるね」

「プル!」


 他の通路と違いのない高さを確保した、岩肌剥き出しの奥まった暗穴にプルルンは居る。

 緑の粘体を大きく広げ、硬い岩盤へ一面に張り付いて、勢いよく消化する姿は力強い。何度も同じ作業を繰り返すうちに彼なりの効率化が極まったようで、粘体の下からは消化作用によって発生する大量の白煙が昇っていた。


「クラニィから報告は受けていたけど、また一段と深く掘ってくれたらしいじゃないか」

「プルプル、プルルー」


 僕が声を掛けると、広げていた粘性の体を収縮させ、見慣れた楕円形に落ち着くプルルン。

 そのまま振り返ると岩床を跳ねながら、こちらへと近付いてきた。


「ああ、こうやって会うのは久しぶりかな。なかなか様子を見に来れなくて悪いね」

「プルプルー」


 僕の言葉に対して、プルルンは楕円の体を左右へ揺する。

 お互いの仕事を理解し、問題ないと言ってくれるあたり、話の分かるできた部下だ。

 僕は普段、洞窟奥地の旧妖典族敷設工房、現中央指令所に詰めて作業しており、殆ど其処から動かない。そのため配下達への指示伝達や情報共有、各々の働きぶりの様子見を、ダンジョン計画担当秘書のクラニィに任せっきりとなっている。

 中央指令所を離れて自分から皆の元を回ることは、一か月に一度あるかないかとなっていた。

 けれど最近はようやく仕事が落ち着いてきたので、配下達へ会いに行く頻度を少しずつ上げていけるだろう。

 クラニィからの報告で、皆が十分に働いてくれていると分かってはいる。でも僕自身が直接出向き、面と向かって労うことも重要だ。

 仕えている者が自分の行いを把握して、正当に評価してくれることは嬉しいし、やる気にも忠誠心にも繋がる。逆に誰にも見られず、働きに対して何も返るものがないと、意欲は低下し維持もできない。

 これは僕自身の実体験として、身に染みて感じてきたことでもある。だからこそ部下達の労には報いてあげたいし、そうせねばならないという思いがあった。


「作業は順調そうだね」

「プルルー」

「この調子で引き続き頼むよ。キミの頑張りはとても有難い。嬉しく思ってるんだ」

「プルップルー!」


 その場で軽快に跳ね弾み、気合満点で応じてくれる。

 意気高い熱意に感謝を抱き、僕も笑顔で頷き返す。

 最初に配下となってから、常に付き従ってくれているプルルンは、名実共にユレ・イグナーツ第一の忠臣だ。

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