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41話:秘書妖精クラニアム

 私がこの洞窟内でユレ様と出会ってから、じきに1年が経つ。


 妖典族に故郷を襲われ、魔導素材として攫われたあの日、これから自分の未来がどうなっていくのか、何もわからなくなってしまった。不安と恐怖に苛まれ、絶望的な気持ちで檻の中から外を見る日々。あの記憶を、感情を、私は生涯忘れることが出来ないだろう。

 それでも私の知らないところで様々な要因が絡み、動いたことで、結果的に私と、同じように捕らえられていた人達は自由を得ることになる。

 全てのきっかけは、ユレ様が極北大陸から無法境界線へと落ち延び、私達の囚われていた洞窟へ訪れたこと。


 妖典族が工房を築いていた洞窟へユレ様が訪れ、配下を獲得しながら進んでいく。その姿を、古代先史文明の遺産守護者が認め、遺産の継承者にしようと定めた。これにより継承候補者だった妖典族を見限った守護者は、彼等の壊滅を企図して巨大な魔蟲の女王を彼等にけしかける。その混乱で檻が壊され、脱出が叶った私は、拘束される他の人達の助けになってくれる誰かを探しに、洞窟の外を目指した。

 そうして、洞窟攻略を狙い奥へ進行していたユレ様達と出会う。


 ユレ様は、極北大陸を統べた魔王に付き従う大幹部、魔王四天王の一角を務めるデーモンマスターの御令息。

 魔王と四天王が『破陣の勇者』に討たれ、勤務していた魔王城が陥落したため、無法境界線に自分だけの新たな拠点を作りにやって来ていた。

 この洞窟を手中にすべく、ウーズ族のプルルンさん、死霊族のゾン子さん、氷華族のルシュメイア様、私を攫った妖典族の一員アルデさんを配下に従え、工房を襲撃しようとしていたところで、私と鉢合わせることになる。

 捕らえられている皆を救うため、私もユレ様一行に同道することを選んだ。

 その後、女王魔蟲との戦い、洞窟深層への落下、裏から糸を引いていた守護者との邂逅を経て、ユレ様は古代先史文名が遺したという『力』を継承することに。

 白い遺跡を越え、守護者に導かれ単身で不可視の異空間へと赴き、そしてユレ様は帰ってきた。


 何か目新しい物を持っていたわけでもなく、漲るばかりの魔力を宿していたわけでもない。私達と離れて異空間へ向かった時と、何一つ変わってはいなかった。

 御自身が授かった『力』に関しては口を閉ざし、誰に聞かれても語ることはない。代わりに一同を率いて上層の妖典族工房跡へ戻ると、洞窟内に蔓延っている魔蟲の掃討へ乗り出された。

 女王が倒れ混乱を極める魔蟲達は、既に多くが共食いによって減少していた。お陰でこれを破るのは難しくはなく、程なくして洞窟の安全が確保される。

 その段となり、古代文明の守護者シラユキさんは、異空間に匿っていた妖典族の犠牲者達を解放してくれた。私と同じように捕らえられていた人達。皆が無事で、ようやく私は心から安堵できたことを覚えている。


 洞窟の制圧が完了した後、ユレ様は深層部遺跡への立ち入りを禁止され、其処へ通じている大穴を封じられた。シラユキさんは変わらず遺跡の守護者として、ただ一人深部領域へ残されている。

 これはシラユキさん自身の進言でもある。守護者としての役割以外は何もする気はないと仰っていた。

 一人だけ深い洞窟の底に居て、姿を見かけることはないのかと思ったら、そうでもない。シラユキさんは空間に裂け目を作り、異空間へ自由に出入りできる古代魔法の使い手。だから異空間を介して何処へでも渡ることが可能で、洞窟内でも何度か出会う機会はあった。

 守護者業務の一環として、一応の見回りをしているらしい。


 シラユキさんのように、ユレ様配下の皆さんはそれぞれへ役割が与えられ、洞窟の要所要所で任された作業を行うこととなった。

 ユレ様は妖典族の築いた工房跡を改修して、中央指令所を作り、全体の統括を始めている。

 囚われの人達が解放された時、私は本来の目的を達成した。私達を攫った妖典族は滅び、皆も自由になったことで、ユレ様達と行動する理由はなくなった。

 けれど私には帰る場所がない。

 ずっと暮らしてきた無法境界線の深森、そこで一番古く立派な霊樹に作られていた私達の集落は、魔導素材を求める妖典族の強襲を受けて焼き払われている。

 争いを好まない妖精達は多くが逃げ出し、そうでなければ私の様に掴まってしまった。あの日、大切な霊樹は失われ、仲間達も散り散りになり、私の故郷は消えて何処にもない。

 囚われの人達を救いたいと思ったのも、皆が不憫だったから。不当な暴力が許せなかったから。そして何もかもを失ってしまった私は、ささやかな繋がりだけでも護りたかったから。

 だからこそユレ様が『このまま僕の元へ留まり、力を貸してくれないか』と言って下さったのが、とても嬉しかった。

 申し出を断る理由は何処にもない。すぐに受け入れて、正式にユレ様6番目の配下となった。


 私は小さな妖精族。他の方々のように、体を使って作業をするということが、とても不得手だ。

 直接的な力にはなれない。

 そんな私はユレ様によって、洞窟ダンジョン構築の計画担当秘書へ任じられた。ダンジョンの開発・拡張を話し合い、必要な物資や人材を算出し、その確保手筈を整えるのが主な仕事。それから各部署を巡り、新しい方針や計画、ユレ様の指示を作業代表へ伝え、円滑な運営を促すのも大切な職務になる。

 この凡そ1年間、私はユレ様の秘書として、忙しくなくも充実した日々を送ってきた。

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