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4話:第一配下プルルン誕生

「大丈夫かい、プルルン。気をしっかり」

「プ、プル~」


 両手で抱え上げて語り掛けると、か細い声が返ってきた。

 黒焦げた体に張りはなく、さっきまでの柔軟ぶりが見る影もなく硬くなっている。

 傷は深く消耗も激しい危険な状態だ。辛うじて命は失っていないけれど、このままじゃ保たないだろう。

 打ち倒したあとは配下に加えて働いてもらうつもりだったから、ここで死なれるのはまずい。


「たおやかな癒し手よ、生命の煌めきを求めるものへ与え給え」


 今度詠唱するのは治癒の法韻。僕から渡る魔力が淡い燐光となり、命の漲りに変じてプルルンへと注がれていく。

 肉体を賦活させる新たな生命力が流れ込むことで、爪痕の傷がたちまちに塞がり、焦げ付いた体も緑色を取り戻していった。

 両手に届く岩のような感触も、治癒魔法が働くことで潤いと柔らかさを吹き返す。

 数秒間の治療を終えれば、プルルンは戦う前と同じ状態にまで回復できた。


「プル? プルルルプルル!」


 自分の体調が完全に戻ったことへ気付き、プルルンは僕の腕から跳ねて飛び出す。

 洞窟の底面に着地すると、再度確かめるように二度三度と上下へバウンド運動を繰り返した。

 弾みをつけて動く度、粘質体の緑色が滑らかに揺すられ、直前までのダメージはまったく感じられない。

 満足して落ち着いたところで、改めて楕円形に自分を変えたプルルンが、物問いた気に僕を見上げる。いや、顔はないんだけどね。


「プルプル、プルルル」

「元気になって良かったよ。お礼なんかいいさ。僕の魔法でボロボロにしちゃったわけだから」

「プルルル、プル」


 どうやらプルルンは今まで、治癒魔法の類を誰かに施してもらったことがないらしい。確かに群れず単独で生きているウーズ族なら、そういう場合も考えられる。

 だからこそ生死の境を彷徨っている状態から、元通り復活できたことが衝撃的だったようだ。思った以上に感激してくれている。

 いきなり襲い掛かってきたことも素直に謝罪しているし、根は素直な子なんだろうな。


「なにはともあれ、僕の力は分かってくれたと思う。食べ物にはなってあげられないけど、まだ続ける?」

「プルプル、プルー」


 ちょっと意地の悪い質問だけど、彼の選択を明確に知っておきたい。問えばプルルンは全身を左右へ振って、とても分かり易い否定の意思を示した。

 続いて転がりながら僕の足元まで近付くと、緑の体を擦り寄せてくる。

 殺されかけた後に生き戻されたことが大きかったのか。抵抗する意思は完全になくなったようだ。


「だったら喧嘩は終わりだね。お互いさっきの事は水に流そう」

「プルプルー」

「でだ、話を変えるよ。僕が住む場所を探してるってことは言っただろ。それでこの洞窟にやって来たって」

「プル」

「僕はね、此処を自分の物にしたいんだ。でも一人じゃ難しい。そこでキミも協力してくれないかな」

「プルル?」

「具体的には僕の配下となり、与えた命令に従って働いてもらいたい。僕を主と認めて、キミの力を僕の為に尽くして欲しい。どうだろう?」

「プルル! プルプル、プルー!」


 プルルンは僕から少し離れると、さっき以上に勢いよく飛び跳ね始めた。

 力強く了承の決意を表明し、僕の力になると誓ってくれる。

 曰く、貴方は強い。強い者は弱い者の生命を自由にできる。貴方を襲い、負けた。殺されても仕方ない。けれど貴方は命を救い、力を借りたいと言ってくれた。強い者に求められる、とても嬉しい。強い者に望まれる、とても誇らしい。恩顧に報いる。力の限りお役に立つ。

 とのこと。

 己の力で証し、勝つことで欲しいものを得る。それが魔族の流儀だ。

 プルルンが僕に勝っていれば、彼は僕という食料を手に入れていた。僕が勝ったから、彼という部下を手に入れた。

 シンプルで、それ故に覆し難い生命のルール。

 求めるを手中に収め、まず一歩、僕は進むことができた筈だ。


「よし、決まりだね。これからよろしく、プルルン。キミの活躍に期待しているよ」

「プルプルー!」


 着地と同時に楕円形へと変化して、やる気十分な良い返事をくれる。

 戦力として大きな活躍は見込めないだろうけど、彼個人の持つ能力は他者にないもの。行動の幅を広げる面に於いては掛け替えが無く頼もしい。


「さあ、洞窟の奥を目指していこう。なにはなくとも、まず陣地の把握が大切だ」

「プルル」


 変わることなく機能している照明魔法で進路を照らし、僕達は歩き始めた。

 プルルンは僕の隣を跳ねて弾んで付いてくる。彼にとっても未知の領域だろうけど、特に怯えている様子はない。ウーズ族にしてはなかなかな冒険心の持ち主だ。

 依然として一本道なので進み方に迷う事もなく、暗闇だけが支配する洞道を、僕達は真っ直ぐ行く。

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