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37話:帰還と再会

「評価されるのは悪くないけど、過大に期待されるのは、ちょっとね。そもそも僕が握った力に溺れて暴走したらどうするんだか」

「守護者の責務に於いて、貴君を滅殺する。いかなる手段を用いてでも」


 何の気なしに放った問いへ、冷厳な即答が返ってきた。

 僕を持ち上げているようでいて、実際は自身の仕事が第一義。

 個人の持つ意味に頓着しない透徹さが、はっきりと伝わってくる。


「質問は尽きた頃か。なら次はこちらへ答えてもらいたい。ユレ・イグナーツ殿、継承者として、私達一族が代々守ってきた『力』を受け継いで欲しい」


 相対するシラユキからの求めは、こちらの意思を尊重した嘆願の形をしている。

 しかし実際には強制と同じだ。

 シラユキが僕だけをこの異空間に連れ込んだ理由が、今なら分かる。横から皆に口出しさせないためでも、他言無用の秘密を打ち明けるためでもない。

 僕が自ら首を縦に振り了承しない限り、外へ帰さないためだ。

 奴は邪魔と見れば一時認め肩入れした相手すら、簡単に切り捨てることを自分から話して聞かせた。目的のためなら手段は勿論、他者の尊厳や生命さえ考慮せず叩いて潰すのだと、正面から教えてきた。

 最初から交渉するつもりなどないのだろう。僕の想いや考えなど斟酌していない。

 自分の役割を恙なく進めることだけが目的なんだ。そのことを僕に分からせるための対話だった。選択肢は無いのだと。


 まさかルシュメイアにやったことを、ここでやり返されるとは思わなかった。これも因果応報というやつか。

 退路を封じられた段から相手に誘導されるのは納得いかないけど、魔力結晶体という『力』は確かに魅力的だ。向こうがくれるというのなら、有り難く頂戴しよう。


「分かったよ。継承者だかいうのになる。キミの提示する『力』を貰おう。これでいいかい?」

「快諾に感謝を」

「よく言うよ。それで、僕は何をすれば?」

「特別なことは何も。遺跡の路へ戻り、奥に進んで『力』へ触れてもらえれば、それで結構」

「そうかい。なんにせよ戻れるってことなら朗報だ」

「では、参ろうか」


 シラユキが徐に右手を上げ、それを縦に振り下ろす。

 それによって腕の軌道へ沿う形に、空間へ裂け目が発生した。引き込まれた時と同じ大きさの割れ目は、さっきと違い向こう側へ白い通廊が窺える。

 これを潜ればいいということだろう。


「最初の地点に繋げてある。遠慮なくどうぞ」

「これ以上の騙し討ちはないだろうね?」

「はて、騙し討ちとはなんのことか。対等な立場での話し合いしか行ってない筈だが」

「はいはい、キミの中ではそーいうことね。まぁいいけど」


 とぼけてるんだか、本心なんだか。

 灰鎧の所為で表情から何から一切分からない言葉へ肩をすくめ、僕は眼前の裂け目へと踏み出した。

 開けられた扉を潜る様な簡易さで、見えていた世界の情景が一変する。蒼黒い煌めきは消え、白色で四方が設えられた長い通路の只中へ戻って来た。

 両足が硬い床面を踏んだ時、後ろから幾つもの気配と足音が駆け寄ってくる。


「プルプルプルー!」

「ヴ……ヴ……」

「我が主、戻ったか」

「いきなり攫われてしまうとは、しようのない奴め」

「ユレ様、御無事ですか?」


 皆の声に振り返ると、丁度床を跳ね飛んだプルルンが、僕の胸に激突してきた。

 衝撃で一瞬息が詰まったものの、球状になっている緑の粘体を両手で抱える。するとプルルンは僕の手の中で、嬉しそうに左右へ振るえた。


「やぁ、ただいま。こっちに怪我とかはないよ。ちょっと心配をかけたかな?」

「プルプルー!」

「ヴ……ヴ……」

「突然消えてしまったので、とても心配しました」

「我が主なら、どうにかして戻ってくるだろうと思っていた。然したる不安はない」

「妾の与り知らぬところで勝手に死なれては、主従契約の魔法が解けぬからな。生きたまま戻ったことに安堵しておるわ」


 投げかけられる思い思いの言葉に、微笑ましい気分になったり苦笑したりだ。

 一つほっとしたのは、僕が姿を消した後も全員がこの場に留まり、待っていてくれたこと。

 ゾン子とルシュメイアは魔法効果で逃げられなかったとしても、プルルン達は別段行動を縛っているわけじゃない。アルデなんかはいつでも僕を見限れただろうし、クラニィにいたっては一時的に同道しているだけで配下ですらないのに。

 それを思えば様々な成り行きで従う形になっている皆とも、それなりに絆が結ばれているんだと実感できる。この点は単純に嬉しい。


「感動の再会は済んだかな」


 高音と低音の重なる独特な声が、全員の耳朶を打った。

 プルルンを床上へ放しながら視線を向ければ、僕の正面方向で空間が裂け、中から特徴的な灰銀の鎧が通り抜けてくる。

 この場に姿を現したシラユキを見て、一同は素早く戦闘態勢へ移行した。いつでも飛び掛かれるように跳ねるプルルン、魔力を結集して氷剣を作り出し構え取るルシュメイア、全身の魔力を触腕へ集め始めているアルデ、厳しい面持ちで精神集中へ入っているクラニィ。ゾン子だけは僕の指示がないため、何処も見ていない眼でボーッとしている。

 そんな面々を前にしても、シラユキ自身は悠然と立ったままだ。一切の身構えを見せないことで、抵抗の意思がないことを表明しているのだろう。

当作品を読んでくださってありがとうございます。

ブックマークや評価を頂けて、大変嬉しく、励みになっております。


当作は連載開始以後、一日一話投稿を心掛けてきましたが、木曜と金曜は仕事都合により執筆時間が取れないため、明日明後日は休止となります。

土曜から再び投稿を開始致します。

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