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25話:役割分担

「皆、聞いてくれ。ルシュメイアの準備も出来たところで、魔蟲退治へ向かうとしようか。工房組の妖典族が一方的にやられたとは思えない。相当に抵抗しているだろうから、相手は手負いの筈だ。正面からの総力戦で叩き潰そう」

「プルプルー!」

「ヴ……ヴ……」

「了解した」

「ふむ、よかろう」

「あの、すみません」


 配下達から順番に了意が返ってきた時、最後に妖精ちゃんが声を上げた。

 意を決した面持ちで、翡翠色の瞳を真っ直ぐに僕へと向けてくる。


「どうかしたかい?」

「私も、一緒に戦わせてください。囚われた人達を救うために、私も協力したいんです。皆さんの邪魔にはならないよう努めます。ですからどうか、お願いします」


 強い覚悟で光る眼差しと、揺らがない意志の宿った声。確固とした信念を伴う懇願は、彼女の本気を十分に感じさせた。

 妖精ちゃんの申し出は意外じゃない。彼女の性格からすれば、僕達に付いて戦うことを選ぶだろうとは思っていた。

 やる気になった妖精族の魔力は利用価値が頗る高い。使えるものはなんでも使うのが僕の主義。こちらとしても戦力増強は望むところだし、彼女自身が戦いたいというのなら断る理由なんかない。存分に働いてもらおう。


「改めて言う必要もないと思うけど、これから僕達が挑むのは食うか食われるか、生きるか死ぬかの戦いだよ」

「はい。分かっています」

「はっきり言って、かなり危険だ。下手を打てば無惨な最期を迎えるかもしれない。或いは死ぬより辛い目に遭うかもね」

「覚悟のうえです」

「そうか。キミの意気は伝わった。なら手を貸してもらおうか」

「はい、ありがとうございます!」


 妖精ちゃんは歯切れの良い感謝を告げて、大きく頭を下げてきた。

 真面目で一本気、しかも素直だ。どこぞの氷華族と違って可愛げがある。

 肝も据わっているし、恐怖に負けない胆力も気に入った。


「一緒に行くなら自己紹介しておこう。僕はユレ・イグナーツ。この一党のリーダーだ」

「私はクラニアムと申します。クラニアム・ポトロフです。親しい人にはクラニィと呼びれています。ユレ様も皆さんも、そうしてください」

「ああ、分かったよ、クラニィ。それじゃ順番に紹介していこう。彼がウーズ族のプルルン」

「プルプルー」

「よろしくお願いします」

「彼女が闘鬼族から死霊族となったゾン子」

「ヴ……ヴ……」

「死霊族の方ですか。初めて御会いしました」

「彼は妖典族のアルデ。前は敵だったけど今は味方だ。すぐ慣れろというのは無理だとは思うけど、安心していいよ」

「主の命に背きはない。故に敵対の意思はないことを表明しておく。確執を拭い去れないとしてもだ」

「……はい」

「ルシュメイアは既に紹介を終えていたね。彼女は氷華族だ」

「無理をするでないぞ、小さき者――いやクラニィよ」

「ありがとうございます」


 一人一人へ順繰りに挨拶していくクラニィは、プルルンとルシュメイアへ好意的に受け入れられている。

 何も考えてないゾン子は無反応。まぁ、これは仕方ない。

 加害者と被害者という関係上、アルデとの空気感が重いのは、これも止む負えないところだろう。

 アクの強い連中だけど、クラニィの協調性なら共闘に問題はないと思う。


「妖精族なら魔法の心得はあるね?」

「はい、あります。やれることは何でも致しますから、遠慮なく仰ってください」

「なら後方で支援に回ってもらおうか。回復や防御魔法で皆を助けるんだ。最優先すべきは前衛組。補助魔法で能力を底上げし続ければ、継戦力が各段に上がるからね。後方支援が一人居ると居ないじゃ、全体の強さが大きく変わる、重要なポジションでもある」

「かしこまりました。全力で皆さんのサポートを行います」

「よし。プルルン」

「プル!」

「キミはクラニィの傍に付いて彼女の護衛へ徹してくれ。相手は魔蟲の女王、下位の魔蟲を操る可能性は大きい。そいつらが後ろから襲撃してくる場合に備えるんだ。クラニィを援護しつつ、戦場での挟み撃ちを防ぐ。そしていざという時の退路も確保し続ける。けして気の抜けない役回りだ、任せたよ」

「プルプル、プルル!」

「ゾン子は最前線で攻撃へ注力するように。周りの事は気にしなくていいから、目の前の女王撃破へ集中するんだ。キミが攻めの要となる」

「ヴ……ヴ……」

「アルデは僕との戦いで範囲系魔法ばかり使っていたね。そっち方面が得意という認識でいいかな?」

「ああ、その通りだ」

「じゃあ相手と距離を取り、範囲魔法で連続的に畳みかけてくれ。『点』でなく、徹底的に『面』で攻撃するんだ。女王が巨体なら何処を狙っても命中させやすいだろう。損傷を与え、出血を強いれば、次第に敵の気勢も衰えていく。一撃必殺が無理でも、時間が僕達の味方をしてくれるだろう」

「気長に事へ挑むのは、妖典族の得意とするところだな。我が主の采配に従おう」

「ルシュメイア、この中で最も強いのはキミだ。今までの鬱憤を晴らす絶好の機会だろ。遠慮も容赦も無用だから、最大火力で敵へ当たってくれ。攻撃方法は任せる。キミとゾン子がアタッカーのツートップだよ」

「彼奴等の弔い合戦などというつもりは一切ない。が、囚われた者達の心情を思えば捨て置くことなど到底出来ぬでな。窮状にある魔族を助くるは王血の務め。妾の力を見せてくれるわ」

「僕は状況を見て臨機応変に動くよ。各々の奮戦に期待する」


 全員へ行動方針を指示し終えた後、改めて各自の顔を見渡した。

 緊張と決意を等分に、深呼吸を繰り返すクラニィ。緑の粘体を震わせてウーズ族的な柔軟体操に余念のないプルルン。相変わらず何処にも焦点を合わせず、低く呻くばかりのゾン子。無感情に精神統一を行うアルデ。溢れんばかりの戦意を燃やすルシュメイア。

 得体の知れない大型魔蟲と行うことになる決戦を前に、誰も怖気づいていない。やる気十分なのが頼もしい。

 彼等となら敵を討ち取り、工房の奪取と、洞窟の掌握が可能だと思う。僕の目的へ大きく近付く重要な一歩が、これから始まるんだ。


「それじゃ、行くとしよう」

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