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21話:出撃直前

 ルシュメイアとの主従契約を完成させた後、アルデの先導で僕達は洞窟を奥へと進んでいく。

 アルデの後ろにルシュメイア、次にプルルン、僕、最後尾がゾン子という隊列だ。

 依然として道筋は一本のみ。分かれ道は一切ない。長く長く続いてこそいるけれど、とてもシンプル。侵入し易く、出るのも難しくない。逃げ出したルシュメイアが、暗闇の中で迷わず辿れたのも納得する。

 僕が洞窟の支配権を確立した後は、侵入者対策で横穴や別道を作っていこうか。一本道に大量の罠を仕掛けておくのも、効果的ではあるけどね。

 横幅の拡大は更に続き、入口付近と比べても明らかに広くなっていた。それだけ深部空間が広大になっている様子だ。複数の妖典族が籠る工房というのだから、深部は相当な広さなのだろう。

 歩ける範囲が大きくなり、道を塞ぐ障害物は殆ど気にならなくなってきた。とは言え目立った岩塊などは見られない。天井が頑丈で崩落も発生していないし、中は変動がないために、一度片付けてしまえばそれで事足りるということか。


「キミ達が洞窟の道を整理したのかい?」

「いいや。先住していた魔蟲達が往来の邪魔になるものを動かしていたようだ。我々が従えてからは、特に何もやらせてはいないのでな」

「キミ達だって資材の運び入れはするだろうに」

「それも随分と昔のことだ。一度工房を整えた後は、転移機能の与えられた魔導器で内外を行き来していた。そのためこの通廊はまったく使っていない」

「どうりでゾン子やプルルンとキミ達が出会ってないわけだ」


 話している間にも進行は続き、素の暗さは夜の闇より尚濃いものへ変わっていた。

 照明魔法がなければ、自分の鼻先さえ分からないほどだ。

 妖典族の複眼は、闇の中でも問題なく見えるらしいけど。


「そろそろ近い。我が主は、この辺りで待っていた方がいいだろう」

「分かった」

「ふふん、ようやっとこの時が来たか。不遜の輩共めが、その罪に見合う代償を払わせてくれる」


 アルデの停止指示で、僕達は歩を止めた。

 いよいよ迫る解放と復讐の機会に、ルシュメイアは不敵な笑みを浮かべている。

 溜りに溜まったストレスを、ここで爆発させる気満々だ。彼女のやる気は十分過ぎるほど伝わってくる。

 一方でこれから元の仲間達を襲撃することになるアルデは、戸惑いも罪悪感も何一つ感慨など抱いていない風。例え長年行動を共にした同族であろうとも、自分にとって利益を生む対象でなくなれば、そこに関心は生じないと。

 情味に左右されない合理性は、この状況だと有り難い。


「再確認するけど、アルデを後ろから撃ったりしないように。それから他の妖典族は動けないようするのはいいけど、命までは奪わないこと。ことが終わった後に配下へ加えたいからね」

「分かっておる。本心を言えば一人残らず始末してしまいたいがの。まぁ、生かさず殺さずで痛めつけるのも一興じゃ」

「本当に分かってるんだか」

「我は魔導器確保へ専念する。自身の仕事が終わるまで手は貸せんので、そのつもりでいてもらおう」

「貴様の助けなど不要じゃ。魔力さえ戻れば、妾一人で片してくれるわ」

「プルルン、首輪を壊した後は状況次第で自由に動いてくれ。キミは遊撃役だ」

「プルルルー」

「それじゃあ、透過魔法をかけようか。あんまり激しく動くと解けてしまうから、行動は慎重にね」

「プル!」


 各自への確認事項を終えた後は、プルルンへ魔法を施すべく魔力を練った。

 指先に魔力を集め、緑の粘体表面へ文字を書き付けるように動かし始める。

 その直後だ。突然、洞窟全体が大きく揺れた。

 地の底から来る震えとは違う。何か大きな力が洞窟の奥で炸裂し、その衝撃が伝わってきた感覚。上下ではなく左右への激震だった。

 岩肌の洞内が鳴動し、僕達を包む世界全体が絶叫したかのよう。


「うわっ、なんだ!?」

「む」

「キャッ!」

「ぷるるるる~!?」

「ヴ……ヴ……」


 強烈な響きは空洞内全域を揺さぶり、僕達は態勢を崩してしまう。

 アルデも僕もルシュメイアも、その場で倒れることを防げなかった。

 無事だったのは、凄まじい体幹の維持力でやり過ごすゾン子だけ。プルルンなんかは揺れに合わせて盛大に粘性体が前後し、広がるやら弾けそうになるやら、大いに乱れてしまっていた。


「――っ、止まった、か?」


 歯を食い縛り、岩床に伏せてしばらく。続いた大揺れは徐々に弱まるでなく、ピタリと止まった。

 始まった時と同じ、前触れのない唐突さ。

 余震が引き続くこともなく、暗黒の静寂が戻ってくる。


「皆、無事かい?」

「うむ、大事ない。それよりなんじゃ、今のは?」

「こちらも問題はない。が、気になるな」

「ぷ~る~る~る~る~」

「ヴ……ヴ……」


 足場の安定を確かめる中で、皆にも声を掛けた。すれば岩壁に手を添えて立ち上がりつつ、各々がすぐに返事をくれる。

 倒れた拍子に怪我をしたということもなさそうだ。プルルンは衝撃の余韻か、今も粘体がグネグネ動いてるけど。

 洞窟自体に崩れた形跡はない。取りあえず直近で僕達へ弊害はないものの、安心できる状況には遠い。

 明らかな異常事態は、ゾン子を除く全員の顔にさっきまでとは違う緊張感を帯びさせている。

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